9話 「最強のパラディンとヒーラー」

 『そのお前のおちょくるような話し方はいつになったら変わるんだよ』

 「あはは。私は君に対してこの話し方をするのは結構気に入っているから、君と話をし続ける限りいつまでもこのままじゃないかな」

 『うわ、そんなの嫌なんですけど』

 「かと言ってじゃあ、私がみんなの前で話すような普通の女らしい話し方に突如変えたとしたら?」

 『それも……嫌だな。なんか』

 「そうだろう?」

 確かにこの話し方を彼にしだしてからもう何年が経つだろう。彼に対してだけしかこのような話し方は出来ないのが、逆に彼にはこの話し方しかできずに普通の話し方がいつの間にか出来なくなってしまった。

 多分普通の話し方をすると恥ずかしいし、そういう話し方をするということはきっと彼と距離感が出来てしまったことを意味するであろう。

 そんなことに耐えられるわけがない。彼とはずっとこの距離感でいたいもの。

 「と、いうことでいつまでも私のこの話し方は変わらないのさ」

 『へいへい。もうそれでいいですよっと』

 ここ最近、彼とは電話で話す回数がとても増えたと思う。それは単純に彼が電話をかけてきてくれる頻度が上がっていることを意味している。

 高校時代、私は彼に告白をされた。

 「誰よりも俺が君のことを知っている。君のいいところも悪いところも知っているからきっと君と……」

 そんな彼が言葉を色々と必死に考えながら告白してくれたのを振ってからというものの、彼との距離感は間違いなくできたのだがここ最近になってやっとその出来事も笑って流せるようなことになるぐらいにはお互いに気にせず話せるようになってきたのかなと思う。

 「今日はどうしたんだい?」

 『いや……特になんとなく連絡してみただけ』

 「おおう、ここ最近君からのセクハラが多いな。SNSで私のことを見れるようになってきてからあれだけじゃ物足りなくなってきたのかい?」

 『そうじゃなくて、なんというか……。まぁこうやって電話でちゃんと声でやり取りするのもいいなって思ってな』

 「ふふ、そうかそうか」

 やっとここまで戻ってこれた。いつものように健斗と私が普通に話せるようになるこの関係にまで。

 正直もうだめなのだと思った。あのような約束、ただの断るための都合のいい理由だと思われていたって仕方がないのだもの。彼が私のほうを向かなくなった時点で終わりだった。

 でも、私は諦めずに定期的に電話をかけて今までのようにおちょくったりし続けてきた。

 それがやっとここ最近になって実を結んだ。今まではこんなことをしていても何も変化はなかったし、もしかすると彼のほうに良い変化があったのかもしれない。色々と友達と過ごすためには~みたいなことも聞いてきたしね。

 『随分と嬉しそうな反応をしてくれるもんだな』

 「そりゃそうだろう? 私の最強頼りにしているがだんだんと気力を復活させてきてくれているようなんだからな」

 『お前……。まだその設定こだわっているのか。ほかの人の前でだけは言うなよ? マジで恥ずかしいから』

 「何をいうか。私は大まじめだ。私は後衛で君を支え、君は向かってくるあらゆる障害からすべてを守る騎士パラディンなのだから」

 『……聞いているだけで恥ずかしいよ。ヒーラーさんや』

 「そう言いつつ、付き合ってくれるところが好きだぞ?」

 『そんな言葉に惑わされる俺は過去に捨てましたよ?』

 この他愛のない会話。失ってしまっていたと思ったこのかけがないの無い時間が戻ってきている。

 それが嬉しくてついついいつも彼との話は長引いておちょくる勢いもだんだんと強くなってしまう。

 『うるせぇぞ! もう切るからな!』

 「はいはい。またかけてきておくれよ?」

 いつものように年齢の低い子供たち対象のアニメのようにちょっとした悪いキャラのようにいつも同じようなセリフを吐きながら彼は電話を切る。

 きっと電話の前では私に振り回されていろんな表情をしているんだろうなって思うだけで面白い。

 ずっと家族以外で一番よく見た顔だ、どんな表情をしているか予測は容易にできてしまうためになおさら面白い。

 私が教室に戻ると、また視線が集まる。私は気にせずにいつもの席に戻る。友達がちょっと引き気味に話しかけてくる。

 「り、梨花どうしたの? あんなに急いですごい早さで電話に出るって……」

 「なんでもないよ? いつもの発作のようなものだぞ」

 「そうだね……。そういえば以前もこんなことあったもんね」

 「ま、気にしなくていいよ。特にやばい相手に脅されているわけじゃないし。取りあえずこういう様子の時はそっとしといてくれればそれでいいよ」

 ちなみに健斗からの電話に出る私の早さについてはちょっとした周りで話題になっていることである。

 ここ最近、健斗からの電話が増えていろんなところでこのムービングを見せることが多くなったからね。

 周りではいろんな憶測が飛び交った。実は彼氏からの電話だとか、めちゃくちゃ怖い人物に脅されているのではとか。

 そんな周りのうわさなどは私からすればどうでもいいのだ。大事なのは健斗からの電話にいち早く出ること。周りがどう私のことを推測しようが、聞き耳を立てて答えを知ろうがどうでもいい。 

 私はあのよわっちいくせに無駄に耐久力と意図的にも無自覚にも表しまくる優しさを併せ持った騎士パラディンがいつどうなっても救えるようにしなければならない。

 それが彼と私が結んだ『盟友』同士の約束事であるのだから。

 「どんな時にでもそばに……というか後ろだな。後ろは任せろよ。最強の騎士パラディンさんよ。後ろは最強のヒーラーが付いているんだぜ」

 君はいつも通りがむしゃらにぶれない自己流で前に進め。私はもう目をそらすことは止めた。君が前に進んで傷ついた時に私がいるのだ。

 いつまでも自分の絶対的信念を曲げない君は、どこまでもまっすぐで優しい。それが一番君が輝いているものなのだ。

 仮にその優しさだで気ではダメだというような社会的に敵が出てきたのであれば、一緒に倒して乗り切ろうではないか。

 騎士である彼とヒーラーであるこの私。

 その誕生秘話からもう数年。全て最初からざっくりと思い返してみる。そしてやはり私の中でこう思うのだ。

 

 (やはり私は君とこのような関係を続ける道を選んで間違いではないとしか思えない。果たして君はどうだろうか?)


 彼にとってあまりにも厳しく辛かった青春時代。私にとってあまりにも悩みに悩んだ青春時代。

 その一緒に居続けたあまりにも長い期間の中で作り上げたものが今でもこうして残っている。

 その誕生秘話を少し振り返ってみるとするかな。今の私の語ったすべての思いもこの厨二設定の経緯も間違ったものではないと再び実感できる。それに今からの講義はつまらないし、寝てしまいそうだからな。

 

 

 

 

 

 

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