第2話 ににににににッ人間!?

 翌朝、雨がすっかり上がり陽が昇る頃、巣箱の中では三人の腹が大合唱のごとく鳴っていた。朝はまだ少し冷えるが、もうじきに暖かくなるので、三人はそれほど気にしていなかった。

 そう、そんな事よりも重要な問題を抱えていたのだ。


「おなかすいたのだー!」

「あぁ……僕も限界だ」

「なんか食べ物落ちてないかなぁ……木の実とかさぁ」


 インクが水滴でよく見えなくなった丸メガネを布で拭いている間に、ボサボサの赤髪を小さく横に振りながら、スカーが“おなかがすいた歌”を歌い始める。

 直後、巣箱から身を乗り出したプリムが外に広がる光景に目を光らせる。


「インク!スカー!外、食べ物がたくさん成ってるよ!」


 歓喜の声を上げ、外に出るプリムに続いてスカーも巣箱を飛び出す。


「ちょっ!待って!おい!」


 メガネを綺麗に拭いていたインクも少し遅れて慌てて巣箱から飛び出た。

 そこで三人が目にしたのは、自分たちが泊まった巣箱のある木のわきの崖下に、たくさんの作物が実っている畑だった。三人とも昨日から丸一日食べておらず、たくさんの食べ物を目にして彼らの腹の虫は、その小さな身体からは想像できない飢えた野獣の唸り声のような音を立てている。


 インクがふと目を斜め右下へやると、そこには古いログハウスの家がある。

 同時にスカーが崖下の畑めがけて走り出した。


「わ〜い!たべものなのだ〜!」

「おい待てスカー!」


 インクが慌ててスカーを止めようとするが、時すでに遅し。スカーの足は止まらず、更にいつもに増して速かった。気付くともう崖に垂れているつたと段差を伝って器用に降りはじめていた。


「危険だけど……でもとりあえず追いかけよう!」


 インクの視線の先の民家に気付いたプリムが、慌ててスカーの後を追う。


「そ、そうだな」


 インクも二人に続いてつたと段差を伝って降りていくが、どうも彼は鈍臭いようで二人からだいぶ遅れて畑に到着した。


 インクがゼェゼェと息を切らしながら葉をかき分けて畑に到着した時には、スカーもプリムも右隣にある民家の事など忘れて目の前のミニトマトに夢中になってかぶり付いていた。


 キラキラと水滴が吸い付いたような、瑞々みずみずしい作物たちを目の前にしたインクも、思わず注意する事を忘れ、生唾をごくりと飲み込んだ。と、その時だった。


 突如として現れた大きな影と、そして大きな手が、食べ物に夢中のスカーを包み込み、上空へと連れ去って行った。一瞬ポカンとしていた二人だが、慌ててスカーの行方を目で追う。


 そして二人は見たのだ。何者かに捕まっても尚、呑気にプチトマトを持ってもぐもぐと口を動かしているスカーを。そして呑気なスカーを片手で掴んでいる、その正体を。


「あなた達、ここはアイリスおばあちゃんの畑よ!」


 大きな声が、あたり一面に響き渡る。


 プリムは咄嗟とっさに茎と葉の隙間に身を隠したが、インクは腰を抜かして地べたにへたり込み、ブルブルと震えている。


 二人の目線の先にいたのは、ピンク色の髪を肩の下まで下ろした、サラサラの髪の人間の女の子だったのだ。女の子は、少し怒ったような、困ったような表情でスカーに話しかける。


「あなたが今食べているものはね、アイリスおばあちゃんが一生懸命育てた大切な食べ物なのよ!」


 スカーは少女を見上げて、食べかけのプチトマトを両手に持ち、困った表情で返答した。


「ごめ、ちゃい。おなか、ペコペコだったのだ…」


 しょぼんとしたスカーの様子を見て、少女は少し険しくなっていた表情を緩めた。


「あなた達、おなかすいてるの?」


 少女が三人をそれぞれ見る。泥が付いたボロボロの汚れた服に、ボサボサの髪の毛。もっとよく見ると、三人はそれぞれ小さい擦り傷もたくさんしているように見えた。


 そして少女は最も重要な事に今更気付く。


「あなた達……小人?私初めて見たわ……。えっと、どこから来たの……?というか私が何言ってるか分かる?」


 思わず矢継ぎ早に質問をしてしまう少女の様子を見て、インクが震える口をゆっくりと開く。


「ぼっ僕たちは…遠くの村から来たんだ。昨日から何も食べてなくて…どうしても腹が減って……頼む、許してくれ……」


 身体を震わせて許しを請う小人の姿を見て、少女は少し考え込んだ様子を見せ、そして口を開いた。


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