第43話 ビンゴだぜ

 一通りパレードをしたあと、最初の中央広場に戻ってくる。

 細切れの新聞紙を大量に撒いたせいか、馬車の内装がよく見えるようになっていた。


「なんにもない……」


 そう、新聞紙以外になにもない。

 見えるのは塗装もなにもしてない茶色い木目の内壁だけ。


「ど、どうせなら、ちっちゃい椅子も欲しかったな……」


 と、思うけど、高さが足りない、たぶん座れないと思う、四つん這いでうずくまった姿勢じゃないと頭をぶつけちゃう。


「も、もう少し、大きく……、いや、でも、これくらいでいいのかな……、みんなかわいい、かわいいって大好評だったし……」


 私はもぞもぞと、馬車から這い出ていく。

 そして、そのまま転がり落ちるように馬車から降りる。


「ふぅ……」


 と、立ち上がり一呼吸つく。


「かわいかったよ、ナビー!」

「やっぱ、ナビーにはピンクが似合うな」

「うん、うん、ナビーには、白よりも赤系が似合うと思う」


 みんなが私と馬車のまわりに集まってくる。


「乗り心地はどうだった?」

「うん、揺れも少なくて快適だったよ、彰吾」

「速度は怖くなかった?」

「大丈夫だよ、ハル、ちょうどよかった」


 笑顔で応対する。


「ぷるるぅ!」


 と、ウェルロットがいななく。


「あ、ごめんね、ウェルロット、疲れてない?」


 優しく頭をなでながら、その瞳を覗き込む。


「ぷるるぅ!」


 うん、元気、疲れてないみたい。


「せっかくみんなが集まったんだから、記念撮影でもしましょうか」


 と、女性班の徳永美衣子が三脚付きのカメラを持ってくる。


「お、いいね!」

「賛成! 修学旅行の集合写真ね!」

「撮ろう、撮ろう!」


 みんなも大賛成。


「まだバッテリーあったんだ?」

「私のスマホ、もう電源入らないよ」

「うん、まだ行ける、まだ大丈夫だと思う……」


 と、徳永が撮影の準備をしながら答える。


「えーっと、じゃぁ、暗いから、焚き火の前に移動して」


 みんながその指示に従って移動する。


「真ん中はナビーと馬車ね」


 私とウェルロット、それと馬車が真ん中で、女子が私の左右、男子が馬車のうしろって感じに整列する。


「タイマーは10秒ね! 撮るよ!」


 と、徳永がファインダーを覗き込みながら言い、そして、ボタンを押して、急いでこっちに走ってくる。


「みぃちゃん、こっち、こっち!」


 彼女は女性班の人たちの間に身体を滑り込ませる。


「4、5、6……」


 と、徳永がカウントする。


「7、8、笑顔ね!」


 私はそれを聞いて、ウェルロットの頭を両手で抱いて、精一杯の笑顔を作る。

 じっと、笑顔で固定する……。

 こ、固定する……。


「あ、あれ、シャッターがおりない、設定間違ったかな……?」


 徳永がポツリと言う……。


「ええ!?」

「お、俺の最高の笑顔が!」

「ひどい、みぃちゃん!」


 と、みんなが表情を崩して笑う。


「カシャ」


 その瞬間シャッターがおりた……。


「ふふ、大成功……」


 徳永がにやりと笑う。

 その手には黒い物、リモコンが握られていた。


「ええ!? タイマーじゃなかったの!?」

「油断したとこ撮られた!」

「ひっどい、みぃちゃん!」

「変な顔になってないよな?」

「いや、でも、笑った」

「うん、さすが、徳永さん、ナイス」


 と、みんなが大笑いする。


「もう、美衣子め、騙したな!」


 私も便乗して、ウェルロットに頬ずりしていた顔を上げて叫ぶ。

 でも、ちょっと笑っちゃうよね、これは……。


「カシャ」


 と、また、シャッターのおりる音がした。


「本命はこっち……、みんなのその笑顔を撮りたかったの」


 今度はにやりじゃなくて、顔を傾けてはにかんだような表情を見せる。


「に、二段構え……」

「完璧にやられた……」

「さすがだ、もう何も言えん……」


 本当に、すごいな……。

 最高の一枚になったと思うよ。


「もし、日本に帰れたら、プリントしてみんなに渡すね、それまで大切に保管しておく……」


 と、徳永がカメラを片付けながら言う。


「お、いいね!」

「楽しみが増えた!」

「へ、変な顔になってなきゃいいけど……」


 それにしても、イベント盛り沢山のお誕生会だったよね……。

 楽しかったなぁ……。

 でも、細切れの新聞紙を大量に散らかしてしまった……、後片付けも大変そう……。

 と、広場や草原に散らばる新聞紙を見ながら小さく溜息をつく。


「まっ! それは明日だね!」


 私はすでにテーブルの後片付けをしている女子たちのもとに走っていく。


「私もお手伝いする!」


 と、その輪に入っていく。


「それでは、本日最後の大イベント! 男子による出し物、全員参加型のゲームを執り行いたいと思います! みなさん、こちらにお集まりください!」


 と、司会の南条が大きな声で言う。


「あ、あれ? 終りじゃなかったの?」

「そういえば、男子たちの出し物がまだだったね……」

「うん、いきましょう」


 と、私たちは後片付けの手を止めてそちらに向かう。

 中央の大きな焚き火の前にみんなが集合する。


「一応、このゲームが男子の出し物になりますが、ゲームの性質上、参謀班の綾原、海老名両名にもお手伝いを願っております。それでは、例の物配って」


 参謀班の面々がみんなに画用紙みたいな小さな厚紙を配る。

 10センチ角くらいの小さいやつ。

 それに、シールが貼ってあって、数字が書かれている。

 横に1から4で、それが4列、16まである。


「うーん?」


 私はその厚紙をひらひらして、焚き火に透かしてみる。


「うーん……」


 わからん。


「えーっと、これから始めるのはビンゴゲームです……」


 と、南条と青山がくじ引き箱みたいな物を四つ持ってくる。

 ビンゴ? それって、普通数字がばらばらに書かれているものじゃないの? 

 これ、1から16までちゃんと並んでいるよ。


「ですが、これはただのビンゴゲームではありません……、ビンゴだぜ! です」

「「「ビンゴだぜ!」」」


 男子たちが復唱した……。


「ビンゴだぜ!」


 南条が拳を突き上げてもう一度叫ぶ。


「「「ビンゴだぜ!」」」


 すると、男子たちも拳を突き上げてもう一度復唱する……。


「ビンゴだぜ!」

「「「ビンゴだぜ!」」」


 なんか、楽しそうだなぁ……。

 と、私はビンゴシートをひらひらさせながら彼らを見る。


「では、ルールの説明に入らせていただきます……。これから、こちらにある抽選箱から番号の書かれた札を引きますので、みなさんはその出た番号と同じシールを剥がしてください。あ、ちなみに、シールの下に書かれている内容はそれぞればらばらですので、ご安心ください」


 うーん? 

 書かれている内容? 

 数字が揃ったら何かプレゼントが貰えるんじゃないの? 


「うーん……?」


 首を傾げる……。


「それでは、試しにひとつ引いてみましょう……」


 と、南条が四つある箱のうち一番端にある箱に手を入れる。


「引きますよぉ……」


 彼が一枚の紙を取り出す。


「4です!」


 そして、みんなにその番号の書かれた紙を見せる。


「4番のシールをめくってください!」


 私は言われた通りに、自分のビンゴシートの4と書かれたシールをめくる……、すると……、


「秋葉に……?」


 そう書かれている……。

 あ……、これ、やばいやつだ……。

 直感的にそう悟る。


「ええ、二つ目引きます!」


 南条が二つ目の箱から同じように番号の書かれた紙を取り出す。


「次は8です! めくってください!」


 言われた通りにシールをめくる……。


「ルビコン川で……」


 やっぱりだ、なんかやらせる気だ……。


「はい、三つ目! 10です!」


 次に10のシールをめくる。


「服を脱ぎながら……」


 おい……。


「最後、四つ目! 15です! めくってください!」


 そして、最後の15のシールをめくる。


「愛の告白をする……」


 ええっと、つなげると、秋葉に、ルビコン川で、服を脱ぎながら、愛の告白をする? 

 吹いたわ。

 まさか、こんなゲームを最後に持ってくるとはねぇ……、正直、あいつら男子をなめてたわ……。

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