18話 「神崎さんの力をこの手にしたいわけですよ」

 奈月となんだかんだ悪くない時間を過ごした週末が明けてまた月曜日になった。またこの一週間講義や実習を頑張っていくことになる。

 とは言いながらも、月曜日は金曜日と同じように講義だけなので少し気持ちとしては楽である。

 月曜日とかから実習とかだと、確実に奈月を家には呼んでいない。土日ともに俺の体力回復の時間として惰眠をむさぼることになっていたであろう。

 俺は精神的にかなり疲れやすい体質だとかつて医師に言われたことがある。最初こそは緊張感もあって色々と疲れやすいのは分かるが、どうも何も変わらない日常でもかなり精神的に疲労しているようである。

 たいてい帰ったら、一時間ほどは眠りに落ちているパターンが多い。そうじゃなければバイトでもしながらもっとお金の自由が利くようにするのだが。

 なぜ精神的に疲労しやすい体質になったかは大体自分の中でも原因を理解しているつもりではある。なんと言おう、それが今のコミュ障によりボッチで大学でいたことが物語っている。

 まぁ、そんな俺の事情はどうでもよくてだ。

 実習が始まったことばかりに気を取られていては大学というものはいけないわけであって。

 「はい、来週今までの3週分ちょうど全講義の四分の一が終わったところで小テストをする。各ポイントは言ってあるのでそこを重点的に出すからしっかりやってくるように」

 「うわぁ……小テストだってさ……」

 「やっぱこんだけ科目数があればどれか一つくらいこういうスタイルのところがあっても全然おかしくはないわな」

 以前話した成績の一部の割合を占める平常点というものは、すべてが出席点や提出物等というわけではない。

 当然講義の中で軽い確認小テストのようなものを行う教授もいて、それで点数を取らないと平常点がないということもある。

 ここで大学に通う皆さんは「え? 定期テストみたいに丁寧に一人一人席離してテストでもするのか?」と思った方もいるだろうが、そこまで厳しくはない。隣に奈月がいる状態で小テストはする。

 ただ、教授含め助士が見回るのでカンニングや話し合いをしていたらそこで小テストを受ける権利ははく奪。平常点無しで定期テストをやらされるという形だ。

 結局のところ、ずるは出来ない。ちゃんと一人ひとり勉強して来いよということである。

 この小テストを失敗してしまうと平常点が減って定期テストにプレッシャーがかかってくるだけでなく、後日出来の悪いものを呼び出しとか言うことがあって土曜日に大学に講義を受けに来ないといけなくなったりする。

 俺の惰眠の時間を取られるわけにはいかないので、ここは頑張って勉強をしないといけないであろう。

 「ただ暗記しただけじゃ解けないようにしておくからな。ちゃんと理解してくるようにすること」

 はい出た。意識高い系の教授の言い分だ。こういうやつはまじでテストを頭おかしいぐらい難しくして再テストや単位を取れない人間を半分近く排出させたりする魔物である。

 確かに勉強することは意識を高く持つことが大事だが、それなりに学校のレベルというものがあるので、そういうことはもっと高レベルな学校で求めていただきたい。最低限の目標がまずは何よりも達成しないといけないのに、そこをすっ飛ばして発展問題など無理だというのに。

 と、そんな愚痴を言っても仕方がないので……。

 「うえーん! この科目あんまりよく分からないのにー!」

 奈月も隣で泣き言をあげているが、俺にとっても余裕のあることではない。ここはやはりちゃんと勉強できる人の力を頼ろうではないか。

 「こうなったら、あの人に頼もう」

 俺は授業中にもかかわらず、スマホを机の陰に隠しながら素早く神崎さんにメッセージを送る。

 ─テスト正直言ってやばいので、助けてください─

 なんだかんだ神崎さんに対してこのメッセージアプリで送った最初の言葉が、これですか。いきなりお願いとか図々し過ぎて申し訳ない。

 「あれ」

 意外にも講義中なのに神崎さんからはすぐに返信が返ってきた。なんだろう、優等生なのにみんながしていそうなちょっとこういう悪いことは同じくしているところすごく好きです。

 ─いいですよ。ただ条件があります。取引に応じてくれたらおしえてあげてもいいかなー?─

 ─何でしょう。自分に出来ることなら何でも神崎さんの期待に応えましょう─

 奈月は隣でぐえーと言って伸びている。こいつが実際のところどれくらいのレベルで進級してきたか知らないんだよなぁ。こうは言っているけども、超頭が良いっていうパターンもあるし、本当に苦手だということもある。

 とりあえず、まずは俺が何とかしないといけない。他人の心配ばかりしているわけにもいかなくってよ。留年したらお金だけでなく、奈月や神崎さんとは一緒な講義を受けたりできなくなる。これが一番つらい上にそうなればまた俺は一人になってさらにこれからの実習一つ年下とやるとなるとまた厳しい。

 そうならないためにも、まずは俺が完璧に理解して奈月にちゃんと教えられるレベルにまでなればいい。まずはそこからだ。

 そのためにも神崎さんの力が今は必要だ。

 ─では、今日はお昼一緒にご飯でもいかかですか? その時にゆっくりお話がしたいですね─

 ─全然大丈夫。どこで食べる?─

 ─そうですね、別館にあるカフェレストランとかでもいいですか?─

 取りあえずメッセージのやり取りで神崎さんとお昼ご飯を一緒に食べようという話になった。

 神崎さんとお昼ご飯。テーブルマナーは大丈夫であろうか。幼いころから端の持ち方や食べ方などは口酸っぱく注意されてきたので大丈夫だと信じたい。

 一通り午前の講義二つを終えると、俺は隣で菓子パンを口にいっぱい入れてリスみたいになっている奈月にちょっと食べに出てくるから荷物見ていてくれと伝えて教室を出た。

 そのまま移動して別館に移動する。そこに入っているカフェレストランについては知ってはいたが、あまりにもおしゃれで女の子専用と言った印象を持っていた。

 それに値段も結構するので行ったことは無かったが、一度は足を運んでみたいと思っていた場所だ。ま、行く相手がいなかったんで来たことなかったんですけどね? あ、ここ皆さん笑うところですよ?

 俺がカフェの近くで少し待つと、すぐに神崎さんが現れた。

 「待ちました?」

 「ううん、今来たところだよ。じゃ、入ろうか」

 「はい」

 俺は神崎さんとカフェレストランに入って、適当な席に座った。

 いつも実習では白衣を身にまとっている姿しか見たことがなかったが、神崎さんも奈月同様かなりおしゃれで年ごろの女の子といった感じでいつもよりももっとかわいく見える。

 「まずは頼みますか?」

 「お、そうだね」

 ダメだダメだ。変にぼーっとしていたら神崎さん不審がられてしまう。奈月ならおちょくってくるだけだけどね。

 俺と神崎さんはそれぞれ自分の食べるものを注文した後、早速本題に入った。

 「今回の小テストという試練を乗り切るために力を与えて欲しいのですが、神崎さんのどんな期待に応えればよろしいでしょうか?」

 「ふふふ、そうですねぇ。条件は複数あります。すべて優しい佐々木君なら受け入れてくれそうだからなぁ。ちょっと私もわがままになってしまいそうですっ」

 神崎さんは一体どんな条件を持ってきたのだろうか。全部ということは複数のあるのだろうか。

 というか、ちょっとS気だしている神崎さんも可愛いなぁ。

 

 

 

 

 

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