第44話 闇夜のアノマリー

「皆さん、シールは剥がし終わりましたか? 4、8、10、15、ですよぉ、あ、そこ、そこ、シートを他の人に見せるのは禁止ですよ! 口外するのも禁止です!」


 と、見せ合いをしようとしていた女子たちに南条が釘を刺す。


「それと、4に書かれている相手と話せるのは8に書かれている場所だけで、それ以外の場所での会話は禁止となっております。なんとか周囲を利用してその場所に誘導して指示を実行して下さい、それが、この、ビンゴだぜ! の基本ルールです」

「「「ビンゴだぜ!」」」


 なぜか、男子たちが、ビンゴだぜ、に反応する……。


「あと、個人戦では面白くないので、チーム戦にする事にしました。男子チームと女子チームに分かれて戦ってもらいます。指示を実行出来たら3ポイント、指示を実行出来なくても2ポイント、ですが、ルール違反での失格は0ポイントになりますので、ご注意下さい。最終的にポイントの多いチームが勝ち、負けたチームには後日、罰ゲームとして、第2回露天風呂攻防戦の防衛側、つまり、お風呂に入る側にまわってもらいます」


 うーん……。

 つまり、男子と女子の対戦形式で、指示を実行出来たら3ポイントもらえて、実行できなくても2ポイントはもらえると……。

 で、直接指定された相手とは話せなくて、話せるのは指定された場所のみ、つまり、指示を実行する時だけ……、さらに、ビンゴシートの内容を他の人に教えたら失格、と……。

 で、負けたらお風呂を覗かれる側になる、と……。

 もう、びっくりするくらい露骨……。

 ポイント配分といい、誰にも口外させないで、隠れてエロい事する気満々じゃない……。

 ふざけやがって……、楽しい気分が台無しになった……。


「えーっと、あとは男子が有利になりそうなので、ハンデといたしまして、我々参謀班の男子3人は不参加、運営側、ゲームマスターとしてルール違反の監視や安全管理、その他もろもろを行いたいと思います。あ、あと、エシュリンもまだ不慣れなので運営側のお手伝いをしていただきます」


 南条、青山、くんくんの3人がいないのか、それは助かるね……。


「ええ……、なんか、指示酷いよ……」

「うん……、それに、負けたらまたお風呂の防衛側にまわるんだよね」

「なんか、ずるいよ、これ、女子に不利っぽいよ……」


 女子のみんなが不満を口にする。

 だよね、これ、おかしいよ、私の誕生日なのに、全然楽しくない……。


「みんな、心配しないで、これは接待よ」

「私たちの勝ちは決まっているから、今度の露天風呂攻防戦の攻めは私たちよ」


 と、参謀班の綾原と海老名がこっちにやってくる。


「そ、そうなんだ?」

「私たちに勝たせるためのゲームなんだ?」

「だよね、2回連続防衛なんてずるいよ、その辺ちゃんと考えてるよね」

「うん、うん、だって、今日はナビーのお誕生日なんだから、私たちに勝たせてくれるよ」


 と、みんなが明るい表情を覗かせる。


「ルールを熟知している私と唯がいて、あっちは人見たち3人がいない、ポイント的にも有利」

「うん、それにその指示を実行しなくてもポイントは入る。基本的にあっちの行動を妨害して失格に追いやって勝つ、それが、この、ビンゴだぜ、の基本的な考え方よ」

「みんな、接待を存分に楽しみましょう、勝ちは約束されているから」


 と、綾原は言うけど、甘い……。

 あいつら、絶対手加減なんてしてくれないよ、だって、欲望の塊だもん、エロい事しか考えてないよ。

 私がみんなを守らなきゃ……。


「みなさん、ミッションをコンプリートした際には、大きな声で、ビンゴだぜ! と、叫んでください、それで、我々運営が駆けつけ、ゲームクリアの判定をさせていただきますので」

「「「ビンゴだぜ!」」」

「こらこら、まだ早い」


 と、男子たちは大盛り上がり。

 くっ、ふざけやがって。


「それでは、みなさん、ビンゴシートの内容は暗記いたしましたね? これよりそれを回収いたします、その際、サインをいただいて、その内容をこちら、運営側で確認し、ミッションコンプリートの判断材料とさせていただきます」


 と、参謀班の男子3人とエシュリンが広場をまわってビンゴシートの回収を始める。


「ナビー! サイン、ぷーん!」

「あ、うん……、はい、エシュリン」


 エシュリンからペンを受け取り、ビンゴシートに自分の名前を書き込んで、それをペンと一緒に返す。


「それでは、回収は終わりましたね? まだビンゴシートを持っている人はいませんね? いませんね?」


 と、南条が何度も確認する。


「それでは、ミッションスタート! ビンゴだぜ!」

「「「ビンゴだぜ!」」」


 男子たち全員が拳を突き上げて叫ぶ。

 こうして、ビンゴだぜ、が始まった。

 まず、どうすればいいんだろう……。

 私は秋葉をルビコン川に連れ出して服を脱ぎながら愛の告白をすればいいんだから……。

 直接話すのは駄目だから、誰かに頼んで秋葉を呼び出してもらって……、いや、それは、駄目だ、私のターゲットが秋葉だってばれちゃう、ばれたら最後、秋葉は絶対にルビコン川には近寄らなくなる……。

 うーん……。

 と、色々考えを巡らす。


「ねぇ、ナビー、機嫌はどうだい?」


 生活班の佐々木が話しかけてくる。


「うん? まぁまぁだよ?」

「そっか……、笹雪さんは?」

「普通」

「そっか……」


 と、彼が変な質問を繰り返す……。


「徳永さん、さっきのカメラのトリックは凄かったね」

「うん、ありがと」

「綾原さんはこのゲームに詳しそうだから強敵になりそうだなぁ」

「そうね、私も一応ルール作成には一枚噛んでるから……」


 と、中央広場のあちこちで男子たちが女子たちに話しかけている。

 でも、どこかおかしい、男子たちが自分の話しかけた相手ではなく、他の会話する人たちの様子を見ている……。


「あ、あれ! どうしたの、伊藤さん、俺とは話してくれないの!?」


 と、管理班の久保田が大きな声を出す。

 それを男子たちが一斉に見る。

 あ、わかった。

 ターゲットの確認をしているんだ! 

 女子が男子の誰をターゲットにしているかの確認だ! 


「みんな! 男子たちと話しちゃ駄目! 会話禁止、ターゲットがばれちゃう!」


 と、私は大声で叫ぶ。


「作戦がばれたぞぉ!」

「退却だぁ!」

「逃げろぉ!」

「ひゃっほお!」


 と、男子たちが草原のほう走っていく。

 な、なんなんだ、あいつらのテンションは……。


「だ、男子たち、チームで動いているのね……」

「うん、こっちも、何か作戦考える?」

「雫、何か案はない?」


 と、徳永が綾原に意見を求める。


「そうね……、とりあえず……」

「海老名さん!」


 綾原が何か話そうとした時に、生活班の山本がこっちに走ってきた。

 そして、海老名の前に着くと、しゃがんで靴紐を直し始める……。


「はい?」


 海老名が首を傾げて聞き返す。


「あ、あの、海老名さんの気持ちは凄くありがたいんだけど、俺には、その、別に好きな人がいて……」


 山本が靴紐をほどきながら話す。


「は、はい?」


 海老名が困惑したような表情を見せる。


「やっぱり、その……、ええっと、ごめんない!」


 そして、山本が靴を両方脱ぎ立ち上がる。


「別れてください!」


 と、大きく頭を下げる。


「よし! ビンゴだぜ!」


 さらに、今度は拳を突き上げて叫ぶ。


「ミッションコンプリート! 山本新一、ビンゴだぜ!」

「「「ビンゴだぜ!」」」


 ええ!? 

 と、私は司会の南条を見る。

 彼の手には、海老名に、中央広場で、靴を脱ぎながら、別れ話をする、と、書かれたビンゴシートが握られていた。

 と云うか、ここも指定場所のひとつだったの!? 

 あ、そうか! だから、男子たちが草原のほうに逃げていったのか! 


「み、みんな、今すぐここから出て!」


 他にもここが指定場所の人がいるかもしれない! 


「あ、鹿島さん! 肩に毛虫いるよ!」


 と、さらに、山本が言い出した。


「え、ええ!? ど、どこ、山本くん!?」


 鹿島が大慌てで肩を手で払う。


「鹿島美咲、アウトー! ターゲットの名前を呼んでしまいましたぁ! 失格です!!」


 と、南条が野球のアウトみたいなモーションで叫ぶ。


「よっしゃぁ! 二枚抜き!!」


 山本がガッツポーズをする。


「さすがだぜ、山本!」

「おまえがうちのエースだ!」

「よくやった!」

「ひゃっほお!」


 と、草原の男子たちが大盛り上がり。


「ご、ごめん、みんな……」

「山本が来たとき、逃げればよかったんだね、ごめん……」


 鹿島と海老名が謝る。


「だ、大丈夫だって、まだ行けるよ」

「うん、始まったばかりだし」

「まだマージンあるし、大丈夫だよ」


 と、みんなが二人を励ます。

 これ、本当に、血も涙もない騙し合いなんだね……。

 あーあ……、あったまきちゃった……。

 あいつら、全員、ぼっこぼこにしてやるよ……。

 私は目を細めて、やつらを見る。

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