10話 盟友誕生秘話① 「残酷な中学時代」
まず私たちの今の関係成立が出来るまでの話の前に私と彼のあまりにも辛く胸糞悪い中学校の話をせねばならないと思う。
そもそも、こんなことさえなければ彼はコミュ障にもならなかったと私は言い切れる。きっと彼はそんな言い訳をしないとは思うがね。
私が健斗と出会ったのは小学校一年生の時だった。
最初は正直言って彼の存在など気にも留めなかった。ただ同じ教室で授業を受けている男の子、という認識だけだった。
ただ、その程度ぐらいの認識であったのによく記憶に残るようなタイプの男の子だなぁとはその当時から思っていた。
いつもペーパーテストは100点を取ってみんなの前で先生に「よくできました」と褒められるような子でよく勉強は出来るんだなぁと思う反面、ほかの行動もまじめなのかと思ったら周りの男の子同様にとても悪ガキであった。
暴れたり走り回ってよく先生に立たされたり、みんなの前で怒られたりしていた。
そんな彼とは今考えるとそのころから何か運命のいたずらがあったかのように、三度あったクラス替え全て同じクラスであった。しかし、小学校で一緒だったと言っても特に意識することも何もなくただ「ずっと一緒だったっけ?」くらいの感覚だった。
学年が進んでも彼は勉強はできる。でも普段の素行は周りの落ち着きの男子とほぼ同じのままだった。そんな彼に高学年になればなるほど新しく担任になる先生は頭を抱えていた。
「佐々木君、あれだけできるんだからもうちょっと落ち着いて学級委員長とかまとめ役とかしてくれたらいいのに……」
と毎年ぼやかれていたと思う。それでも彼は「めんどくさい、やりたいやつがやればいい」の一点張りでそういうことはしなかったが。
そして小学校を私たちは卒業した。大半のみんなはそのまま近くにある中学校にそのままエスカレーター式で上がる。
でも私は違った。地元で一番偏差値の高い学校に進んだ。教育熱心な両親に塾に行かされて、しっかりと中学受験をするようにと言われた。
その時は気持ちはとても嫌だった。今までの友達全員と離れ離れとなる。今となってはその地元の中学校はタバコを吸っている者がいたりして悪影響が出たら困るとの親の判断だったのだろうが、その頃の私にはとても堪えた。
そして中学の入学式。周りは誰も見たことがない人たちばかり。はっきりと言って今までとは違う人たちと一緒になるんだという実感をそこで初めてしたものだ。
身だしなみ、雰囲気、その他いろいろと。はっきりは言えないけれども地元の学校に居た生徒たちとは明らかに何もかもが違った。
そしてその異常な雰囲気を醸し出す生徒たちの中に彼はいたのだ____。
最初は目を疑った。何かの間違いなのではないかと。確かに彼はとても優秀だった。けれども、この学校は学校のテストが出来るとかいうレベルでは入れるわけではない。ちゃんと塾にも入ってそれ専用の勉強をしないととても入れない。
あの学校からまさか私以外にここに入学する生徒がいるなんて___。
しかし、入学式で入学者が一人一人呼ばれていくところで私は彼は見間違いでないことを知った。
私は彼が見間違いでないことを知ると、教室に入って最初に彼に声をかけた。
「佐々木君! ここに入学したんだね!」
「え? あ、ああ。そういえば君も受験に来ているところを見たが、受かったのだな」
私は受験時気が付かなかったが、彼の方は気が付いていたようだ。
「うん! 誰も知っている人がいなくて心細かったけど、知っている人がいて良かった。これから一緒に頑張ろうね!」
そういえばこの時はまだ私は彼に対してちゃんとしたごくごく普通の女の子らしい話し方をしていたのだったな。
ただ、私たちを待っていたのはあまりにも中学生には厳しすぎる学校の現実だった。私たちの進んだ中学は国立でただのそこら辺の公立や私立とはやることが大きく違ったり、テストもただ難しいというわけではない。
中学校の定期テストだなんて、ぶっちゃけ普通のところなら数学演習とかああいったところの基礎計算問題から出るだろう。だが、私たちのところはあまりにも特殊すぎる方程式を出してきたり、それ専用に対応する塾に入らないとまるで点数など取れなかった。
教師が気分で方程式の問題が解なしなどという中学生にはやらせたらダメだろという問題を普通に出してくる。
しかし、もっと恐ろしいのはそれを大半の生徒が普通にやり遂げているところだった。まさに私たちの回りにいる生徒はフ〇ーザのような次元のあまりにも違いすぎる能力を持った生徒たちばかりだった。
そして彼らが何よりもすごかったもの。それは経済力である。
知り合った人とまずはいろいろと身の上の話になったりする。そこで聞いて驚愕したものはそこにいる生徒たちの親はすべて医者か薬剤師か弁護士か、県庁市役所の役員であるということだ。はたまたテレビ放送局の社長の子供というやつまでいた。
一言でいえば、どこまでも金が自由に使える連中しかいなかった。週七日すべてそれぞれ違う塾に行っているなど当たり前だとか。
今考えれば、そういう塾代だけで多分軽く50万以上とか出しているところばかりだったのでは無いだろうか。
そんなおかしな金銭感覚でテストで点を取るためには手段を問わない周りの生徒たちの勢いに私たちはとても対応できなかった。
そして何よりも激しく調子を乱されたのは彼だった。私は何とか一年生のうちに色々と修正を利かせることが出来たが、彼は出来なかった。
彼が単純に能力不足だったと思う人もいるかもしれない。けれどもそんなことは私はないと思う。
私たちはよく分からない学校の田舎者で、親の職種もよく分からないとまず入学して一週間で陰口をたたかれる相手にされた。つい先月まで小学生だった連中が陰口を普通にたたくということを知っているということに私はすでに恐怖を覚えたものだ。
こんなことあまり自分では言いたくはないが、私は周りの男子からすでにかなり好感を持たれていたようで同性の女子は私をいじめたくて仕方なかったようだが、男からの評判が落ちることを恐れてあまり表立って何かしてくることはなかったし、したくはなかったがそういう男子に色々聞けばあまりみんなが口外しない専用塾の話などいろいろと教えてもらえた。
問題は彼だった。特に金も持っていない、顔も言っちゃ悪いけど特にそこまでいいわけでもない。周りからはとてもいい下に見るために良い相手にされていた。
ものすごい陰口をたたかれていた。田舎者の世間知らずだの、気持ち悪いだの、何を考えているか分からないだの。お前たちのほうが世間知らずだろうとそのころから思っていたが、とてもそんなことを意見は出来なかった。
その彼に対するいじりは熱を帯びて、もはや陰口とは言わないレベルで彼の近くで聞こえるようにわざと言ったりするようになった。
こんなことをするのは女子だけだと思っていた。しかし、そんなことは無い。ある程度賢いといじめると自分のこれからに傷をつくことを知っている連中だ。いじめだとかそういう話につながらないレベルのギリギリをついて楽しんでいた。
それでも彼は負けなかった。そんなことに動じることなく中学校生活を送っていた。誰とも接することが出来ないまま。
だが、そんな生活が基本団体で授業も活動もする中学校でいつまでも成立するわけがない。
ペアを作るとなった時、彼は誰とも組むということが出来ていなかった。誰もがそんな戸惑う彼の様子を見てこれ以上に面白いことは無いと言わんばかりに笑い転げていた。
助けてあげられなかった。本当は同じところから来た同士。こんな苦しんでいる姿をほっておくなんてしたくない。
でも私も怖かった。そこに踏み出せば、きっと私にもあの陰湿な矛先が向く。それがあまりにも怖かった。
最初こそ気丈に保っていた彼も、成績がうまく出ないことも追い打ちとなってどんどんと元気をなくした。
半年ぐらいたった時には、もはや小学校の時の様子など全くなかった。別人格が入ったのではないかというほど彼は弱り果てていた。
「佐々木君……大丈夫?」
当時の私にはこんな一言をかけるだけで精いっぱいだった。
「大丈夫だ。お前は大丈夫か? 負けんじゃねぇぞ」
「佐々木君……」
どうしてそんなにボロボロなのに私のことを大丈夫かと心配が出来るのか。どうしてそんなに私と話すときにそんな笑顔で話をすることが出来るのか。
きっと話をするだけでもとてもつらいはずなのに。
時間がたつごとに彼に対するいじりはもういじめに近いものになった。彼に触られたら汚いと「何とか菌」みたいなノリで擦り付け合いとかをするようになった。惨めな生き物だと思う。勉強出来て大人ぶっているくせにやっていることは小学校低学年以下だ。
成績もこういう学校だと自然とみんな戦闘力を見せてけん制し合うように共有し合うため、どんどんと情報が埋まっていってどんなに隠していても大体こいつはこれくらいだろうと勝手に分析されてしまう。
「あいつ、汚いし金ないしバカだぞw」
「なんでここ来たの?w」
そんなことを言われるようになり始めた。
「佐々木君! 私、この学校の定期専用対策している塾知っているから紹介するからさ! 来なよ!」
私は彼にそう言ってパンフレットを渡した。
「品川か……。いや、いいよ。どうせそんな金ないし、お前の紹介だってバレたらお前がいじめられる原因を作る。お前は俺にかかわらなくていい。その気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう」
彼はそう言って固辞した。きっとお金がないということは無いだろう。こんなところに来させることを考える親である。職種はどうあれ、彼の勉強代くらいはちゃんと確保しているはず。
彼は私にそうならないように庇ったとしか思えなかった。
その後もとことん彼は苦しい状況だった。下に見る存在としていろんなところで噂され、後ろ指をたてられる。
そして女子にも彼はいいように使われた。
その中学校では中学生の癖に女子同士の戦いが社会人並みにドロドロしていた。どの男と付き合えば、いい女だとか。こいつにだけは絶対に学級委員長をやらせるな、意地でも止めろとか。
そんな女子の張り合いに彼は、「気持ちは悪いが、どうやら私は好かれているようだ」とモテた相手に勝手にカウントされていたようだ。
しかし、ちゃんと持てる女はイケている男子と嫌でも付き合えるわけで。正直容姿も性格もダメな女しかそういうことをしないので、そんな噂が広がると彼はなおさら辛い思いをした。
「あんな女と好きで付き合っているとかw もう生きているのを辞めたらいいんじゃねw」
「惨めすぎてね……うんw」
どうしてここに来ただけでここまで言われなくてはならないのか。そんな激しい怒りにとらわれても何もできなかった私は。
ただずっと永遠に弱り果てる彼の姿をずっと三年間見続けることしか出来なかった。
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