17話 「いやぁ、寝ちゃいましたね」
奈月が眠ってしまった後、俺は奈月の寝言に返事をしつつ晩御飯の後片付けをした。
余った生地や具材は明日にでも一人で俺が混ぜて簡易お好み焼きみたいにして食べようと思う。
別に眠っている奈月からすれば、自分が何を言っているのか分からないだろうし俺が返事していることなど全く分かっていないだろう。
それでも、なぜか彼女の話すことに返事をしてしまうのはいつも一緒に居て返事をしないと拗ねてしまうことがあるからだろうか。
特に俺の中でも理由が無かったと思う。
結局その夜は彼女は全く起きそうにないので、俺は適当に床で寝ることにした。今から彼女が起きたとしてもかなり夜遅くなってしまうので、酔った状態で帰らすのも心配なので泊めるということでいいだろう。
「まさか他人を泊めることになって自分が床で寝る時が来るなんてね……」
親が様子を見に来ることはあっても、泊まっていくまでのことはしない。その上泊まっていくほど仲のいい友達もいないのでこんなことがあるなんて想像もしていなかった。
しかも俺のベッドで寝ているのは女という事実を未だに信じられない。
「おやすみなさーい」
返事が返ってくるわけではないが、とりあえず一言消灯の言葉を発してから部屋の電気を消す。
いつも少し遅くまで起きているが、せっかく寝ているところをうるさくするのもあれだしおとなしく早めに寝ることにした。
隣で女が寝ているという慣れない状況で緊張して眠れないのでは、という心配が自分の中で少なからずあったのだが、お酒のお陰がすぐに眠気が襲ってきて俺も眠りについた。
お酒飲んでなきゃやってられないっていう人の理由ってここら辺にあるんだろうな。飲んだ後にうとうとするの最高に気持ちいいし、ぼーっとできるもんな。
*********
「……ねぇ」
誰かが俺の体を強くゆすっているような気がする。夢だろうか。
「ねぇねぇ!」
夢ではなく、目をぼんやりと開けると、かなり焦った顔の奈月の顔が飛び込んできた。ちなみに窓からはすでに朝日が差し込みつつある。いつもの朝起きているときの体感としては朝6時半から7時くらいといったところか。
「……おはよう、奈月」
「お、おはよう……。そ、その……私は……」
「うん、酒に酔って途中で爆睡してから今に至るわけだ」
「う、うう……。ご、ごめんなさい」
彼女が申し訳なさそうに縮こまっている。
「お前、以前に他人の前でお酒を飲んだことは?」
「え? な、無いけど……。いつもはたまに一人の時に飲んだりするくらい。割と飲んでもへっちゃらだったから大丈夫かなって……」
ということは、初めてお酒で失敗したのが俺ということか。変な男の前で失敗しなくてよかったと思う。
昨日の飲んだ数からしてかなり飲めるほうだとは思うが、飲める奴でも上限というものを自分の中で探しておかないとこうなったりする。
大学生の失敗あるあるで女の子が危険なだけでなく、男も酔った勢いで暴力や痴漢をすればそこで人生終わったようなものなので本当に注意が必要だ。
「そか。今回でどれくらい飲んだら自分がやばくなるか分かったろ。ほかの場所で飲むときは気をつけろよ。男が居たらただじゃすまないぜ?」
「うん……」
明らかに彼女は落ち込んでいる。多分、迷惑をかけたとか恥かしいとか色々と思いはあるであろう彼女の頭を少しだけ優しくなでた。
「俺は別に気にしてないから、そんなに落ち込むな。吐いたりしてないし、俺のほうには何の損害もない」
嘘です。大量に酒持っていかれてちょっとそのあたりは大損害だけれども。
「で、でも……ベッドは占拠したし……酔ってきっとめんどくさかっただろうし、嫌いになった……よね。こんな女」
「嫌いになってない。いつもわがままなくせにこういうところは気にするんだな。こんな感じでも、ちょっとお前には感謝してるんだぜ?」
「なんで?」
「だって、ほかのやつに自分のベッドを貸して自分は床で寝る。こんなこと誰かが泊まりに来ないと経験できないしな。一人でベッドがら空きにして床で寝てみ? 虚しさだけだぜ? 誰かがベッドで寝るから俺は床で寝るしかない!っていう充実感をくれたのはお前だ」
「な、何それ。どんだけそういう友達とのそう言うことに飢えてるのよ」
俺の話に耐えられないとばかりに笑い出した。
「だって常にボッチだぜ? 大学ですらボッチの俺に、こんな特別なイベントは無いんだって」
「残念な男ってわけだ」
「そうだ。だがそんな残念な男に特別な状況を与えてくれたのがお前なので、酔ったことは反省してそれ以外のことは気にしなくてよし。いいな?」
「うんっ」
「話が分かればよし。二日酔いみたいな気持ち悪さとかは大丈夫か?」
「うん。ないかな」
「よし、じゃあ家の近くまで送ってやるから帰ったらシャワーでも浴びてもうちょっと寝ておけ。明日に影響がないようにだけしておけよ」
ということで、朝早いが彼女を家の近くまで送っていった。なんだかんだ彼女の家がどこら辺にあるのか全く知らなかったのだが、そんなに離れた距離にあるわけではなく歩いて20分ほど位のところであった。
「ありがとう」
「構わんよ。気にしないでまた遊びに来い。その……楽しかった。来いというかまた来てくれ。酒のことは本当に気にしなくていいから」
「うん……本当にありがと」
彼女と別れた後、俺は自分の部屋に戻った。
「さて、いつも通りもう少し休日の惰眠をむさぼることにしよう」
俺も彼女のことは偉そうには言えず、酒を俺としてもかなり飲んだのでまだ眠くて仕方がない。
結局、この日は昼間で爆睡して何となく過ごしたためあっという間に日曜日が終わってしまった。
しかし土曜日、奈月と過ごした時間だけでもいつもの何日分もの充実感があっただろう。
ただ……。
「あいつがまた来るときはストックしておくお酒の数減らしておかないと……」
別に俺の前で酔うのはいいのだけれども、あれだけお酒を飲まれると俺のお財布事情が厳しい。
酒が飲みたいなら今度からは奴に持ってこさせよう。っていうか今度からは飯を食うなら何を作るか一緒に考えて一緒に買い物に行くのもありだな。
今度からはそういう風な流れにしてせめて酒だけはあいつに買わせよう……。
つい先ほどまで奈月の眠っていたベッドに丸まって俺はそんなことを思いながら日曜日の間ずっとうとうとした。
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