第3話 桃色の髪をした少女

「あなた達、行く所が無いならうちに来る?あったかいスープあるけど…」

「スープ!行くのだー!」


 "スープ"という言葉に瞬時に反応したスカーが元気よく即答する。と、同時に少女がにっこりと微笑んだ。


「ばっかお前!少しは警戒しろよ!」


 茎と葉の間から金色の癖毛を覗かせたプリムが、スカーのあまりの警戒力の無さに思わず怒鳴る。


 少女はスカーからプリムへと視線を移し、自信ありげな顔をした。


「ふふふ、大丈夫よ!アイリスおばあちゃんの作るご飯は絶品なんだから!」

「で、でもお前だって、そのアイリスおばあちゃん?だって僕たちの敵かもしれない!」

「私はあなた達が勝手に畑のものを食べていたから怒っただけ。私は困ってる人を放っておけないの。アイリスおばあちゃんは私の味方なんだから、勿論あなた達の味方よ!……それともあなた達このままこんな暮らし続けるつもり?」


 プリムがうっと言葉を詰まらせる。

 それもそのはず、昨日彼らは冷たい雨を全身に浴びたまま、薄いシーツにくるまって埃まみれの巣箱で寒さを凌いだという、記憶に新しい辛い体験をしたのだ。


「行くのだー!」


 全く迷いを見せないように、スカーはあっけらかんと元気に二人に声をかける。少女はスカーを左手の手のひらに移し、その手を彼らに差し出した。


「スカーはかんは妙にいいからな…付いて行ってみるか…」


 いつの間にか冷静になったインクがやれやれという感じで立ち上がり、少女の差し出した左手の上に登る。


「もー!二人ともー!」

「あなたはどうするの?」

「……行くよ、二人が行くんだから……」


 それまで身を隠していたプリムも、少女の問いに対して姿を現し、差し出した左手へ渋々登る。


「…よし、じゃあ動くから、ちゃんと掴まっててね!」


 少女が三人に声をかけ、ゆっくりと立ち上がる。少し丸めた手の指に必死にしがみつく彼らも、じきにその指先から見える光景に目を輝かせた。


 あんなに近くにあった土や草が、とても遠くに見えた。また、周りの景色もこんなに見渡せるのかと言わんばかりに広く、色鮮やかに、朝露が太陽の陽の光を吸ってキラキラと反射している。


 朝が作り出す幻想的な景色に見とれる三人をよそに、少女は畑の隣にあるログハウスの家へと向かってさっさと歩を進めて行った。

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