第2話

「えー。閑古鳥が鳴いておりますが、お笑いを一席。」

夫は、話す。

「友人の中であなたを敢えて、動物に例えるなら?」

「深海魚。」

「結婚指輪の斬新な使い方を、教えてください。」

「しっかり食べる。」

「悪魔が俺に囁いた。なんと言った?」

「この耳がカリフラワーみたいになるんだよ。」

「マァ、独り言は、これぐらいにして於きまして。」

客の入りは、上々だったが、受けは悪くない。

「えー。最近では、インフルエンザなんかが流行っておりまして。私は、流行には乗らない性分でして。病は気から、なんてェ言いますが、ありゃあ、嘘ですナ。栄養のあるものを少し摘んで、夜、ゆっくり休みゃあ、病気なんてかからないんです。生活習慣病が、精神分裂病と一緒になって、統合失調症という訳の分からない名前の病気が出来たんです。それにしてもグッと寒くなりましたナ。こんな日に、落語を聴きに来ようか、という方の気が知れません。もっとも演る方も演る方ですが。こんばんは!」

「よぉお~、どうしたってんだい。熊五郎じゃねぇか。仕事はどうしたい?」

「やってやれねぇ、口は持ってるんだけどよぉ。なんだかやる気がしねぇんだ。」

「やれやれ、こんな奴ばかりだと、この国の行く末が問われるねぇ。」

「それが俺のポリシーだからよ。」

「お前さん、難しいこと知ってんな。どこで覚えたい?」

「意味は知らねぇ。偉い人が、そう言ってたよ。」

「バカヤロ。知ったような口叩くんじゃねぇよ。お前さん、深海魚みてぇな生活してるじゃねぇか。」

「どっかにいい珠でもいないかねぇ。」

「家で指くわえてても、珠は現れねぇよ。表へ出な!仕事しな!女房見つけな!」

「大丈夫だ。三食だけは、しっかり食べてる。」

「馬鹿につける薬はねぇってのは、このことだねぇ。じゃあ、スポーツでも始めなよ。」

「柔道なんてのは、どうだろう?」

「いいんでないかい?」

「ただ、寝技で耳がカリフラワーになるってぇ話じゃねぇか。深海魚の耳がカリフラワーだと、アンコウにもならねぇ。」

「何馬鹿なこと、言ってんのさ。全く馬鹿につける薬はねぇってのは、このことだね。」

「でしたら、勉強し直してきます。」

突如、高座を降りた夫を見て、ようやく三題噺をしてることに気づく。

 枕が良すぎただけに勿体ないという気がした。三題噺とは、客から三つのお題を戴いて、それを、落語にしようという古い企画である。


「なんだ。今日の飯は、科蕎麦じゃねえか。うちにもまだ、そんな贅沢品があったのかい。」

夫が、驚いている。

「作るのには、苦労したわよ。巷じゃこれをラーメンって言うんだよ。科蕎麦なんて古い呼び方するのは、サザエさんかアンタ位だね。」

私は、夫のこういう古い言い回しを、実際の会話でするところが、嫌いだ。職業病と言ってしまえば、それまでだが、夫婦生活ぐらいは、普通に会話したい。

「ねぇ、アンタとあたしは、腐れ縁だそうだよ。」

「腐れ縁が、こんなに新鮮な科蕎麦が作れるか?この通りまだ、新しい。」

「旨い。」

そう呟いて、私はラーメンを啜った。

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