スピリットオーダー~精霊は全てを分かつ~
丸ニカタバミ
第1話 始まり
七月七日、日本古来から存在し、残念なことにクリスマスやハロウィン、ましてやイースターにすら敗れようとしている七夕の日に一人悲しく道路を歩いていた。
「どこもかしこも、政治にゲーム、セクハラに活動報告、どれもかわりばえしないな」
と、SNSを見ながらさらに悲しくなる独り言をつぶやいていた。
そういえば、あの短冊はどうなっただろうか。ノリというか流行りで書いたあの願いは受理されるのだろうか。
まあ、どっちでもいいけど。
「危ない!」
見知らぬ誰かが叫んでいる。
なんか、クラクションの音もする。
やっぱり、歩きスマホはダメだな。
こうして俺の18年という短い生涯は幕を閉じた。
気がつけば見知らぬ白い天井、ではなく見知らぬ白い部屋にいた。
「うーん…とりあえず席に座るか」
座ってから重要なことに気がついた。
本当にここに座ってよかったのだろうか。
おそらく死んだことは間違いない。あんな勢いでトラックが突っ込んできて死なないわけがない。
ということは、ここは天国もしくは地獄行きの待合所みたいなところなわけだ。
つまり、予約番号札みたいなものがあってもおかしくはない。
「あのぅ、次私なんですけど」みたいなこと言われた日には恥ずかしさで死ぬ。いや、もう死んでるけどさらに死ぬ。
とりあえず、後ろを一回見てみよう。もし、人が並んでいたら「すいません。番号札ってどこで取ればいいですか」って明るく聞けばいいじゃないか。
おそるおそる後ろを振り返ってみた。
誰もいない。
ああ、よかった。座ってていいんじゃないか。とりあえずこれでひと安しー
「すいません、お待たせしました」
「ぎゃああああああああああああ!」
「うわっ、びっくりしたー」
「『うわっ、びっくりしたー』じゃないですよ、死ぬかと思いました!」
「なんか、ごめん」
「友だちか!あんた社会人だろ!そこは『申し訳ございません』でしょうが」
「あの、なんで怒ってるんですか?」
「知りません!」
「とりあえず、一度深呼吸しましょう。はいっ、吸ってー吐いてー」
目の前にいる人に合わせてスーハーと呼吸を整えていく。
少しずつテンパりが落ち着いていく。
「落ち着きました」
「あっ、はい」
返事とともに、ようやく目の前にいるのが男性だと認識した。年は同い年かもう少しぐらい上かもしれない。なんかもっと、いかにもって人が出てくるかと思ったけど以外に普通だな。
「説明しても?」
「あっ、どうぞ」
「えーっと、現世名、
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「早速ですが、異世界に行っていただきます」
「はい?」
定番の強制転移でも、選択肢があるわけでもなく番組企画みたいな感じで連れていかれるのか。訳が分からない。
「なにがなんだかって顔をされてますね。まあ無理もありませんが。この前、七夕の短冊に転生したいって書かれましたよね」
「ええ、まあ」
友達と映画を見た帰りにノリで書いたやつだ。よく覚えている。
「それがですね、「今にも忘れられそうな七夕のために夢叶えます」って企画に当選しまして、異世界行きのチケットを獲得されたわけです」
「はあ…」
なんだ、その悲しいイベント名は。
「どうされます?」
「拒否権とかあるんですか?」
「当然あります。でも、戻ったところでトラックに轢かれる直前ですけど」
「ん?直前ということはまだ死んでないんですか?」
「当然です。死んだら違う部署の管轄になるので」
「もし、拒否権を使ってトラックに轢かれたら天国ですか?それとも地獄ですかね?」
「さあ?担当部署に行っていただかないことにはなんとも…」
何だろう、このお役所仕事感。
いや待てよ、別部署ってどう行くんだ?さっき、死んだら別部署なのでって言ってたような。
つまり……
「つまり、死ねと?」
「はい」
ですよねー。
「じゃあ、異世界に行きます」
「そうですか。では、行き方はどうされます?一から転生される方もいますし今のまま再スタートされる方もいらっしゃいます」
そんな旅行プランみたいな。
「そのままって、この体でってことですよね」
「はい」
「それって失踪扱いになって事件になりません?」
「そうですね、一昔前なら神隠しってことで通していたんですけど今は通信機器が発達したせいでほとぼりが冷めるまで待ちます」
SNSの弊害がまさか天国まで及んでいるとは…
「あっ、でも僕の場合ってトラックに轢かれかけてますよね。それってどうなるんですか?」
「そうですねー、もし、そのままスタートを選択されると体はそのまま異世界に行くことになるので…たぶん、轢かれた場所に豚と牛のミンチとネギトロを混ぜ合わせたつくねみたいなものを置くと思います」
トラック事故の処理だけで見るも無残なことになるのか。
そんなの転生一択じゃねーか。
「じゃあ、転生でお願いします」
「わかりました。では、それで手配しておきます。えーっと……では、転生についてご説明させていただきます」
本当に、市役所みたいに進めんのな。
「まず、今世の記憶はざっくりとしか引き継がれませんのでご注意ください。次に、前世の記憶の中で特に転生前の技術、文化に関する記憶は引き継がれませんのでご注意ください。最後に、転生してすぐに死んでも当方は一切の責任を負いません」
「ちょっと何言ってるかわかんないですけど」
「日本語ですけどわかりませんか?」
「そういうことじゃないんです。これじゃあ、俺TUEEEとか、異世界でまったりハーレムとかできないどころかライフハックとして活用できる科学が封印されるだけでなく、向こうでの生活保障すらないなんてただの生まれ変わりじゃないですか」
「だから、転生だって、一からだって言ったじゃないですか。それに、俺TUEEEとか、そんなことされたら向こうの世界のバランスが崩れるじゃないですか。後始末するのは、こっちなんですよ。本当に、最近の子は大人の都合も考えないで好きかって言いますね。まったく」
急におばさん臭くなったな。というか、なんで怒られてるんだ俺。
「ちなみに、今申請が通ったのでキャンセル不可です」
とニイは満面の笑みで言った。
「もう、わかりました。行きますよ、行けばいいんでしょ」
「はい、行ってらっしゃいませ」
そういって、ニイは手元にあったボタンをぽちっと押した。
すると床がぱかっと開いた。
「えっ………」
嘘でしょ。
なんでやねん。
「ニイ、お前覚えてろよ!」
「死んで合えたらねー」
「満面の笑みで答えてんじゃねー!っていうか、死んだら別部署だろうがぁぁぁ!」
もう、何でもいいや。
落下しながらそう思った。
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