隣の女のおかげでいつの間にか大学生活が楽しくなっていた(旧題:隣の女に優しくなんかしない!……はずだった。)

エパンテリアス

1章 

プロローグ 「常にボッチの男に訪れた変化」

 四月。それはいろんな人たちが新たなスタートを切る季節。

 進学、就職など大きな出来事にスタート切る人間もいれば、学年が変わるというだけだが新たに難しい勉強や活動が求められたり、仕事の経験年数が一つ増えて後輩が出来て仕事の責任がより一層増したり、数字や言葉などの大きな表現がなくてもどんな人も小さなスタートであれどスタートを切るであろう。

 そして、ここにも一人その小さなスタートを切る男がいる。

 「また今日から講義やら実習やらしないといけないのかぁ……」

 佐々木健斗。この四月から大学三年生になる20歳の男。今まで彼女はいたことは無い。

 それどころか、大学に入ってまともな友達すら一人もいない。

 大学に通っている人は知っていると思うが、大学というものは本当に自由である。講義を受けて実習さえ受けて単位を取ればあとは遊ぼうが何をしようが自由。 

 高校までクラスがあって、クラスごとの拘束なんてものはない。学校が決めた人と一緒に行動することだって実習を行う数時間だけしかない。

 大学生にもなれば公私のメリハリもつき始めるので、高校までみたいに何か一緒にやっていてその流れで友達、恋人なんて甘い話で。

 自分から話しかけに言ったり、サークルに参加したりコミュ力を爆発させないと大学での楽しくて甘いライフなど過ごせるはずもない。

 そして俺はそんな生活をしようとも思っていないので、自然とボッチになって大学に通い始めて三年目になるのにまともに話す相手はいない。

 一人でいる、ということは俺にとって非常に心地の良いものであった。

 周りの大学生の聞こえてくる話だと、サークルだの合コンだのチャラい男や女がどうだこうだに加えて平然と性的なお話までしている。それもたいてい女がな。

 俺はピュアピュアなので、そのような話を聞くと耳をふさいで聞こえないようにしている。

 「おい……誰だよ。いつも俺の座っている席に荷物だけおいて占拠したやつは」

 大学の講義というものは、教室の中の席であれば自由席。どこに座っても何も言われない。

 しかしながら、大体一緒に進級していくのでみんなが座って落ち着く位置というものが進級しても大体決まっているのでそんなに変わらないものだが、たまに空気の読めないやつがいる。

 大体、そういうのは留年したバカップルやチャラチャラしたやつ(個人の偏見です)とかが、陣取ってくるんだよな。

 こうなるとボッチの俺には人権などないので、空いている席に適当に移動して座るしかない。

 俺はきょろきょろとあたりを見回して、空いている席を探した。

 大体は今、座って落ち着いている生徒さんから何人分か空いた席に座らないとあとからその生徒さんのお友達が来て、その人の席に座ったりでもしたら空気がやばい。俺の心もやばい。

 しばらく探していると、後ろのほうの席でかなりごっそりと空いている席を見つけたので、隣に荷物を置いて座り込んだ。

 ちなみに荷物を隣の席に置くのは、隣に座らないでという俺の無言のサインである。あまりマナーがよくないので皆さんはやめましょう。

 当然俺も席が混んでいるときはしないが、今は空いているので問題ないだろう。

 俺はカバンから配布された今からの講義で使うテキストと筆記用具を取り出す。

 そんなときに俺の座っている机の席のラインがたくさん空いているにもかかわらず、俺のカバンの置いた反対側の隣の席に座るものがいる。嫌がらせだとしか思えない。

 こんな陰湿な嫌がらせをする奴は一体どんな奴だと俺は顔を上げてその憎き奴の顔を見た。

 「ここ、空いてますよね。私の普段座っている席なんか見たことない人に座られちゃって。よかったらここに座らせてくれませんか?」

 そこにいたのは、碧色の長い髪をストレートに伸ばした目も同じく碧色のあまりにも美しい女性だった。

 「あ、ああどうぞ……。全然空いてますので」

 「どーも」

 その女性の美しさに押し込まれた俺はそのまま彼女を隣に座ることを許してしまった。

 隣にそっと彼女が座ると、ふわっと彼女から甘い匂いが漂ってくる。

 って、いかんいかん。この人はただ単に俺の隣に座っただけ。特に俺との接点などないのだ。

 いつまでも彼女に見惚れていたら、気持ち悪がられてしまう。ただでさえ、常に一人で陰湿キャラみたいに見られているのにさらに悪評なんてきつい。

 でもこの人、なんでわざわざ俺の隣に座ったんだ? まさかこの人のお友達がこの後にわらわら来たりしないだろうな!?

 そうなったら地獄なんだが。長机一列に座っている人が男子一人に残り女子全員とかその男子めっちゃきもいやんけ。

 多分、大学通っている人ならなんとなく分かってもらえそう。高校までみたいに席替えくじ引き事故ったのとは話が違うのだ。

 「あ、あの……。これからあなたのお友達と来ますかね? 来るのでしたら、俺はここ離れようと思うんですけど……」

 あまり話しかけたくはなかったが、大事なことだ。俺はしぶしぶ彼女に話を切り出してみた。

 「いえ? 私も一人なので、そこはお気になさらずに」

 私もって……ちょっとは俺に友達来るのかなって意識してくれてもいいのではないだろうか……。

 「で、でしたら……隣いっぱい空いてますよ? 隣同士だと狭かったり気持ち悪かったりしませんか?」

 言った後に気が付いた。余計なことを言った。いつも俺はこうだ。余計なことを言って他人との空気を悪くする。

 しかし、彼女は笑顔でこう言った。

 「いえ、全然?」

 「そ、そうっすか……」

 俺の想像していた返事を全くしない彼女に俺は調子を狂わされていると、講義開始を知らせるチャイムが鳴った。

 とりあえず、隣の美女の存在を頭から消し去る。授業に集中しよう。

 「ねえねえ、この先生めっちゃハゲじゃない??」

 君、ちょっと黙っててくれないかな?

 

 

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