10話 「肩の重み」
朝。昨日と変わらず早くから目覚ましが鳴り響く。それを止めてはまたスヌーズ機能で鳴り響くアラームを止める。
それも昨日と同じように何度も止めながら少しずつ起きる。
「今日さえ乗り切れば、今週は終わったようなものだぜ……」
今日は木曜日。毎週実習は火曜日から木曜日まである。月曜と金曜は講義だけであるために、木曜日さえ乗り切ればもうその週の山場は超えたようなものだ。
俺はスマホを取ってあいつの連絡をかける。きっと昨日の疲れが出てかなり熟睡していて起こすのはかわいそうだが、残酷にも木曜日の一限目の講義はしっかり出席点が成績に反映されてしまうので、起こすしかない。
『お、おはよ……』
「おはよう、しんどいかもしれんけど起ろよ。今日は出席点がある講義だからな」
『はーい……』
昨日と違って今日はすぐに起きたようだが、声色からして相当辛そうだ。無理もない。木曜日というものは精神的にも一番疲労がたまっている曜日だろう。みんな同じだと思うけど、金曜は明日から休みっていう気持ちで勢いで行けるやろ?
それに昨日の一件もあって今日の実習はかなり億劫だろうしな。
まぁ、彼女のことをいろいろ考えても目の前に今いないのでとりあえずいつも通り俺も朝の支度をする。俺のほうはごくごく普通で何も変化はない。
食欲のない中で無理やり菓子パンと口に押し込んで、情報番組にため息をついて身だしなみを整えて時間になったら家から出て大学に向かう。いつものスタンスである。
大学というものは広大な面積を保有しており、大きな建物だけではなくグラウンドとかもたくさんある。朝練に精を出す学生も多い。
高校時代から思うが、よく朝早くから頑張れるなと本当にうらやましくかっこよく思える。あれぐらい活動的でいたいが、心がすでに怠惰に侵食されているので無理でした。
教室に入ると、すでにたくさんの生徒が席についている。さすがに出席点がある講義は参加率が圧倒的に違う。普段講義に来ていないさぼりがちなやつでもしっかり来ているからな。ちなみにこういう講義にすら来なくなり始めたらそいつは間違いなく留年です。お疲れさまでした。
出席点がたとえ成績の10%だとしても全部出ていれば、テスト最悪56点でいいからね。これはでかいよ。
たまに出席点とか提出物の平常点で30%とかあるのでそう言うの確実に取れば最悪テスト43点で単位とれるって言うね。逆にその30%が全くない状態でテスト受けて単位とるなら90点近く取って最低ラインの単位評価しかもらえんからね? バカにしたらいかんよマジで。大学これから行く人は頑張って講義を受けに行きましょう。
「おはよ……」
「おう、よく頑張ってきたぞ」
彼女は眠たそうに眼をこすりながら俺の隣にいつも通り座った。やはり疲れが抜けきってはいない。
ちなみに出席カードは寝ていようが、遊んでいようが講義している教室にさえいればくれます。お金払って入っている生徒になかなか叱責できない世の中なので。
そしていつも通りつまらない授業が始まる。大学の講義に楽しいものはあまりないと言い切っていいです。楽しい講義があるならその教授さんはかなり優秀です。
そして前も言ったが、平常点ある教授に限って授業がつまらなくまったくテストに直結しない実りのない授業なのだ。
そして講義が始まって10分ほどすると、出席カード配られてきた。名前と学籍番号を書き込んでマークする。
「よし」
これで今日の講義分の平常点を獲得したことに満足していると、肩にトンと重みを感じた。
「ん?」
隣を見ると彼女が眠っており、ぐらついた拍子に俺の肩にもたれかかったようだ。本来ならそこで目を覚ますだろうが彼女は目を覚ましそうもなく、すぅすぅと寝息をたてて眠っている。
「……話を聞くというのはこの講義中は無理そうだな」
早く寝ろと言ったのだが、彼女はどうやら遅くまで起きていてようだ。
この状態のままいるのは俺が変な体勢でいる必要があるのでつらいが、とても動かす気にはならない。
それはなぜかというと彼女がなぜ遅くまで起きていたかの理由が分かってしまったからだ。
「頑張ったな」
彼女のカバンから少しだけ飛び出したクリアファイルには、今日やる実習の内容の確認と分からないところや質問したいことを丁寧に彼女はまとめていたのだ。
彼女なりに何とかしようと昨日苦しい中、予習をしっかりと頑張ったようだ。
本当だったらもう嫌で適当になってしまいそうなところだが、負けずに頑張ったのだ。俺が彼女の立場ならすっかりさじを投げて諦めていたことだろう。頑張ったのだから少しぐらい講義中ではあるが、寝ていてもいいだろう。
隣に俺がいる__。 その事実を彼女はうまく利用しているということでいいのだ。
俺は彼女の出席カードを取ると、名前と学籍番号をマークしておいた。マークは機械で読み取るので、筆跡は問題ない。
マークし終えると、俺の出席カードと重ねて置いておいた。
その後は体勢はつらいながらも彼女の頭の重みを肩で感じながら、静かに講義を聞いた。不思議だ。いつもはうるささで彼女の存在を認識をしていたが、今日は一人でいたように静かなのに方に重みを与えることで隣に居る存在を主張してきてやがる。こいつは俺に何か負荷を与えないとダメなのだろうか。
そんなことを思いながら、黙々と一人でいた時のように講義を受けた。珍しくこの教授でポイントみたいなことを話していた。あとでこいつにも教えてやろう。
……俺の肩で幸せそうに寝やがって。本当に調子が狂うんだよ。
俺は一体どこまでこいつに調子を狂わされたらいいのだろう。
……それも悪くないけどさ。
シャーペンの丸まっている押す頭のところで頬をついてみた。微妙に反応して可愛かった。
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