第7話 心強い協力者
わたしが孤児院に戻れた翌日に訪ねてきたのは、いつもリーゼが訪れたときには必ず後ろに控えていた女の人ーー確か、シルヴィさん、だったと思うーーだった。
「エリカ様、私にリーゼロッテ様をお助けするお力をお貸しいただけませんか?」
わたしの部屋に案内して、わたしが扉を締めるやいなや開口一番に言われた言葉はそれだった。
てっきり王様側の人だとばかり思っていたから、正直驚いた。
「リーゼロッテ様に幼い頃からお仕えしてきた中で、リーゼロッテ様が本当の笑顔を見せたのがあなたに対してだけなのです。……私はリーゼロッテ様にお仕えする騎士として、何よりも幸せを願っています。もしあなたのリーゼロッテ様へのお気持ちが変わらないようであれば、お二人に幸せになって頂きたいと思っています」
わたしは声が出なかった。
わたしだけではどうにも出来なかった、リーゼと二度と会えないかもしれないという避けなければならない現実に、一筋の道筋が天から示されたような感じがした。
わたしの答えは考えるまでもない。
「リーゼを愛する気持ちは変わりません。またリーゼに会いたい。話したい。触れ合いたい……。リーゼと会うためなら何だってします。どうか、どうかわたしを連れて行ってください……!」
返事と言うよりかは懇願だ。リーゼに会いたい。ただそれだけの気持ちで。
「ありがとうございます……勿論です。よろしくお願いします」
「でもあの……シルヴィさんはいいんですか? リーゼが陛下によって連れて行かれたのに、それを助けようってことはつまり、そういうこと、ですよね?」
「はい。陛下には昨日までの一週間、実家で謹慎をしていろと命令されました。……ですがそこで考えて実感したのです。私はこの国ではなく、リーゼロッテ様に忠義を誓っているのだと。そしてリーゼロッテ様が望むことが例え国に背くことであろうとも、私は命をかけてお供すると。あなたはリーゼロッテ様が家族以外で唯一、愛情を抱いた人だから」
あなたを助け、リーゼロッテ様の幸せを叶えることが今の私の使命なのです。そう断言したシルヴィさんは前の駄々っ子の保護者役をしているという印象からは随分と変わり、わたしと同じような覚悟を背負ってここにきているのだと感じられた。
そしてこう続ける。
「私たちだけでどうするのか、という疑問もあると思いますが、私の家族が私達を支援してくれます。道中の心配は必要ありません。一刻も早くリーゼロッテ様のもとへ急ぎましょう」
まるで夢なんじゃないかと疑うほどスルスル話が進んでいく。
……なんか、シルヴィさん焦ってる?
なんだか上擦って早口になりがちな口調と落ち着きのない様子。
シルヴィさんもリーゼのことが心配なんだ、そう思うだけでなんだか力強い。
でも……。
「シルヴィさん」
「はい? 何でしょうか」
「少し、落ち着きましょう……?」
ハッとしてまじまじとわたしを見つめてくる。
そして一度大きく深呼吸をしてわたしに向き直る。
「……確かに、焦っていましたね。ありがとうございます」
「焦りは失敗の原因ですよ。シルヴィさんもリーゼが心配なのは分かりますが、こういう時こそ落ち着きましょう、ね? わたしだって我慢してるんです」
「私としたことが、騎士として失格ですね……。感情に振り回されるなんて一番してはいけない事なのに」
「それだけシルヴィさんもリーゼが大切なんですよ。だからこそ、リーゼを信頼しましょう?」
「そうですね」
そう言ってにっこり微笑んでくれたシルヴィさんの表情には少し余裕が戻ってきたような感じがした。
「さっきリーゼの居場所が分かってるような口ぶりでしたけど、リーゼは本当にそこに居るんですか……? ただでさえ時間が無いのに、もし違っていたりしたら……」
「いえ、これは元々同僚に聞いた話ではありますが、国で重要な位置にいる父から確かにそこに居る、というお墨付きを貰っているので大丈夫です。そこへ向かう馬車の手配や宿の都合も既に付けてあるのでエリカ様の準備ができ次第、すぐに出発できます」
そこまで話が進んでいたんだ……。
「わたしが一週間かけてできなかったことを、あっさりとされるとなんか寂しいなぁ」
つい口に出してしまった本心。ハッとして目の前のシルヴィさんに頭を下げようとするも、暖かくて優しい手に阻まれた。
「いいえ、あなたはリーゼロッテ様の心の支えになっています。あなたがきっと助けに来てくれる。また会いたい。その気持ちがリーゼロッテ様の力になっています」
「……でも」
「……リーゼロッテ様と仲良くなってくれてありがとう。あの方が笑顔をまた見せてくれるようになったのは、あなたのお陰です。あなたをリーゼロッテ様と共に過ごせるようにする。これが今の私の使命です」
だから気に病むことはありませんよ。
そう言って慣れない手つきでぎこちなく頭を撫でてくれたシルヴィさんからは、固い決意とリーゼを想う忠誠が感じられて、あぁこの人なら信頼して大丈夫だな。そう本心から思えた。
「今から、出発できますか?」
「ええ。いつでも」
「……いきましょう」
「ええ」
わたしも覚悟を決め、シルヴィさんにこう言った。
シルヴィさんが手を差し出してくる。
きっとこの手を取ったらもう二度と今までの生活には戻ることは出来ないのだろう。
でもわたしに迷いはない。
リーゼのためなら。
リーゼとの未来のために。
わたしは進み続けなくてはならないのだから。
そして。
シルヴィさんの手を、力強く握った。
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