6話 「穏やかな朝と穏やかなパートナー」
俺の部屋の中では、いつもよりも一時間早く目覚ましの音が響き渡っている。
「ぐぁ……まだ薄暗いじゃねぇかよ……」
普段ならこの時間よりも一時間以上遅く起きても余裕で間に合うくらいに早い時間帯である。
「……」
俺はもう一回布団をかぶる。そして再び浅い眠りにつく。
また事前に設定していた10分間隔のスヌーズが鳴り響く。それを止めては俺は少し眠り、またスヌーズが鳴りだして止める。
これを繰り返すとだんだんと低血圧の俺でも起きれるようになる。寝起きの悪い俺がどうしたら遅刻したりしないか考えた上での編み出した方法である。
そして最初にアラームが鳴り響いて約30分後。俺は完全に目を覚ましていた。この起きるまでのタイムロスを含めても、±0で結局約一時間ほどいつもよりも早く起きている。
そしてこうして早く起きなければならない原因を作った憎き相手に電話をかけることにした。
電話をつなぐ音が聞こえるだけでなかなか出てくれない。これでサイレントマナーとかにしていたらあいつぶっとばす。
『はぁい……』
「おい、朝だぞ。起こしたやったんだからちゃんと起きて遅刻するなよ」
『あと30分後に起こして……』
「俺にスヌーズ機能まで担えと??? 潰すよ?」
『こんなに早く起こさなくていいよ……大事な睡眠時間返して』
え? なんで俺ちゃんと早く起きて電話したのに非難されているのか。俺だってもっと寝たかったのに。
「お前は女なんだから、髪の支度とか化粧とかあるんだろ。早く起きないといけないと思って早く起こしたのに」
『そんなに時間かけてないから……』
「とにかく起きろ。これで寝直したら二度と連絡しないから思いっきり遅刻するぞ」
『うぅん……いじわるぅ……』
寝起きの女の子の声ってこんなにエロく聞こえるものなのか。くぐもった声で意地悪とか言わないで欲しい。
「ほら、ちゃんと起きたらお菓子なんか買ってやるから起きろって!」
説得すること約10分。
『ずっとうるさいからなんだか目が覚めちゃった……』
まるで俺が悪いと言わんばかりの言い方で非常に悲しい。ここは感謝されるところなのではないのだろうか……。
俺は彼女がちゃんと起きたことを確認すると、電話を切って自分の朝の支度をすることにした。
大学生は私服で行動する。年も年であるので寝ぐせや身だしなみがダサいとやばい。おしゃれはしなくてもいいので最低限整えるところだけ丁寧にしておかなければならない。
整え終えると、俺は朝の情報番組を見ながら朝ごはんを適当に口に押し込む。あんまり食べる気が起きないが、食べないわけにもいかないので一応頑張って食べる。
そしていつも通り大学に向かうべく、家から飛び出した。
「えへへ、今日はありがと」
「よく言うわ、俺が電話かけたら非難しまくってたくせに」
結局、彼女は遅刻することなく上機嫌で俺の隣に来た。よく見ればいつもよりも身だしなみが綺麗でより可愛く見えた。
今日の朝の流れから俺と同じく彼女も朝は低血圧でなかなか起きられずに朝の支度もバタバタしているのだろう。
いつもよりも格段に可愛く見える彼女が見れただけで、ちゃんと朝起きて起こしたかいがあったなってすごく思えた。
そしていつも通り彼女と一緒に講義を受ける。いつもと変わらぬ平和な午前中を過ごした。
と、そこまではよかった。
「ふうう~~~……」
俺の最大の試練は午後からである。今日からついに実習がスタートする。いつものように彼女と一緒に居るわけにはいかず、全く知らない女の子と一緒に活動していかなければならない。
どんな子だろうか。おとなしい子だとまだやりやすいが、きつめな性格の女の子だったらどうしようか。
俺は実習室の机に早めに座って、隣に来るべき人を待っていた。ちなみにあいつは超リラックスしている。昼飯も食っていい気分なのだろう。机に体を倒して伸びている。第一印象を大事にするがまるでない。
ある意味あいつのそんな性格がうらやましかったりもする。それくらい大胆不敵でいられるくらいの精神力が欲しいものだ。
「あ、あの……佐々木さんでしょうか……?」
「! は、はい。そうです」
そんなことを思っていると、一人の女の子が声をかけてきた。身長はかなり低くて中学生と言われてもバレないかもしれない。オレンジ色に近い茶髪でとても可愛らしい。
「か、神崎です……足を引っ張るかもしれませんが、よろしくお願いします……」
「こちらこそよろしくお願いします」
第一印象はかなり大人しめな女の子といった感じだ。しゃべり方、雰囲気ともに落ち着いていて物静かだ。
まだ一緒にやっていけそうなタイプの子で助かった。というよりも、相当な美人でびっくりした。
あいつもかなりの美人だが、負けず劣らずだ。こんな子に迷惑をかけたら、関係ない人間にまで恨まれそうなくらい美人だ。
早速、実験机が同じ近所の班のコミュ力の高いイケメン男が彼女に話しかけているが、彼女はそういうのが苦手なのかあまり反応が良くない。
そんな様子を見ているとチャイムが鳴って、午後の授業開始を知らせる。いよいよ実習のスタートだ。
「ではこのグループがまず3週かけて行う実習の内容が書かれたテキストを配る。名前と学籍番号を記入すること」
配られたテキストに名前を書き込むと、俺は今回から行われる実習の内容をテキストを開いて目を通して確認することにした。
果たしてどんなことをしなければならないのだろうか。
俺はペアの神崎さんの顔を見た。
すると神崎さんはかなり顔を青ざめながら、テキストの内容に目を通していた。どうやら今回の実習はなかなか厳しいものが含まれているようだ。
みんなの前で発表だろうか。それともレポートがたくさん出ていて大変なのかもしれない。
「ど、動物の解剖だなんて……私出来ないよ……」
神崎さんは震える声で小さくそう言った。
どうやらこれから行う実習はかなり女の子に厳しい内容が書かれているようだ。
俺もこれから行う実習内容を確認するべく、テキストを開いてその内容に目を通した。
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