第14話 ピップとスカークとアルフレッド
ま、魔法……?
みんなも唖然としている……。
「手品か何かか?」
「流石に信じられないだろ」
「人を騙すなよ、人見?」
今まで黙って見ていた管理班のメンバーが口々に言う。
「虚偽の場合、おまえでもペナルティを与える」
そして、最後に東園寺が口を開く。
「それに、疑問も残る。なぜ、呪文の一部が日本語なんだ?」
と、付け加える。
そう言えば、そうだよね、確かに日本語だったよね?
本物の魔法だったら、そのパシフィカ・マニフィカスって本に書かれている言葉での呪文になるはず。
「俺を疑うなよ、東園寺……、今説明してやる。この本に書かれている言葉の発音など、何一つわかってはいない……。だが、形式はわかっている。神の名と、その神に捧げる祈りの意味さえ一致していれば、魔法は発動する、それが日本語だろうと、なんだろうとな。神の名さえ、それを指す名詞ならば発音はなんでもいい……、そうだな、もう一つみせてやろう、南条、今度はおまえがやってみろ」
「おーけー、人見」
参謀班の一人、南条大河が手にした空き缶を持って、近くにある切り株を利用して作った椅子のもとに向かう。
「危ないから、少し離れていてくれ」
と、空き缶を切り株の上に置きながら言う。
みんなが切り株から距離を取る。
そして、南条も数メートルほど離れる。
「じゃぁ、いくぜ……」
と、空き缶に向かって手の平を広げて向ける。
「クロルト、闇夜に沈む小さな闇よ……」
静かに詠唱が始まる……。
「アデュラン、広がり覆え、慟哭の虚栄、闇夜を飲み込め、
詠唱が終わる……。
「う、うん?」
「何も起きないぞ……」
「失敗か?」
みんなの言う通り、空き缶に変化はない。
「まぁ、見てろって……」
と、南条が言い、その開いた手を閉じる、まるで何かを握りつぶすかのように。
その瞬間、空き缶はぐしゃりつぶれる……。
南条は尚もぐいぐいと何度も手を握る。
そのたびに空き缶はつぶされていき、最後には小さなボールのようになってしまう……。
「ま、マジかよ……」
「やっぱり、本物か?」
「なんだよ、これ、すげぇ……」
生活班の安達が切り株から小さな玉を取りつぶやく。
それは、本当に小さな銀色の玉、空き缶が直径1センチくらいのアルミ玉になった……。
「どうだ、東園寺、本物だろ?」
人見が微かに笑う。
「ああ、だいたい理解した。それで、おまえらは全員魔法を使えるのか?」
「ふっ、察しがいいな、東園寺、今の我々なら、おまえら全員まとめて1秒以内に殺せる」
「本気か、人見? なら、試してみるか?」
東園寺以外の管理班のメンバーがロングソードの柄に手をかける。
「ふっ、冗談だ、東園寺、おまえらもやめておけ、死ぬぞ」
人見は空を見上げながら笑う。
「ああ、気分がいい……、世界のすべてを手に入れた気分だ……」
空を見上げながら、両腕を広げて目を瞑る。
そして、腕を降ろして、あらためて東園寺を見る。
「と、優越感に浸るのも、ここまでだな……、心配するな、東園寺、魔法は全員で共有する、参謀班でもその意見で一致している、全員が魔法を扱えたほうが生き残る確率は高くなるからな。これからは毎日、魔法の授業を開催する、手の空いた者は極力参加してくれ、俺からは以上だ、いいな、東園寺?」
東園寺は真意を図りかねているのか何も言わない。
「私からもひとつ」
と、綾原雫が手を挙げる。
「女子は女子で別に魔法の授業をします。魔法は攻撃的なものだけではなく、防御や治癒などもあります。なので、女子には防御、治癒、解毒の三つを優先的に学んでいって欲しい、私からは以上です」
綾原の話が終わっても、みんなが押し黙っている。
「ああ、そうだ、今回の功労者を表彰しないといけないな……」
と、人見が南条にあの本、パシフィカ・マニフィカスを手渡し、ポケットから銀色のチェーンを取り出す。
そして、私のところに歩いてくる。
「パシフィカ・マニフィカスを発見したのはキミだ……」
と、そのチェーンを広げる。
それはネックレス……。
「これはアミュレット……、魔法の加護が付与されたネックレスだ、キミが着けていてくれ……」
私の首に手を回してネックレスを着けてくれる。
「ああ、やっぱりだ、キミによく似合う……」
銀色のネックレスを手に取ってみる。
ペンダントの部分がひし形になっていて、中央には赤い宝石が付いている。
うーん……。
太陽にかざしてみる……。
うーん……。
「それは、現在効果が確認されている唯一のアミュレットだ、大切にしてくれ」
「効果?」
「ああ、そうだ、身を軽くしてくれる効果が付与されている、どうだ、身体が軽くなっただろう?」
軽く?
私はその場でくるくると回ってみる。
わ、わからない……。
「うわああああああ!!」
と、そんな事を考えていると、森のほうからそんな叫び声が聞えてきた。
「た、大変だぁあああ!!」
森の中から槍と弓矢を持った三人組みが出てきた。
それは和泉、秋葉、佐野の狩猟班三人だった。
「あ、あれ、い、いなかったの……?」
そういえば、午後から狩に行くとか言ってたっけ……。
「な、ナビー、これ、どうしよう!?」
と、和泉が血相を変えて言う。
その手には……。
「ぴよ、ぴよ……」
「ぴよっぴぃ……」
「ぴよぉ……」
ひよこ……、黄色い、小さなひよこ……。
それも三羽……。
「あ、え、ど、どうしたの、これ……?」
「い、いや、ちょっと、弓の試し撃ちをしてみたんだよ、その辺を歩いていたニワトリっぽいのに、そしたら、そのニワトリが逃げていって、それで追いかけようと思ったら、そこにこのひよこたちが残されていて」
「それで、拾ってきちゃったの……?」
「そう、かわいそうになって!」
私はひよこを見る。
身体は黄色くてふわふわ、野球ボールくらいの大きさで、なんかまん丸。
「ぴよぉ……」
かぼそく、小さく鳴く。
「す、捨ててきなさい! 親ひよこもまだ遠くに行ってないと思うから!」
「いや、それが、もう一時間くらい探したんだよ!」
「いなかったんだよ!」
「うちで飼うしかないんじゃないかな……」
と、和泉だけではなく、秋葉や佐野までそう言う。
「ほら、ほら!」
と、ひよこを一羽渡される。
私の両手の上にちょこんと乗っている……。
「ぴよぉ……」
つぶらな瞳で私を見上げる……。
「ぴよぉ……」
少し、ぷるぷるって震えている感じ……。
「ぴよぉ……」
でも、あったかい……。
「ぴよぉ……」
えへへへ……。
こうして、私たちはひよこを三羽飼う事になった。
「それじゃぁ、名前を付けようか、ね、ナビー?」
と、余韻に浸っていると、そう和泉が言い出した。
「な、名前……」
私は自分の手の平の上にいるひよこと、和泉が持っているひよこ二羽を交互に見比べながら考える。
さ、三羽か……。
昔、戦友がよく話してくれたおとぎ話の内容を思い出す。
「えっと、じゃぁ、こっちが、ピップで、そっちの二羽が、スカークとアルフレッド、ってのは、どうかな……?」
それに出てきた動物の名前だ。
あいつ、元気にやっているかな、あの世で……。
「スコットランド民謡だよね? ピップがウサギでスカークがイヌ、そしてアルフレッドがヒツジ。ナビーって、英国出身だったんだ?」
と、綾原が言いやがった。
やや、やばい……、私は墜落のショックで記憶喪失になった、かわいそうな少女って云う設定だったんだ……、どど、どうしよう、ハイジャック犯だってばれちゃう……。
「イギリス人なんだ、やっぱり、そっち系統の人だよね、ナビーって」
「うん、綺麗なブロンドヘアだし、アングロサクソンで間違いないよ」
「でも、日本語はネイティブだよね、日本生まれで日本育ちのイギリス人?」
などど、みんなが詮索を始める……。
駄目だ、どう取り繕えばいいんだろう、下手に何か言ってボロが出るのも怖いし……。
「う、うう、よ、よくわかんない、なんとなく頭に浮かんだだけ……」
と、必死に考えをめぐらせて、当たり障りのなさそうな事を言う。
「そう……、でも、少しずつ記憶は戻ってきているようね……」
「そうだね、頭を打ったとかじゃなくて、やっぱり、精神的な問題かもね……」
「うん、変なプレッシャーを与えずにゆっくり思い出していけばいいよ」
よかった、疑われてない……。
でも、いつまでも記憶喪失のままって云うのも不自然だよね、なんか、矛盾のない私の過去を考えておかないと……。
いや、それは厳しいよ、何かの拍子で私の身分証が出てきたら、一発でうそがばれちゃうから……。
うーん、困った……。
「ぴよぉ……」
心配そうにピップが私の顔を見上げている。
ごめんね、ピップ、少し暗い顔をしていたかも。
「ぴよ、ぴよ」
と、私は笑顔をつくる。
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