1話 「第一印象最悪度99%」

 「えー、二年生の時に習ったカラムの分離度R、理論段数Nの求め方の公式ちゃんと頭に入っているかー?」

 俺はぼんやりと講義を聞いて、その講義をを判断していた。

 え? 講義はちゃんと真面目に全部聞けハゲって? まぁそうなんだけども。

 大学の講義にはやっている教授の内容をしっかり聞くことに価値のある授業と全くない授業の二つある。

 テキストや教科書に書いていることをそのまま読むだけのやつの講義など、正直聞いても意味がない。

 どこが国家資格試験に出やすいのか、定期テストどういうところを生徒たちに問いたいのか。そういうことをちゃんと言ってまとめながら説明してくれる教授しか聞いても念仏みたいで意味がない。

 高校までは指名される危険性とかもあって、そんな品定めみたいなこと出来なかったかもしれないが大学は指名なんてされないので俺はそんな感じでいつも講義を聞いている。

 でも、意味ない講義をする奴に限って出席点とか、授業をちゃんと理解できているか出席カードに小テスト出して答えを書かせたりするから世の中、都合よくいかないといつも思ってしまう。

 「く、くふふ……こっちに頭向けないでよぉ……」

 講義が始まって30分経つのに、まだ今の講義の教授の頭が剥げているのにテキストを立てて顔を隠しながらゲラゲラ笑っている。めっちゃうざい。

 大学の教授だとなかなか若いうちから出来ないだろうし、その上自由すぎる大学生や膨大なテストや成績管理で毎年ストレスもたまるだろうに。

 そんなに笑ってやるなよ。いつかあんたの将来の旦那だって禿る可能性があるんだぞ。そんなに笑ってたら離婚ものだ。

 話はずれるが、日本というものはハゲというものに対してとても厳しいと思う。禿ている人はみんな口をそろえて言う。

 ─誰もが、ハゲたくてハゲているのではないと。─

 誰もが、その大きな敵に向かって対応策を打った。育毛剤を使った、海藻類を食べた。それでも、強大なハゲという力の前には勝てなかった。

 そんな努力を知らずにみんな指をさして笑う。そんな非常なことがあっていいのだろうか。俺はそうは思わない。

 だからこそ、ハゲの皆さんには胸を張って欲しい。

 「はい、ここ大事よー。ちゃんとここは復習をしておくことー」

 「あ、やっべ聞き逃した……」

 やっちまった。勝手に自分の中でよく分からないことを考えていて大事な授業のポイントを聞き逃してしまった。

 大学のボッチできついところは情報量の不足だ。高校までは誰が付き合ってるじゃの人間関係の別に知らなくてもいいようなことが多い。

 でも大学は、最近ネットを通して大事な情報を出したりすることも多くなってただ掲示板を見ればいいというわけでもなくなっていることをご存じだろうか。

 機械に弱い教授がメール配信するとうまく回ってなかったりすると、人脈で拾うことも大事なったりする。それ以外にもテストの共有も友達がいるに越したことは無いのだ。

 この状況も誰か一緒に講義を受けてさえいれば聞くことが出来るのに、ここに居る男はそれすら出来てない雑魚だった……。

 「ここ、聞き逃した? ここの問題はね……こうだよ」

 さっきまで笑い転げていた彼女がすっと横から頭出して、俺のテキストにすらすらと綺麗な文字でメモ書きをした。

 それよりも俺は彼女の頭が俺の顔の前に来て、彼女のシャンプーのいい匂いに思考が再びやられかけていた。

 「あ、ありがとう……」

 「どーいたしましてっ」

 さっきまでゲラゲラ笑い転げていた割には、よく授業を聞いている。俺はうざいとか授業が聞けないとか彼女を非難しつつ、彼女よりもちゃんと講義が聞けていないのがちょっと恥ずかしくなった。

 俺はそのあと反省して静かに授業を聞いた。今、聞いている講義は教授がかなりポイントを押さえて説明しており毎回ちゃんと注意深く聞いていなければならなさそうだ。

 講義終了のチャイムが鳴って、やっと一限目が終了した。

 「ふう……」

 講義って90分とかあるので、必ずどこかでダレてしまう。久々にかなりの時間集中していたのか、かなり一コマで疲れてしまった。

 っていうか、さっきからすごく隣が静かだったような気がするのだが……。

 「すぅすぅ……」

 彼女は隣でテキストに頭をのせて爆睡していた。先ほどから妙に静かに集中できるなと思っていたのはこれが要因かもしれない。

 「おい、講義おわちまったぞ」

 「ふぇっ!?」

 可愛らしげな声を上げて彼女は勢い良く頭を上げた。

 「う、嘘……講義おわちゃったの?」

 「お、おう……」

 「うわーん、寝ちゃったよーーーー。禿ているくせに授業めっちゃしっかりしてるの聞き逃しちゃったーーーー……」

 禿ているは余計だろ。

 しかし、彼女は相当落ち込んでいるようでしゅんとうなだれている。

 「……汚い字かもしれないけど、ポイント全部書いておいたから写すといいぞ」

 俺は落ち込んでいる彼女にすっと内容を書き込んだ自分のテキストを彼女に渡した。

 「いいの?」

 「いいのも何も、最初俺の事を助けてくれたろ? そのお返しさ。俺だけ教えてもらって君が困っているのに俺は見放すことはさすがに出来ないわな」

 「ありがとう!」

 彼女は嬉しそうに俺のテキストを開いて、自分のテキストに写し始めた。

 「……何この、ミミズが這ったみたいな字……」

 「字汚くて悪かったな!」

 「いや……これはさすがにひどくない……?」

 「もうそんなこと言うなら見せてやんねーぞ!」

 「あああ! 意地悪しないでぇ!」

 見せてやったのに何だこいつは。テキストを開いてすぐに俺のかっこいい字に文句を言ってくるとは。

 人のこと見てけらけら笑うし、可愛いくせに品がない。ちょっと一部だけ優しかっただけで典型的な若い女でチャラチャラした弱い男を批判したり、冷やかして遊ぶ質の悪い女と同じではないか。

 今回ばかりは助けられたからこいつを助けるが、次からは一切助けてやるもんか。

 

 

 

 

 

 

 

 

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