栄えある空虚に完美な祝福を

佐々木 ナガレ

第1話 ˹ホラ貝˼

唐突だ。とても唐突だとは理解している。だが、言いたい。

誰がそこに置いたんだ。全く...やめてくれ、

僕は今彼の代役で反省し、丸い机を囲んでいつも通り話し合っている。

今日の出来事も、祝杯をあげるにはほんの一瞬の出来事でしか無いのだろう。



数百年続いた戦争は十数年前にあっけなく終わった。

数百年前の人間や脅物キョウブツにとってどれだけ重要な戦争だったのか想像しえないが、正直今の自分達にはどうでもいいものだ。

脅物と呼ばれるもの。目に映るもの全てを破壊する意思のみを持つ生物だ。そんな脅物と人間が国の支配権をめぐって争っていたらしい。

支配権は、今もどちらも持てていない。支配権自体誰も持っていない。

そう、人間も脅物も決着がついたわけではないのだ。

ではなぜ戦争が終わったのか。

戦争が終わる数週間前、人間と脅物の間に子供が生まれた。戦いあっている人間と脅物の間に...。

正直、誰もがみんな支配権を得るために戦っていたわけでは無かった。生まれた時からみんなが戦っている。だから自分たちも戦わなければならない。そういう流れに乗って戦ってきた。そもそも支配権の存在を知らない人も多いだろう。

そんな中で子供が生まれる。少なくともこの子供の親である人間と脅物の間には愛があった。戦いの意思なんて無かったはずだ。愛を持てる関係の種族とどうして戦わなければならないのか。戦いの目的を知らない両者は手を止めた。

この子供は後に混合種と呼ばれる種族になるのだが、とにかく混合種によって戦争は無事に終わりを迎えた。



「それさー、何回聞いてもよくわかんねえんだよなー。」

机に置いてあったパンを食べながら男が首を傾げる。少し赤みのある茶髪に青い目。左だけ半袖なのは彼にとってのおしゃれらしい。

「どの辺がです?」

屋内だというのに背中に大剣を背負っている男がつられるように首を傾げる。青い目の男は反対側に首を傾げながら返事をする。

「脅物は意思を持たないんだろ?なのになんで人間を好きになるんだ?

俺が馬鹿だからわかんねえのか...」

「それは前にも教えましたよ、ごく稀に人間の様に意志を持った脅物がいるそうです。見た目も人間そっくりらしいです。

3回くらい同じ事教えた気がしますね...懸巣カケスくんは馬鹿です、そこには同意です」

そう言うと男は椅子に座り、パンを食べる。

「そうかー、脅物もすげえなーー!!」

脅物は様々な動物の容姿を持つ。

「お前、今まで散々脅物見てきただろ」

そこへ、布団をかぶった黒髪男登場。

「そうだけどさ、面白いだろ?脅物って

なっ琥瑠璃コルリさん!!シギに帽子の話してやってよ!!」

鴫は面倒臭いと言わんばかりに布団を深くかぶる。そんな鴫を見て苦笑いの琥瑠璃。

「帽子の方の話はまた今度にしましょう。今日はこれからやることがたくさんあるんですから」

琥瑠璃は鴫にもパンを渡す。鴫はのそのそとかぶっていた布団から出てくる。

「は!?何するんだ!!?脅物退治はもういいぞ!」

「よくない。脅物は倒さないと増え続ける。数を一定に保ってなきゃ死ぬぞ」

「死なねえよ!!あんなやつに殺されるか!」

「さっきまで脅物にすげえなーとか言ってた口がどんな言い草だよ...」

「鴫くんの言う通りですよ、懸巣くん。みんな死んじゃいますよ?

僕達はせっかくの戦闘派なんですから、戦闘しましょうよ戦闘!」

琥瑠璃は力強く戦闘を連呼する。琥瑠璃は戦う事が大好きらしい。

──戦闘派。物事の方針を戦って決める。たった一つのドーナツは、戦って勝った者の物だ。

「そうだ!俺達は戦闘派だー!!!よーーしっ、やるぞー!!!」

懸巣は急に叫ぶと残っていたパンを一気に食べる。鴫と琥瑠璃の分のパンは一瞬にして姿を消した。

「俺、準備してくる!!」

一瞬でパンを腹に収めると懸巣は自分の部屋へ走っていった。戦闘派の人々は四階建てのマンションに住んでいる。少し改造して、一階をロビーのみにしたり地下に物置部屋を作ったりしている。マンションの各部屋一つ一つが一人一人の部屋になっているのだ。

「さて、鴫くんも布団を置いてきてくださいね」

琥瑠璃は鴫の布団を綺麗に畳む。鴫は琥瑠璃に浅い礼をして布団を部屋に持っていった。




ブォォォオオォーー ブオオー

「な、何の音です!!??」

琥瑠璃は突然聞こえた大きな音にびっくりして手に持っていた大剣を落としかける。

「おい懸巣、うるさいだろ。頭に響くからそれ吹くな」

「これすげえぞ!!鴫もやってみろよ!」

「やらねえよ」

琥瑠璃の元にやって来たのは懸巣と鴫。支度を終えてロビーに戻ってきた。他の戦闘派達もロビーに集まっていた。

「琥瑠璃さん!これ見てくれよ!すげえんだよこれ!!」

懸巣は貝のような物を琥瑠璃に見せる。廊下に落ちていたそうだ。

「それは...」

琥瑠璃は貝のようなものを受け取ると、じっと眺めた。どこかで見たことがあるのだ。

「流石戦闘派頭首!」

戦闘派のリーダー。それは琥瑠璃である。

「これ、本当に廊下にあったんですか?」

「うん。落ちてた」

「これ、吹いちゃいました?」

「うん。すっごい音した」

「...」

「...??」

琥瑠璃はその質問を最後に黙ってしまう。少し顔が青いのは気のせいだろう。きっと。

「頭首!!!!!」

戦闘派の1人が走ってロビーにやって来る。すごいスピードで走って来る。

「どうしました?」

「脅物が!すごい数の脅物が!!この建物に向かってやって来てます!」

...!!

ロビーが静まり返った。

「よしっ!!!戦闘開──」

「待ってください懸巣くん。君に言わなければならない事があります」

景気良く戦闘宣言をしようとした懸巣だが琥瑠璃に遮られてしまう。

「...なんだ?」

「懸巣くんが見つけて吹いたこの貝、これは「ホラ貝」です」

「「ホラ貝」...?」

懸巣は初めて聞いた「ホラ貝」に首をかしげる。

「長々話している暇は無さそうなので簡潔に言います。これを吹くと脅物が音に反応してやってきます。すごい量で、すごい速さで」

「え...」

つまり、先ほど懸巣が「ホラ貝」を吹いた事によって建物に向かって脅物がやって来てしまっている、という事だ。

「ごめんなさい!!俺責任とる!責任とって全部倒してくる!!!」

懸巣はそう言うと走ってロビーから出て行った。

「あっ、ちょっと懸巣くん!!?全部倒してはいけませんよ!?今回の討伐数は...って行ってしまいましたか...」

「俺行って止めてくる。懸巣なら冗談でも全部倒すはずだから」

鴫はそう言うと懸巣を追いかけていった。

「せめて討伐数を聞いてから止めに行ってくださいよ...今回は100体ですよ...倒していいの...」

これはだめだ、絶対怒られる...。

琥瑠璃は静かにそう悟ると大きなため息をついた。

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