3話 「お菓子からの流れ」
あっという間に週末は終わって、再び月曜日になった。
今週から実習も始まり、本格的に大学での勉強がスタートする。
大学生は暇だとか常に遊んでいるというイメージがある方も多いかもしれないが、実習が始まると結構忙しい。
まぁそんな話はともかく、今日も俺の隣にはやつがいる。
しかし、一週間も一緒に講義を受けているとだんだんとこいつのノリにもついて行けるようになってきた。
「今日も河童だー」
「河童になりたくてなってるわけじゃないからそんなこと言うな」
「今日も汚い字だー」
「俺だけ読めればいいんだよ」
そんな話をしながら講義を受けるようになっていた。
ところで、大学の教授の授業の仕方が色々あるということは皆さんご存知だろうか。
テレビとかで見る大学の講義というものはパワーポイント等でまとめたものをスライドで出したものを使って教えているのがイメージとしてあると思う。
しかし、それは50代くらいまでのある程度ネットを使ったりできる人たちだけであってさらに年の取った人がやると、高校までと変わらない黒板にあれこれ書く講義だって存在するのだが……。
それが俺にとって死ぬほどつらかった。
それはなぜか。
そういう黒板に文字を書くやつに限って字が汚い。俺が言えたことじゃないけども、せめて他人に読んでもらう前提で書くならもうちょっと読める字で書いてほしい。
後は死ぬほど小さな字で書いたり、なんで大きな黒板なのに隅っこのほうに書いたりするのだろうか、ああいう人って。しかも消すの死ぬほど早いし。
こういう時にボッチでありながら、あまり目がよくない俺は見えなかったりして書きとれなかったりすることがある。
なら前に座れってね。
そして現在それに悩まされていた。
「あれ、なんて書いているのだ……?」
コンタクトは入れているが、広い教室の一番後ろだとかなり視力がないと見えない。視力1.5以上ないと見えないと思う。
「み、見えない……」
こういう時に隣で一緒に講義を受けているやつがいれば、簡単に何を書いてあるか聞いたり、書いているものを見たりして確認することが出来るのだが……。
「はい、黒板に書いているの写したからここに。写していいよ」
となりからすっと彼女がテキストに綺麗にまとめたものを見せてくれた。
「あ、ありがとう……」
俺は彼女からテキストを見せてもらうと、手早く写した。
こうして俺は、彼女が起点を利かせてくれたお陰で講義の地味なピンチを乗り越えることが出来た。
「ふぅ、やっと一つ講義終わったね」
「ああ」
彼女の言葉に答えつつ、俺は席を立った。
「ん? どっかいくの?」
「今日から実習だし、早めに売店で昼飯買ってこようかなって」
「ああ、そう。荷物見ててあげるから行ってらっしゃい」
「頼む」
俺は教室から出て、売店に向かう。
「俺、なんだかあいつと一緒に居るのが普通になってきたな……」
それだけではない。あいつのせいとはいえ聞き逃したところを教えてくれたり、今日みたいに見えなかったところを教えてくれたりかなり助けられている。
売店に入ると、休み時間の短い時間で買い物をしようと多くの人が集まっている。
並んでいる商品を見ながら、欲しいものを手に取る。
そして自分の食べるものを飲むものを手に取ると俺はそのままレジに向かおうとした。のだが……。
「……」
たまたまレジに並んでいる列が長くて、最後尾に並んだ位置にあった商品棚にあるものを見て少し考える。
そして俺は、それも手に取ってレジに出した。
「お。おかえりぃ~~~~」
「おう」
売店が混んでいたこともあって、俺が戻るとすぐに講義開始のチャイムが鳴っていつも通りまた講義が始まる。
今から始まる講義はすごく緩い。そこで俺は、さっき買ってきたものを入れたレジ袋からあるものを取り出した。
「ほら」
「ほらって? チョコレート?」
「その……なんだ。一緒に摘まんで食べないか?」
俺がレジに商品を出す前に買ったのはチョコレートのお菓子だった。なんだかんだ俺の事を助けてくれる彼女が気軽に食べられるものをあげてもいいかなと思ってしまったのだ。
「いいの?」
「いいよ。お前のために買ったし。俺一人じゃこんなもの買わねえよ」
「そう。じゃ、遠慮なくいただきます」
ちなみにこの講義の先生は緩めで別に音をたてさえしなければ、お菓子を食べたり水分補給くらいは許されている。
許されていない先生の間で食べたりしていると何百人といるなかで怒られるので皆さん注意しましょう。
「ありがとう」
「いいよ」
俺は清涼飲料水のペットボトルを開けるとそれを少し口にした。
「ふう」
「ん。私にもちょーだい」
「え? お、おう。ほら」
俺は突然そう言われて、そのままペットボトルを渡してしまった。
それを受け取った彼女は何もためらうことなく俺が口をつけたペットボトルにそのまま口をつけて飲んだ。
「あ……!」
「ん、ありがとう」
こいつ、間接キスとかまったく気にしていない……だと?
俺は彼女からペットボトルを受け取ると、そのペットボトルをまじまじと見つめて間接キスについて悶々と考えた。
その後しばらく飲まずにおいておいたのだが、お菓子を食べるとのどが渇くもの。
悩んだが、講義中に変な行動していて声をかけられるのは嫌だ。もう素直に受け止めるしかない。腹立つけど、こいつ美人だしもういいや!
俺は勢いでそのままペットボトルに口をつけて飲んだ。
なんだろう、清涼飲料水なのに味がしないのは甘いお菓子を食ったからか?
「キスとか意識した?」
「!」
彼女が意地悪そうに俺の耳元でささやく。
「ずっと悩んでたねぇ。でも折れちゃった。それだけ私を受け入れてもいいって思っちゃった?」
「う、うるさい……」
何も言い返せなかった。なんかそういう理由も勢いに含まれていたような気がするからだ。
この時、俺は再び彼女に優しくして損をしたと激しく後悔したのは言うまでもない。
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