1話 「SNSの女、梨花」

 奈月が帰った後、俺ははいつものだらだらとした惰眠をむさぼる状態に戻ってしまったので、休みの日の流れる時間もとても早く感じる。

 ニュースではそろそろUターンラッシュとかの情報が出ていて高速道路がものすごい渋滞している映像が流れている。

 「どうしてこうなると分かっているのに出かけようとするのか」

 家に常に引きこもっている俺からすれば、当然俺たちのような立場で実家に帰っている人などは分かる。ただ、混んでいると分かっているのにわざわざこの連休じゃんなくても出かけられる人でも出かけようとしている人の考えは理解できない。

 もしこんな混雑の中でも出かけようだなんて言う親の元に生まれていたら俺はきっと過労死していて今この世にはいないだろう。

 「あ、そうだ。梨花にアドバイスもらったおかげでうまくいったんだ。お礼の電話くらいはするべきかもしれんな」

 俺は梨花に電話をかけてみることにした。なんだかんだこっちから電話をかけるということをまだ意識してやってみようという気が俺の中で残っている。

 「腹は立つが結構ちゃんとしたアドバイスくれるんだよなぁ……」

 今回だってボッチでお泊りイベントなど体験したことのなかった俺に色々と注意するべきことを教えてくれた。洗濯物など梨花が注意してくれないと気が付かないところも多くあった。

 「さすがに連休中はバイトとかしているかm__」

 「やあやあ。どうした? 楽しい連休中にもかかわらず私の声が聞きたくなったのかな?」

 電話をかけると1コールか2コールで必ずこいつは出る。ちなみにこっちからかけた経験が過去少なくとも10回はあるが、3コール目以降まで出ないといった経験はない。

 「出るの早いな……梨花っていつも暇なん?」

 「おやおや。さみしがっているであろう君のために飛んで電話に出てあげているというのにそんな言い方はないだろう?」

 「まぁその、なんで電話をかけたかって言うとだな……。色々と今回の連休で止まることが何とか言う話をしただろう?」

 「ああ、そうだね。私のアドバイスは役に立ったかい?」

 「ああ、すごく役に立った。そこは素直に感謝する。ありがとうな」

 「別に君と私の関係において礼などは不要だよ」

 梨花はなんだかんだ言いながらいつもこう言ってくれる。俺と梨花の関係って俺が一方的に梨花に助けられているだけなんだけどそれでいいんだろうかね。

 「そういえば梨花、この連休何してんの? バイト?」

 「おっと、私のプライベートをすぐに探りに来るとはやはり君はとても私に対してエッチになる生き物だと思われる」

 「電話切ってもいい?」

 話を広げようとしたらこれだ。なお、俺の方の話をすると興味ないかつまらないとしか言わない。

 でこう話題を振ると毎回セクハラ変態エッチと言われる。めちゃくちゃイラっと来る。

 「まぁまぁ、そう焦るな。わが友よ」

 「うぜぇ。マジそのノリうぜぇ」

 「私の日常がそれほど気になるというのであればTwitterをやってみる気はないかい?」

 「え? お前Twitterやってんの?」

 「当然。華の女子大学生であるこの時期にこそこう言ったことが大胆に出来るのだよ」

 意外だった。いつも高校時代までいろんなところでメッセージアプリの連絡先を教えて欲しいといろんな男から言われたり、ほかの女友達経由で話しかけてくるのを嫌がっていた梨花が自分からプライベートのことを発信するなんて。

 「そういうこと嫌がるイメージだったんだけどな」

 「Twitterとメッセージアプリはまた色々と違うのさ。と言いたいところだが、私の友達が私を入れた写真とかを撮りだして無理やりアカウントを作られただけなのだが、やってみるといろいろと便利でおもしろかったのでな」

 「ほぉ」

 「そこに私が何をしたかが毎日記録されている。それさえ見れば私のことを毎日嘗め回すように見たいという君の醜い願望も勝手に叶うというわけだ」

 「いや、そこまでしてお前のこと知りたくないって。ちょっと話題に出来ればいいと思って振っただけ……」

 「遠慮は要らんよ。せっかくだ、愛しのFF関係になろうではないか。先ほど君は私に感謝しているといった。ならば、アカウントを作り私とつながるのだ。いいな?」

 「分かったよ。アカウントをつくりゃあいいんだろ?」

 「うむ。話が分かるではないか」

 分かるも何もお前にただ強制されているだけなのだが。まぁメールアドレスを認証させるだけでよくて何とかブックみたいにリアルの名前を使う必要もないので梨花の要求通りにアカウントを作ってみた。

 「りんりん梨花☆で探してみ?」

 「うわぁ、フォローしたくない名前過ぎて笑える」

 名前を打つと一発で検索に浮上してきたので、梨花のページを開いてみる。

 「フォロー数多くね!?」

 「なんだか写真を載せるだけでめちゃくちゃフォローが増えるんだぜ」

 「なるほどな……」

 梨花はこういった口調を俺の前ではするが、ほかの人間の前ではいたって可愛らしい普通のしゃべり方をする美女だからこんな写真を見たらそりゃ私生活が気になるやつ多いわな。

 「お前、フォローしてる数少な……このフォロワー数に対して20とか」

 「今関わっている友達以外をフォローしてどうするというんだね? その中には高校で仲の良かった子もいてな。離れていても何をしているか分かるのはとても楽しいのだ。そして君を私のフォローする21人目として認めてあげよう」

 「いやだわ。このフォローの中で初期アイコンでフォロワーお前だけフォローしているのもお前だけとかどんだけ不審なアカウントだよ」

 「プロフィールに「私の大事な人♡@君のアカウントのID」ですぐにでも多くの人が君のページに飛べるようにしてあげよう。そうすれば君のフォロワーもどっさりだ」

 「そのフォロワー、ただの俺の監視者ですよね!? 高度な嫌がらせマジでやめろや!」 

 「ふふふ。君のお友達も増える上に私にセクハラも出来る。一石二鳥ではないか」

 そう言いながら梨花が俺のアカウントをフォローしたようで、俺のスマホがいつもと違う着信音が鳴る。

 『りんりん梨花☆さんにフォローされました』

 何度見てもこう思う。もうちょっとまとも名前はなかったのか……。

 「さぁさぁ早く君も私をフォロバするのだ」

 「あいあい」

 とりあえず俺も梨花のアカウントをフォローしておくことにした。

 「これでいいか?」

 「うむ。これで君は私のことをいつでも見ることが出来る。先ほどまではセクハラだとかなんだとか言ったが……。神経質な君のことだ。どうせ私のことを考えていつも電話をすることやメッセージを送ることですら何を話したらいいか、今邪魔じゃないかとか考えていそうだからな。ここならば気軽に私の載せたツイートの話題で私に話しかけられるだろう?」

 確かにここであれば、もっと気軽に話しかけられるような気がする。

 そう考えるとここでのつながりも悪くないような気がする。

 「そうだな。ここから話しかけさせてもらうよ」

 「当然、ここだけでなくメッセージアプリでもいいし、電話でも構わない。声が聞きたいということであるならな。忘れるなよ? 君と私の関係をな」

 「すまねぇ、梨花。恩に着る」

 「いいってことよ。じゃあ、この後はゆっくりと舐め回すように私の生活を見るといいぞ?」

 そんなやり取りの後、俺は梨花のツイートを見てみた。しばらく見ないうちに梨花はもっときれいになったと見て思った。その上友達も可愛い子が多く、華やかな写真ばかりだ。

 「楽しくやってるんだな」

 梨花のツイートにはどれも多くのいいねが押されている。本当に人気者なんだな。

 正直なところ梨花が高校卒業して以来、私生活については全く分からなかったのと梨花に対して告白した過去もあるのであまり詮索するのもどうかと思って知らないままでいたが、楽しそうでである俺からするととても嬉しく思う。

 「せっかくだから、今度ツイート見たらそのツイートの内容を話題にでもして話しかけてみるとするかね」

 そうしてその日はスマホの電源を切ってその日は眠りについた。

 

 だが、次の日。


 「なんじゃこれは……」

 スマホの電源をつけると、数えきれないほどの通知が来ている。全部Twitterからである。

 まさか梨花が悪戯をしてたくさん通知が来るように何かしたのかと思ったが、全く知らないアカウントばかりで少し怖くなった。

 原因はやはり梨花のアカウントとつながったためであろうか。

 「そういえば、なんか特定の人以外には見れないように出来る設定があるらしいな。梨花に教えてもらお……」

 隣家に連絡するべく、梨花のページを開いた。

 「あ、あのくそ野郎……」

 そこで見たのはプロフィールの文章のところにこう書いてある文章であった。


 この世で一番大事な人♡@……←俺のID


 「やりやがったぞ、あいつ!」

 

 この梨花の高度ないたずらにより、何十人というよく分からない男にフォローされた挙句、怖いコメントが大量に流れてきた。

 いやぁ、SNSって怖いですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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