8話 「品川梨花、深き胸の内は」

 「梨花さん! あなたのことが好きです! ぜひともお付き合いをしてくれませんか!?」

 

 またか。私はそう思ってしまう。私の名前は品川梨花。どこにでもいるいたって普通の女子大学生である。今日は同じ学部の男子に呼び出されたので来てみたら今の状態になっている。

 いつものように何か緊張した面持ちで後で指定する場所に来てくれないかということを言われた時点で察しが付くが、やはり想像した通りで内心ため息がこぼれる。

 「その気持ちはとても嬉しいよ。けれども私はあなたのことをどれほども知らないし、あなただって私のことをどれほども知らないはず。お互いによく分かっていないのにお付き合いする気にはなりません」

 最近の私の告白を断る言い分はいつもこれ。大学生になって自分から関わらないと接点などない大学生という立場だからこそ言える最強の断り文句だと思う。

 「だんだん知ってもらえばいいですし、僕はあなたの素敵なところをたくさん知っています!」

 「……」

 出た。いつも一言私が断わっただけでは簡単に引き下がらず、私のこの決まった言い分に食いつくようにみんなこう言うのだ。

 だが、いつも笑顔で聞いているが本当はこう大声で言ってやりたい。

 

 どれほど私のことを知っているのかということを。


 たかが私と何回か言葉を交わしただけ。あるいは少し一緒に他の人と混ざって遊んだりしただけ。

 二人でいたこともない。SNSやメッセージアプリで二人だけで話したこともない。中には私と話したこともないのに私のことを分かると言ってくるやつまでいる。

 そんな人たちが私の何を知っているというのだろうか。

 可愛い。いい子だ。一緒に居て楽しい。

 すべてが意味が分からない。なぜにあなたたちの隣に居る友達よりもはるかに一緒にいる時間が少ない、もしくは時間がないのに何が可愛いのか。何が楽しいのか。何をもっていい子だと判断しているのか。

 「ごめんなさい。私は……あなたが思うほど素敵な人ではありません」

 まだ何か言いたそうにしているが、これ以上話していても相手の傷口を広げるだけである。何にせよ、私はこの人の告白を振ったのだからあまり余計な言葉を付け足したくない。

 私に対して素敵だと言えるのは……言ってくれて本当にうれしくてのは私の中であいつだけ。

 そしてそんな言葉をあいつからもらう権利など私には無いのだから。

 私はそんなことを思いながら教室に戻る。あまり多い人数いる学部ではないので、私たちの行動についてはみんな気にしていたらしく、一斉に私のほうに視線が向けられた。

 「梨花~今回はさすがにオッケーしちゃった?」

 自分の座っている席に戻ると、いつも一緒にいる友達がニヤニヤ顔で尋ねてきた。

 「断ったに決まっているじゃん」

 「え~? 結構さっきの彼、イケメンだしいいと思うけどなぁ。いつになったら梨花は彼氏作るわけ? っていうか梨花実は彼氏いないとか言いながら本当はいるんじゃないの?」

 「いないってば」

 ちなみに今話している友達は私にSNSという麻薬を勧めてきた来た悪い友達である。ぶっちゃけ最初はしたくないとか思っていたけれども、中学や高校の友達といつでも気軽に話したり日常のあったことを共有できる楽しさを知ってしまい、授業中もいじりたい欲求が最近やばいのだ。

 そんな悪いこの数人の私の友達はとても可愛く、やはり彼氏という存在がいるようだ。

 だからといって、私に彼氏を作らそうとする意味はよく分からないので勘弁してほしいものだ。私はまだちゃんとした恋を”再び”することは出来るとは思えない。

 今まで恋をしたことがないわけではない。ちゃんと女の子らしく恋をしていたと思う。でも、その恋はあまりにも不思議な形で激しいものだった。

 そしてその恋はある一つの結末を終えることになった。 そのはずだが、私はこの結論に最後の本当の答えを見つけられずにいた。

 その選択については後悔しているかしていないのか。それがまだ分かっていない。

 それが分かるまでは私は恋というものはまだまだ出来ないと思っているし、そもそもしようとも思わない。

 「梨花は固いんだって。もっと気軽に楽しい時間を過ごせばいいのに」

 どんなに仲のいい友達でも、この内容についてだけは適当に聞き流している。私に男なんていらない。

 「まぁそんなことよりも今日も講義終わったらどこかに遊びに行かない?」

 こういう時は適当に話を逸らすのが一番だ。

 「お、いいね~。梨花にSNSを勧めたかいがあったね! 梨花から遊びに誘ってくれるなんて私感動しちゃうよ」

 「大げさすぎるってば」

 確かに今の誘いはSNSのためだ。その私のことを知って欲しいのは紛れもないある人一人のために。

 「そういえば最近梨花がプロフィールにリンク張っていた人って誰なの?」

 「え? あ、ああずっと高校まで一緒だった友達」

 「それって男の人? 女の人? どっちよ~~~」

 「やだなぁ、女の子に決まっているじゃん」

 「えーつまんない」

 戸惑いなく嘘をついてしまった。でも、これだけはどんなに仲のいい友達にでも知られたくない人だから。こうやってあいつの存在を隠すことも平然とした顔でできるようになってしまった。

 それだけ誰にも知られず、秘密のままずっといられるように。こればかりは本当に誰にも干渉されたくない。どんなに仲のいい友達であろうと、私とあいつの関係に関して口出しはさせない。絶対に変えられたくない関係だ。

 でもその認識と願いはきっと傲慢なのだ。私が一方的にその人に寄せている感情なのであって。

 わたしがそれだけ大事だと思っている人を私は救えなかった。そして差し伸べてきた手を取らずに軽く笑ってごまかした。

 そんな過去がきっとあなたの中でいつまでも私のことをあまりいい存在だとは思わせることはないだろう。

 それでも私はいつまでもあなたに期待をしてしまう。

 どこまでも優しいあなたが、また私のことをあの頃ずっと一緒に居た時のように見ていてくれるのではないかと。きっとあなたとの絆はそんなことでは切れないと。

 

 だからこそあなたから電話が届くと___。


 ガタっと私は勢いよく席から立ち上がるとそのままスマホを持って急いで電話の応答ボタンを押しながら教室を出てこう言うのだ。


 「やあやあ。どうしたんだい? 健斗君や」

 

 いつもの口調で嬉しい感情を抑えて彼のいつも不機嫌そうな声を聞くのだ。

 その声はを聴くことが今の私の最大の喜びである。


 そんな私の中で最も大事な人の告白をなぜ断り、今のような複雑な関係にした本人である私が彼のことを未だに思い続け、今に至るのか。


 その理由は_____。


 そんな私品川梨花と佐々木健斗は恋人という関係ではなく、最強のという関係であり続けることを選んだからである。

 

 

 

 


 

 

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