第2話 初めの一歩
俺ー
この世界では魔法ではなく精霊術と呼ばれるものが中心に使われている。基本的には地水火風に基づいたグランド、ウォーター、フレイム、ウィンドの名前を呼び、祈り発動する。
もちろん、応用やそれ以外の属性も存在するが多くの人はその四種類しか使えない。
そして、この世界には恒例行事と呼ぶべき風習がある。国立精霊術大学の入試試験である。王都にあり、精霊術を基礎から学べる数少ない教育機関であり、若者の夢の舞台である。
が、俺にとっては夢も希望もない場所である。それは、何故か。毎年、数十人単位で人が死ぬからだ。
モンスターに襲われたり、野党に襲われたり、迷子になったりで死んでいる。にもかかわらず、この風習を続けているのは気がくるっているとしか言いようがない。
なのに…
「なのに、なんでいかないといけないんだよ」
「うるさい、黙って行け!」
村長の怒声が響く。
「いやだ、こんな所で死んでたまるか」
「試験会場まで、一日もかからんのになにを言っておる」
「それは、直線距離でしかも、あんたが全力疾走でって意味だろ。一般人は三、四日はかかるわ。一山超えるんだぞ!」
「あんな、街道がはしっている丘が一山なわけあるか。いつも、へ理屈ばかりこねよって。ナナオはもう準備ができておるぞ」
「あいつ、裏切りやがったな」
幼馴染のナナオをきっとにらむ。
ナナオは満面の笑みで手を振っている。
絶対に、行かないつもりでいたことをチクったのもあいつだな。じゃないと、食材乾燥庫の地下に隠れていることがばれるはずがない。
「ほれ、餞別じゃ。好きなものを選べ」
と、村長が板の上にのっているものを見せる。
鉄扇、刀、剣、手袋、鎌の計5種類か、どれにしよう。
「じゃあ、手袋と鉄扇で」
「二つも持っていくのか?」
「だって、ひとつなんて決まりないでしょ」
「まあ、それもそうじゃが。まあ、よい。いいか、これらはこの街を守護していた中で一番戦闘に強かった一族の歴代の長が使っていた武器でー」
「すげー手にぴったりだ」
「話を聞かんか!はあ、肌身離さず持っておけお守り代わりになるはずじゃ」
「じゃあ、行ってきます」
こうして、王国最大の入試への第一歩を踏み出した。
村人に担がれながら。
「えっ、ちょっと待っておかしくない」
「出口直前で逃げられたら困るからな、運んで行ってもらえ」
「いや、おかしくない。恥ずかしよ、ちょっと不安定すぎて怖いよ、滅茶苦茶揺れてるって怖いこわ…ブへッ」
盛大に村の出口むけて投げ出された。
「おい、危ないだ…ちょっと待って何この膜、入れないんだけど」
「そうそう、お前さんだけわざと入試落ちて帰ってこないように3、4年は入れないようにしておいたぞ」
「おかしくない、これじゃあ普通に受けて落ちても帰ってこれないじゃん。そん時はどうすんのさ」
「どうせお前のことだ、死ぬことはないだろ」
どんな信頼だよ。
「もういい。誰が帰ってくるか、こんな村」
「おう、達者でな」
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