2話 「連休明けのキャンパスライフ」
圧倒間に連休が明けていつも通りの平日になった。また今週から講義やら実習やらに明け暮れないといけない。
実習も生物関係の実習は終了したので、これから物理関係や化学関係になっていく。
ちなみにどれが一番しんどいかというと俺は間違いなく物理だと思う。有効数字に殺意を何度覚えたら有効数字と分かり合えるのかいまだに分からない。
そんなことを考えながら今日もいつも通り連休前と変わらない時間に大学に向かい、いつもの席に座る。
「人少ねぇー……」
いつも俺はそこそこ早く教室に来るのだが、明らかにその時間の速さを考慮しても明らかに生徒の集まりが悪い。
連休が明けて一気に大学が億劫になったメンバーばかりなのだと思う。変わり映えのしない講義や実習は毎回しんどいからね。
ちゃんと講義に来ている人ですら教室に入ってくるのがいつもよりも明らかに遅かったり、眠たそうにしていたり。朝ごはんを食べる余裕がなかったのか教室で食べている人も見られる。
「あいつちゃんと来るかね」
夏帆は優秀であるからさぼらないだろう。っていうかさぼってもどうにでもなりそうだが、奈月は大丈夫だろうか。
以前、夏帆に小テストのことについて教えてもらった時に奈月と共有したら結構難しいとかいろいろ言っていたのでそこまで優秀なのか不明なので、留年とかしないためにもちゃんと来て欲しいものだ。
間違いなく留年するとそれまでの友達が進級するとお互いに顔合わせられなくて確実に関係がパーになる。それだけは避けたい。
大学に通っていない皆さんに少しお話しすると、大学の進級のためには指定された数の単位数を取る必要があるのだが、「前期後期合わせて何個単位を取れ」というものから「前期は何個、後期は何個取れ」というルールもある。
俺たちは前者の方だが、前期で単位がある程度取れてないと「後期があるから前期失敗しても大丈夫」とか言っているやつは間違いなく死にます。
前期の単位すら取れないやつが後期の単位を取れるわけがない。クリスマスも正月もあって大学生の冬休みは長くあったりする。12月の中盤くらいには講義が終わって一月の終わりに定期テスト。この一ヵ月以上の空白の時間にそこそこ大学に拘束されて勉強できる環境に居られる前期ですら勉強できなかった奴が後期のこの時間に勉強なんてできません。
前期の結果がその年の進級の全てを制すると言ってもいい。前期がある程度しっかり取れれば余裕も出来て追い詰められることもないのでね。
「おはよー」
「お、ちゃんと来たか」
「どんだけ私の事信用していないのよ。言っとくけどほとんどの成績ちゃんとAやBで突破してるけど?」
「おお、見た目に寄らず優秀だったか」
夏帆に比べたら劣る話かもしれないが、そもそもSで単位を取るってめちゃくちゃ大変なのだ。大学の勉強に問題集とか基本無いからね。あるとしても過去問ぐらいであとはすべてテキストを見て勉強するだけしか出来ないので高校の勉強とはまるで違うのだ。
端的に言うと夏帆が化け物なだけ。奈月レベルでも十分安定している優等生だ。
「やば……普段からちゃんと勉強しよ」
奈月にだけは学力で負けていないと思ったらボロ負けでした。
「ちょうどいいし、健斗ともこれからは一緒に勉強もいいね。大学でもカフェに行くのもいいし」
「そうだな。さすがに留年はしたくないですわ」
そんな話をしていると、チャイムが鳴って講義の開始を知らせる。教室に教授が入ってくるが、周りを見渡すと明らかに人が少ない。
「やっぱり休む人増えたね」
「だな」
俺たちは変わることなく講義を受け始める。やはり連休が明けても相変わらずつまらない講義である。
「ねぇねぇ」
「なんだ?」
「私が帰ってから寂しくなかった?」
「全然寂しくなかった。やっと静かになったと思ってうれしかったぜ」
「えー?」
本当はとても寂しかったけど、梨花のSNSを通しての高度ないたずらに巻きまこれて一人でいる居心地の良さ含めてどれほども体験せずに終わったのでこれは嘘ではないのだ。
「ま、また来いよな!って言ったの誰だっけ?」
「うるさいな、声でかいんだって」
当然だが、俺のそんな言葉奈月には通用するわけはない。というかそもそも俺が寂しかったということを分かっていて奈月は聞いてきているのだろうしな。
そんな感じでいつものようにおちょくられながら講義を受ける。これも連休前と変わらないいつものスタイル。
そして一つ目の講義が終わって休み時間になった。
すると、ポケットに入れていたスマホが震えだした。その震えを感知した俺は体全身が飛び上がった。
「ど、どうしたの……?」
「い、いやちょっと今スマホが恐怖の存在になっていてな……」
「何があったのさ……」
あの後も梨花のSNSを通してのいたずらは続いたのだが、どうやら梨花の思っていた以上の反応だったようで俺はすっかり梨花のフォロワー恐怖症になっている。
『すまない。ここまでなるとは思わなんだ……』
と梨花からマジで謝られるくらいには盛大に荒れたので俺はTwitterのアカウントを鍵垢にした。鍵垢にしてからはさすがに連絡は途絶えたのだが、恐怖のフォローリクエストが今も絶えず通知として届いてくるのである。
それでも辞めない理由としては、梨花と格段に話しやすくなったこの機会を逃したくないからなのだが、かなりの恐怖の戦いを今も強いられている。
「おっと、夏帆からか」
普段なら通知音で通知先が違うのが分かるが、マナーモードにしておいたので振動だけでどこからの通知か分からなかったが夏帆からであった。
─今日、お昼一緒にどうですか?─
夏帆からのお食事のお誘いだ。あの実習で迷惑をかけた日からいつか夏帆を食事に誘って何か奢ってあげないとと考えているうちに夏帆のほうからまた誘わせてしまった。
─もちろんいいよ─
当然断る理由もない。俺は快く返事した。
「誰? 夏帆って」
俺が送信するといつの間にか奈月が横から俺のスマホを覗き込んでおり、そう尋ねてきた。
「うん? 実習でペアのあの子」
「え? あのすごくかわいい子?」
「そうそう」
そういえば奈月にまだ夏帆のことを言ったこともないし、夏帆にも奈月のことを言ったことは無かったっけ。
「いつから連絡取り合ってるの?」
「うーん、実習始まってすぐ交換したからちょうど一か月くらい前かな?」
「へぇ……。そんなにもう仲良くしてるんだ。そして私とは一緒にご飯行かずにその子と一緒に今日ご飯を食べると? 一人ここで寂しく私に菓子パン食べさせて」
じろりとそう言いながらこちらを向く奈月さん。もう雰囲気で分かるのだが、マジで機嫌が悪くなっている。
「お前とは休みの間そこそこ一緒に居たろ……。それに明日お前ともご飯に行くからそれで勘弁してくれ」
「今までずっとボッチだったくせに……。急に粋がっちゃって」
「さっきの講義で小テストがあった時に助けてくれたあの解説は全部この子からなんだよ。そういうことも含めてちょっとは大目に見てくれよ」
何このよく分からない会話は。俺とこいつは別に付き合っているわけではないのに、なぜか夏帆と飯を食いに行くだけにめちゃくちゃ責められている。
「ふーんだ」
「午後の講義に食べられるちょっと高めのお菓子を売店で買ってくるんでそれでなんとか……」
「よし。これで嘘ついて安物買ってきたら……許さないから」
長い話を経てやっと奈月は夏帆とご飯を食べに行ってくることを渋々認めたけども、ここまで夏帆一緒に居ることを嫌がるとは。
それにしても奈月さんはお菓子に弱い。遊びに来た時もよくお菓子を食べていたので今度来る時にはお菓子をたくさん準備しておくとするかね。どうせ自分も食べるしな。
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