16話 「お酒には注意!」

 「入っていいぞ」

 「お邪魔しまーす」

 土曜日の朝、早速奈月が遊びに来た。いつもは俺がちゃんと起こさないといけないのに、こいつ8時には行ってもいいかと連絡が来た。

 さすがに10時くらいにしろと言っておいて今に至るわけであるが、やはり奈月は俺の部屋の中をキョロキョロと見渡している。

 「割と整理したんだねぇ……」

 「昨日慌ててしたんだぞ。……どうだ? 結構気合入れて長時間掃除したんだけどそれでも汚いか?」

 「ううん、綺麗なほうだと思うけど」

 その言葉を聞いてほっとした。こういうことも定期的に家に呼ぶくらいの友達さえいればいつも嫌でも掃除することになるし、常に綺麗な状態を保てているのだがボッチの俺にはそんなこと無理でした。

 昨日だってあの後梨花にあおられながらも掃除をしている間、ずっと部屋のドアを開け放って掃除をしたからね。マンションの部屋ってうまく風通らないので、ご近所さんに変な目で見られることを覚悟でな。

 「ってか、俺の家に来て何するわけ? なんも遊ぶものねぇぞ」

 「ふっふっふ。取りあえず色々持ってきたのだー」

 どさーと俺の床に色々と持ってきたものを出してきた。カードゲーム、DVD等々。割とチョイスがまともだった。

 「ま、外今日無駄に暑いから飲み物でも出すわ」

 「ジュースがいいー」

 「あいよ、どうせそう言うだろうと思ったしな」

 ということで俺は、昨日今日の昼めしと晩飯の材料を買いに行ったついでに買っておいたカルピスを注いで出しておいた。

 「ちゃんと分っているではないか!」

 「どうせわがまま言うだろうという悪い予測をされる時点でちょっとは反省しようという気持ちは無いのだろうか……」

 そして少し落ち着いた後、カードゲームをした。UNOとかトランプを持ってきてくれたおかげで意外と二人でも退屈せずに時間を過ごせるものだなと思った。

 「でさ……。それがね……」

 「ほぉ」

 何より、結局のところカードゲームがメインというか大学での話とかがメインになる。だらだら話をしながらするのが面白い。

 その後、お昼ご飯にオムライスを作ってみたら思ったよりも評判が良かった。嬉しそうに食べていたので悪い気はしなかった。

 その後もただグダグダと過ごすだけだったが特に退屈で仕方がないということは無く、のんびりとした時間を過ごした。

 自分一人でいると、休みの日はベッドに張り付いているだけなので誰かと遊びながら話すのも悪くない。

 そしてあっという間に日も暮れだしたので、帰らすことも考えると早目に晩御飯にすることになった。

 「晩御飯は何にするわけ?」

 「これだ」

 俺は奈月の目の前にある機械を出した。

 「タコ焼き機……?」

 「そう。鍋とかにしようかと考えたんだけど、もうここ最近かなり暑くなってきているしな。好きな分だけ焼いて食べられるこういうのがいいかなって。どうせあんまり動いてねぇから腹空いてねぇだろ」

 「そうでもない」

 「……」

 一体その細い体のどこに食い物が収納されているわけ? 不思議で仕方がない。女性の体の細さと食事量についての関連性はもはや神秘の領域だと思っている。

 「お前のことだからタコだけとか言いそうだから、色々中に入れる物はタコ以外も用意しておいた。こういうのも自分で作るからこそできることだぞ」

 「へぇ」

 俺が用意したのはタコ以外に、ズリやウインナー、セセリ等。ズリとセセリはほぼ俺の好みだが、ウインナーにチーズでも入れた奴なんて奈月は好きなんじゃなかろうか。

 「わーい、われはこのサプライズに大満足じゃー」

 「んじゃ、ぼちぼち焼いていくかぁ」

 生地を流し込んで、適当にぽいぽい材料を放り込んでいく。適当に入れると何がどこに入っているか分からないのもちょっとした面白さを呼ぶ。

 焼けるまでの間に飲むものとして、奈月にはカルピスを出した。俺は買っておいたチューハイの缶を取り出して開けて飲んだ。

 次の日が休みの日という時にたまに飲んでいる。親が酒豪ということもあり、俺もよっぽどのことでは酔わないことをパッチテストでも実証済みだが、お酒高いからね。たまに飲むくらいにしている。

 「むー、私もお酒いるぅ」

 「マジで言ってんの? どこまでもわがままなやつだなぁ……」

 安い時に買いだめして冷蔵庫に大量ストックしているし、大学三年生なら最短でも絶対に成人しているので構わないか。

 「ほらよ」

 「わーい」

 俺はそんな軽い気持ちで彼女にまず一缶、適当なチューハイをあげた。

 ……まぁ、それが今日の俺の判断として最大のミスだったわけで。

 「たはー」

 「おいこら、しっかりしろや」

 「動きたくないにゃーん……」

 「お前、これから家に帰るんだぞ! そんなんでどうするんだよ……」

 「にゃあにゃあ」

 「ダメだ……。こいつが酒に強いか弱いかちゃんと分ったうえで渡すとかいう基本的なことを怠ってしまった……」

 お酒を欲しがるものだから、そもそもそこそこ飲めるものだと思っていた。

 その前になんだかんだチューハイの缶を結構な数開けられたからな。こんだけ飲めばこうやって酔うことがあってもおかしくはない。そもそもチューハイをあげすぎた俺の完全な失態だった。

 完全にお酒に酔っているのか、ぼーっとしているし俺にゴロゴロ言いながらすりついてくる。一番女の人として酔うと危険なパターンだ。

 酒に酔って男に擦りつくとか一番女の人お酒で失敗するケースでいけないことになりがちだ。

 こいつ、今まで男の前で酒を飲んでいなかったのかが気になる。顔も可愛いし、男ならホテルに連れ込むことしか考えなさそうなものだ。

 もし、それがないのであればこの経験をもとにお酒の量を考えて飲んで欲しいものだ。あげたほうが偉そうに言えることじゃないけども。

 「ほら、しっかりしろや」

 「うーん……離れたくないにゃあ」

 そう言って俺の体にしがみついたまま、すやすやと眠り始めてしまった。完全に詰んだ。こうなると簡単には起きないし、起こしてもまともに家まで帰れないだろうしな。

 「マジでどうしたらいいんだこれ……」

 とりあえず、お姫様抱っこで抱えて俺のベッドに横にして寝かせておいた。布団をかけてしばらく寝かせておくことにした。

 幸せそうに眠る奈月の顔はとても可愛い。だからこそこんな状態にさせてしまったことに申し訳なさと、彼女のことがさらに心配になる。

 「うーん……健斗ぉ……」

 「はいはい、いますよ」

 聞こえているはずもない彼女が発する寝言に返事をしつつ、彼女の寝顔を見ながら俺はもう少しお酒を飲んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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