7話 「会話は出来ても意思疎通できず」
「よぉ、問題児。そっちから電話をかけてくるなんてね」
「その言い方やめろ。俺は何も悪くないっていうのにひどい話だ……。お前も腹抱えて笑ってんじゃねーぞ」
「いやぁ、いいものが見られて楽しかったよ? 大学生にもなってあんなに人のいる前で怒られるってなかなかできない体験だしね」
俺は夏帆と実習結果のメモを共有してお互いの提出用レポート用紙に書く場所にきちんと書き留めて内容も確認してから別れた。
家に帰るとそのまま奈月に電話をかけてみた。ジャンルも変わってまたしんどいこともあるのではないだろうかと色々考えて電話を掛けたのに、早速今日のことをいじられた。多分しばらくはこのネタをいろんなとこでいろんな人に使われそう。
ぶっちゃけ使ってくれてもいいかなって思うのは夏帆だけなんですけどね。
「腹立つなぁ……。状況知らないほかの人からしたら絶対に俺が何かやらかしたって思うじゃんこれ」
「ただでさえ常に冴えてない陰キャボッチがこれ以上周りが見る評価を気にしたってどうにもならんから心配しなくていいと思うぞ」
「……はいはいそうですね」
確かに人は思っているほど自分のことなど見ていないのだろうが、やはりこの年になって会社の新人でもないのにみんなの前で怒られるのはきつい。大爆笑していたこいつもいつか怒られたらいいんだ。
「で、なんで電話してきたの?」
「……一か月前とはえらい違いだな。一か月前まで『もう無理!』とかそんなことばっかり言って俺にも八つ当たりしてくるぐらいには荒れてたのにな」
「それはもう忘れてくれてもいいんよ?」
こんなやつでもそのことに関しては後ろめたいという気持ちがあるようだ。さっきの仕返しでもっといじってやろうと思ったが、こいつ自分がいじるのは好きだけどいじられると本気で機嫌悪くなるからな。マジで害悪でしょう。
「忘れるも何も、そういうことがあってまた新しい変わった実験をしなくちゃならなくなったから大変なこともあるかなと思って電話を掛けたのに……」
「というか周りの女の子陣営がめちゃくちゃ強いことが発覚したからね……。私のとこの最低ペアがさぼったり私にセクハラしようものなら軽く罵声がすぐ飛んでくるから」
「すげぇ……。お前は最強の仲間を手に入れたのか」
「その上、みんな可愛いというね」
以前から結構仲良くなった的な話を聞いてはいたけれども、それからに進展して奈月を護衛するという役割までしてくれているとのこと。
異世界ファンタジー要素のようなチートかつ可愛い仲間という存在を現実でゲットしているのだとか。
「ということで何も健斗の心配などいりませーん」
「そですか」
なんだろう、それもそれで寂しい気もする。八つ当たりされてもそれだけ自分にはそういうことをしてもいいと思われているのだろうし、よっぽど切羽詰まった時にでも俺を頼ってくれることはちょっと嬉しかったのだけど。確かに悩み事がないに越したことは無いけども、用済みと言われてそれで終わりというのもなんかな……。
ま、奈月が同性の女の子と協力して快適な時間を過ごせているのであればそれはそれで理想形なのだろうから気にしない方がいいか。
「まぁまぁ、健斗のことは見放さないから安心しなって」
「いや別に見放されてもいいんですけど。貴様のような害獣と離れられたら快適ライフが送れるのでぜひとも見放す方で前向きなご検討をよろしくお願いします」
「腹立つ……」
こういう返しをすると必ずガチギレ奈月さん。ちなみに肯定的な返事をあまりしたことがないのだが、そういう返事をしたら一体どうなるのだろう。どうせ冷やかされたり、気持ち悪いと言われて終わりなんだろうな。梨花と全く同じで会話を展開させる解決策が見つからねぇ。ちゃんと楽しく会話して意思疎通できる夏帆って会話のスペシャリストかなんか? 体感だけれども、奈月と梨花と話をしているときって最低限会話は成立しても意思疎通なんて言う言葉は存在しないっていうくらいには全くかみ合っていないと思う。
「と、とにかく何とかなっているようでよかった。聞きたかったのそれだけだからもう電話切るぞ?」
「え? もう切っちゃうの……?」
先ほどまでの苛立っているであろう奈月の声が急にしゅんと小さくなった。
「いやだってそりゃ聞きたいことは聞けたしな。明日もあるし夜の空いた時間こんな電話に時間食う必要もないだろうが」
「いや、まぁそうだけど……」
「何か言いたそうだな。どうした?」
「もうちょっと話しない? なんか連休以来さ、一人で部屋にいる時の静かさがなんだかね……」
どうやら俺と同じようなことを彼女も感じていたらしい。二人で一緒にいる時の喧騒さを経験した後の一人でいる時の静けさとともに訪れる寂しさを。
なんだかやっと今の会話の中でやっとお互いに共感できる内容を掴んだ気がする。
「飯食ったりする生活音入ってもいいなら寝るまでならいくらでも電話かけといてもいいぞ」
「ほんと?」
「いいよ。でもこれであと10分くらいは話してもう飽きたとか言って切ったら俺もうお前の連絡先ブロックするからな」
「そんなことしないってー」
その後、俺と奈月は電話をつないだままにして話をしながら過ごした。会話の内容としては連休中に一緒に居た時と変わらない他愛もない会話が多い。
まぁそれが一番気も遣わないし、退屈もしないものでこれでいいものだと俺は思っているのだが。
「健斗君や、今食っているものは何だね?」
「……自分で作った作り置きだよ」
「くくく……。その声からして分かるぞ。今から私の作るものよりはやはり味が劣って苦しいだろうと煽られることが分かっていて腹は立つ。しかし、事実言い返させない上に何を言われてもまた作って欲しい。人の欲望というものは人を惨めにするなぁ!?」
「饒舌になりやがって」
奈月の言っていることがほぼ完ぺきなことで腹が立つ。どんなことを言われてもまた奈月が作ってくれるのであれば俺はこいつの煽りを何時間でも耐えると思う。
この後もずっとしょーもない話をつづけたのだが、俺が今日のアスピリン0.05グラム問題児事件等で色々と振り回されたせいか疲れていたのでいつも寝ている時間よりも二時間以上早く気を失ってしまった。
早い時間から寝てしまったので、朝起きた時には奈月からの大量の怒りメッセージが届いていた。
女の子と会話するって難しいなぁ。
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