第3話 迷子と出会い

「ええーっと、ナナオさんナナオさん」

「はい、ナナオさんですよー」

 ナナオがおどけた調子で答える。

 だから、俺ははっきり言ってやることにした。

「なんで俺たち、迷子になってんの?」

「本当になんでだろうね?」

「『本当になんでだろうね?』、じゃねーよ。なんで半日あれば着くはずのキヅ村にもついてないの?街道まっすぐって言ったよね」

「だって、こっちの方が近道だと思ったんだもん」

「もういい、地図貸せ」

 とりあえず、ナナオから地図を取り上げてあたりを見渡した。

 少し離れたところに、おじいちゃんがいた。

「ねえ、おじいちゃん。ちょっと、道を聞きたいんだけど」

「お前さんら、出身と名前は?」

そういえば、旅をする時のマナーとして答えないといけないんだよな。

「俺たちはコトナラから来たんだ。マイルとナナオよろしく」

「おお、コトナラから。といううことは、受験生じゃな」

「そうそう、だからラクチュウに行かないといけなくて、キヅに行きたいんだけどどう行けばいい?」

「それであれば、ここがシラニワじゃから…」

 おじいちゃんの話では、想定の道よりも西にずれていたそうだ。しかも相当。

 仕方ないので、花の街セイカに行くことにした。

 ただ、途中で魔獣が出る恐れがあるらしい。おじいちゃんが言うには出るであろう場所は一か所だそうだ。ここらは、全国でも類を見ない安全地帯、むしろ引き当てるほうが奇跡だと思っていたのに…。

「なんで追われてんだよ!」


ー10分前ー

「やっと見えたセイカ村だ」

「一時はどうなるかと思ったよ」

「お前のせいだけどな。まあ、下って少し登るだけだ」

「ねえねえ、かわいいお猿さんがいるよ」

 と、後ろではしゃぐナナオの声がする。

「ああ、たぶん<ジーニモンキー>だ。さっきのおじいちゃんが言ってた魔獣だよ。普段はおとなしいけど階級意識が強いから一度目を合わしたら向こうが離れるまで視線を外すなよ」

「えっ?なんて」

「だから……」

 と言いかけて、振り返って目に入ったものはこっちを向くナナオとものすごい形相でナナオをにらむ一匹のサルだった。

「いいか、逃げるぞ」

「はい…」


ー現在ー

「もう、なんでいちいち面倒を起こすんだよ」

「だって、あんなかわいいお猿さんが魔獣なんて思わないじゃない」

「ジーニモンキーは受験ガイド2ページの旅の心得、要注意魔獣一番目にのってるレベルで有名だぞ。なんで知らないんだよ!」

「だってガイドには名前と生息地の特徴しか書いてなかったじゃない」

「普通はそれでも気をつけるだろ!」

 「だってだって」と言い訳するナナオをよそにどうするか考えなければならない。このままじゃ、村まで引き連れ突入することになってしまう。それだと、受験前にセイカ村の人たちに殺されそうだ。

 倒すしかない。

「ナナオ、下の川沿いに出たタイミングで火種を置いてくれ」

「了解」

 少しすると川沿いの土手が見えた。

「足元に、出してそのまま川に飛べ!」

「任しときなさい。フレイム・ダン!」

 ナナオが叫ぶと同時に足元に小さな火の玉ができる。

 できたのを見計らって鉄扇を取り出す。

「ウィンド・ブースト」

 かけ声とともに鉄扇を火の玉にむけてふる。

 すると、突風が川の水面を削りながらまっすぐと駆け抜けていく。

 突風がかけて抜けた先には火の玉。それに、風が直撃する。すると、その玉を中心に炎が放射線上に広がり、ジーニモンキーを焼き尽くす。

「よし、今のうちに向こうまで泳ぎ切るぞ。って速えな、おい」

 もうすでに、ナナオは対岸に立って「おーい」と手を振っていた。

 俺も早く対岸に行かなければ。

「ホウホウホウホウ」

 野太い鳴き声が後方から聞こえてくる。

「マイル!後ろからでっかいの来てるよ」

 やっぱり、さっきのはボス猿の声か。跳躍力も含めると川岸に上がるのが先か接触するのが先か微妙なところだな。

 まずは時間稼ぎ。

「ウインド・ダン」

 風の玉によって川の水面に水柱が立つ。

 これで時間稼ぎに…

「ヴォオオオオオオ!」

 なるわけないか。

「まあ、どっちにしろ川岸には着いた。これで……」

 目の前には全長4メートルを超えるサルがいた。しかも、特大の棍棒を振り被った状態で。

「危ねえ!」

 すんでのところで棍棒をよける。

 でも、次は無理だ。どう考えても下からすくいあげるように振る。ジャンプでよけきれるほどの身軽さは自分にはない。なら、反撃するしかない。

「ライトー」

「アイス・ブラスト」

 冷気の塊がボス猿を襲い、氷漬けにする。

「危なかったですね」

 冷気の主が声をかけてきた。

「ええ、助かりました」

「その割には余裕そうな顔をされていますが」

「まさか、これは癖ですよ。ひやひやするときについ余裕そうな顔をしてしまうんですよ」

「そうだったんですね。てっきり、振りかぶったタイミングで一撃あてるつもりなのかと思いました」

「気のせいですよ」

 と笑いながら答えた。

「なら、そういうことにしておきましょう。疲れたでしょうから、どうぞ私の家へ」

「その前に、コトナラから来ました。こっちがナナオで、俺が、マイルです」

「そういえば、名乗っていませんでしたね。村からはあまり出ないものでその風習自体忘れておりました。ヒョウカ=セイカ=クライシス、セイカ村の村長の娘です」

 それを聞いて思い出した。今年の受験生は過去最多の特待生がおり、その中で数少ない地水火風ではなく氷結のとんでもない使い手がいると。

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