別4話 アライグマの水差し問題▲
吾輩ら、ジャパリパーク「ヒト調査隊」は、紅葉の「しんりんちほ~」を意気揚々と進軍する! 道中で鳥フレンズ「リョコウバト」を仲間に加え、さらに進み続けると、大きな「はこ」のようなもの――カラスのじはんきに出くわしたのだが……!
吾輩は「じはんき」の口に博士にもらったジャパリコインを入れてみた……。だが、おかねは飲み込まれてしまったのだ……。
ぐぬぬ、じはんきとは「物々交換」の原理ではなかったのか!?
「ぬお~、吾輩の『おかね』を返すのだ~!」
「このぉ~、アラいさんのものを返してよ~! え~い! ずつきしちゃえ!」
「おしっ! 先生もずつきずつきだ! きょういくてきしどぉ~!」
「ぎばすざまにぃ~ばぁ~っく!」
フレンズ達みんなで「じはんき」をぼんがぼんがと叩くと……なんと「それ」の後ろが開いた!
「むむむ~、中に誰もいないな……。だがこれは……さっきまで誰かがいたような臭いがするのだ……」
このアライ殿の、優れた「嗅覚」をごまかすことはできぬ算段!
「さぁ~て、どうするアライさ~ん? お金も取り戻したし、先をいそぐかい~?」
吾輩がじはんきの中のジャパリコインを拾うと、ナマケモノが尋ねる。
「いや! せっかくの『おかね』を使うチャーンス、なのだ! じはんきの中にいたフレンズを、もうちょっと探してみるのだ!」
「あっ! ルック、見て下さい! こっちに水の跡があります!」
「本当だなあ! しかも、何を引きずったような……」
リョコウバトとイボイノシシが、フレンズの痕跡らしきものを発見!
「うむ……これは、じはんきの中のフレンズが移動した跡なのか?」
「そ、そうじゃなくておばけかも……。わたし、聞いたことあるけど、お化けの消えたあとには、水たまりだけが残ってるって……。めぇぇ! ヤダ~、コワーイッ!」
ユキヒツジは自分で言いだして、勝手に怖がった。
「こ、こわいのだ~! ナッ、ナマケモノ~ッ!」
「いやぁ~、もしかしたら、セルリアンかもしれないよ~。カラダが水でできたスライムのセルリアンってのが、記録に残ってて~。ジャングル地方にいたそうだけどね~」
「そ、それはそれで……やっぱりこわいのだ~!」
「と、とりあえず、はこの中身がなんであれ、放っておくべきではない! 吾輩らはヒト捜索隊だが、かつジャパリパークの平和を守る『防衛隊』でもある! 平和のために、そいつを探すのだ!」
「りょうか~い!」
「あんだーすとぅっど!」
我々は捜索を開始した……。
だが、
「この私の『イノシシの鼻』でも、もう何も匂わないなあ……。手詰まりか……。先生、鼻の筋肉も鍛えておけばよかったなあ。さてアライ君、どうする?」
イボイノシシもお手上げである。
「ぐぬぬ~……。あ、そうなのだっ、いいものをもらったのを忘れてたのだ! 博士からもらった『だうじんぐ・ろっど』なのだ!」
見よ! これは、かつてシマウマフレンズが使っていたとかいう、曲がった木の枝の硬いヤツのようなもの! 水がある方向を探して、動くらしいぞ!
「ぼくたちの探しているのが~、フレンズかセルリアンなら~、確かにのどがかわいて水辺に向かったってのは……ありえる話だね~」
「そうなのだ!」
「ま~お化けの場合は~、水を飲むかどうか知らないけどさ~」
「いいじゃない! もしおばけなら、かえって見つからない方がいいわよ!」
「うむ、ユキヒツジ君の言う通り! 正体不明のおばけこそ、一番こわいしなあ!」
「さあ、捜索再開なのだっ!」
だうじんぐろっどの動きに合わせて、森の中を探索すると……吾輩達はすぐに「小さな縦穴」を見つけた。
「なんなのだ、これは?」
「ウェル! これは井戸ですよ。ヒトが掘った水場です」
吾輩の疑問に、リョコウバトがパッと答えた。
地下の水を探して掘るなんて……ヒトは、ゾウみたいな事もするのだなぁ……。
「でも、ずいぶん古い井戸ですね……。使われていないのかなあ」
「オアァ~! ダレか来マシタね~! タッケテェ~!」
突然、井戸の底から謎の声が聞こえたのだ!
「ウギャーッ、おばけなのだ!」
「きゃあっ、井戸の怪物よっ! こわい、こわ~い! めえめぇっ!」
「このスットコドッコイドモ! ミーはゴーストではアリませんネ! フレンズですヨ! 上にいるサムワン、ヘルゥプミ~、な~のっデ~スッ!!」
「たしかにフレンズの声……? やはり吾輩の最初の予想どおり、じはんきの中にはフレンズがいたのだな!」
「イエス! ミィ~はドクター博士に頼マレましテェ……自販機の中で、ショーバイおっぱじめヨーと思ってたのですがァ……『両生類』のワタシには乾燥は、思っテタよりも辛いものでネ~」
「それでのどがかわいて、水場を探してるうちに、この『井戸』へ入ったのだな……」
「いぐざくとり~! ソレで、この井戸は封鎖されていたのデスが……木の板をどかして、中を降りて行ったマデは良かったヨ……BUT、コノ井戸カベがヌルヌル滑るんデース!! オウ・マイ・カバ~ン! そんでワタシ、上に戻れナーイ!! ミナサン、タスケテチョ~!!」
このフレンズの言うとおり、井戸の横には「平たい木」がたくさん積んである。使わない井戸をコレで塞いでいたのであろう。
「よーし、助けてあげましょう! こういう時は鳥の子の出番よ」
「リョコウバト君! 井戸の中に入って、中の子をつかんで、飛んで戻ってくればいいのだ! 腕と翼の筋肉でな!」
ユキヒツジとイボイノシシが言った。
「いえ、そうしたのは山々ですが……。この井戸、中が狭すぎて中で飛ぶのは難しそうですね……」
リョウコウバトの言う通り、この井戸は、吾輩の背丈ほども無い幅の縦穴である。鳥のフレンズといっても、これでは狭すぎて危険なのだろう。
「ハチドリや一部の猛禽類の子とか、
「あやまることはないぞ、リョコウバト君。危険ならやめた方がいいのだ!」
「そうよ。助けようとして、もうひとり井戸に落ちちゃったら、シャレにならないわよね~」
「何か、別の助ける方法はないかなぁ~……? ロープとかがあればね~」
吾輩らは、何か使えそうなモノが無いか、辺りを探してみた……。
「あ~、これ~!」
すると、ナマケモノが井戸の近くにへんなものがあるのを見つけた。
「何なのだこれ?」
「これは『水道』だよぉ~、水が出る管~。上についてるこの『蛇口』をひねるのさ~」
吾輩はその「じゃぐち」とかいうのを手で動かしてみたが……何も起こらなかったのだ。
「……何にも出てこないぞ?」
「う~ん……これは、水を送るための『ポンプ』が動いていないんだと思うな~……。水が欲しいんだけど~」
「ナマケモノ、ノドがかわいたのか?」
「違うよ~。あのさっきの井戸だよ。この水道から水をたくさん入れるんだよ~」
「井戸……? ……おお! ナルホドなのだ!」
ちょっと考えてから、吾輩はナマケモノの言いたいことを理解したぞ!
「そうそう。水位が上がれば中に落ちた子が、上まで浮いてくるはずさ~」
「あやつ、自分は両生類だと言っていたから、溺れる心配もない! なんという名案! ナマケモノは聡明なのだァ……!」
「でも、そのためにはポンプを動かさないと……。電源は来ているみたいだから、ブレーカーを……。おや、これかな~?」
そう言いながら、ナマケモノは「ぽんぷ」のそばにある「はこ」を調べ始めた。
「……これ、ポンプの配電盤だと思うんだけどぉ……フタがネジ止めされてる~」
ナマケモノは体内のサンドスターを使って、指先に鋭いツメを出して、その「ふた」についた何かを回そうとしたのだが……それは動かなかった。
「アライさん、これ……配電盤のフタのマイナスネジ……。サビついてるけど、アライさんの握力なら回せる~?」
「これを回せば『ふた』が開くのか?」
吾輩はそれを回そうとしたが……。
むむむ、素手では「ねじ」とやらをつかめないな。
「あ、いい考えを思いついたのだ! ……これだ、ジャパリコインなのだ!」
吾輩は「まいなすねじ」のミゾにジャパリコインを差し込むと……ぐるぐる回すことができた!
「おぉ~アライさん、すごい力~、あんど~、名案~!」
「ふっはっはっはぁっ!」
全ての「ねじ」を取り外すと、はいでんばんが開いて、ナマケモノがその中身を調べた。
「ヒューズが飛んでるねぇ~。つまり、これ壊れてるのさ~」
「えぇ~!」
「ど~にか、直せないかなぁ……。ヒトの本によれば、こ~いうのは、ちょっと危ないけれど、針金を巻いて修理したってハナシだけど~……」
「危ないハリガネ! カマキリを捕まえてくればいいのか?」
「ちがうよ~。針金ってのは、固くて、冷たくて、ぴかぴかしたものだよ~」
固くて、冷たくて、ぴかぴかしたもの……。
「……もしかして……このジャパリコインでもいいのか?」
「あ、なるほどな~。どういう材質か分からないけど、たぶん電気を通すね~。導電性ってゆ~けど~」
というわけで、吾輩が「ひゅうずぼっくす」にジャパリコインを入れると……運よくぴったりとはまって、「すいどうぽんぷ」がガタガタと動き出した!
「ホオォオッ!! ホオウアァアァ~ッ!! うぅう動いたのだあアァッ!! 生き返ったァッ!!」
「ポンプは、水道の心臓みたいなものだよ~。水を送るのさ~」
しばらくすると、「じゃぐち」とかいうのから、水がどばどば出てきたのだ!
吾輩らは、他のフレンズ達を「すいどう」の前に集めた。
「なるほどね! この水をたくさん、あの井戸に入れればいいのか! ……でもアライさん、この水をここから運ぶ方法は?」
ユキヒツジがもっともな質問をした。
「う……そ、それは……考えてなかったのだ。ど、どうすればいいのだぁ~、ナマケモノ~!」
「それはこの~、井戸のそばのバケツで……。あ~、ダメだね~。ブリキのバケツ、みんなサビて底が抜けてるよ~」
「困ったなあ。みんなで口に水を入れて運んだとしても……陽が落ちても、全然終わらないなあ……。先生のこの鍛えぬいた筋肉も、何の役にも立たない……」
筋肉あふれるイボイノシシにも、名案は無しなのだ……。
どうすればいいのだ……。
吾輩は考えながら周りを見渡すと……紅葉の木々の中に緑のものが見える。
……そばに竹の林があるのだな。
「あのミドリ色の、変な木は何かしら?」
「あれは『竹』という木なのだ」
吾輩はユキヒツジの質問に答えた。
「ゆきやまちほ~では見かけない木ね。つるつるしていて、へんなの」
よく見ると、花が咲いている。
珍しいな……。吾輩も竹の花は、初めて見るのだ。
雨風で折れた竹もあって、その「節の部分」には、雨水が溜まっている……。
……!!
「あ! 吾輩、いい考えを思いついたのだ! 竹を使って水を井戸まで運べばいいのだ!」
「こーやって、竹に水を入れていけば……。いや、ここから井戸まで少しだから……竹の節を抜いて、一気に水を流せばいいのだぁ!」
「お~冴えてるよ~アライさ~ん!」
「ナイスアイデアです!」
ナマケモノもリョコウバトも褒めた。
イボイノシシは強い力で竹をどんどん引っこ抜いた。
ユキヒツジは、サンドスターを「分厚い形」にして、竹を半分に切ったり、節を取ったり。いわく、それはヒトが使った「なた」という道具に、サンドスターの形を変えているらしいぞ。
そして、吾輩の強い「握力」もこのシゴトにおいて大いに役立ったのだ! ばりばりばりと、竹を真っ二つに引き裂く、このアライグマの腕力を見よ!
吾輩らはみんなで竹を真っ二つに割って、節を取り除いて……いくつかの竹をつないで……水道から井戸まで、一気に水を流すことに成功したのだ!
我ら「ジャパリパーク防衛隊」のこんびねーしょんの勝利なのだ!
どばどばどば……。
水! 流れる水! 半分に割った竹を流れて、井戸へとものすごい勢いで注ぎ込まれる水!
「やったのだぁっ!」
「ア、わたし、思い出しました……。これは……ヒトがおこなったというながしそうめんの習性では!?」
突然リョコウバトが一言。
「なんなのだ、それは?」
「なんでも、キンギョという魚をこうして、水でたくさん流して……おなかをすかせたたくさんのヒトが、魚を口ですくい上げて喰べるんだとか……」
「なんだそりゃ? ワケが分からんのだ? 魚なら、普通に食べればいいのでは?」
「そういえば~……ぼくも聞いたことがあるよ~。たくさんの色んなタマゴを、同じように水に流して……たくさんのヒトが水に頭を突っ込んで、それを食べるんだとかぁ~……」
「なんのイミがあるのだ、それは? だいたい、ながしそうめんって……『そうめん』とは何なのだ?」
「分かりません。あいどんのう」
「ぼくも知らな~い」
「うむむ……ヒトに詳しそうなリョコウバトもナマケモノも知らんのか」
ヒトというけものは……不思議な生態があるのだなあ……。
と、我々は本当にそう思ったのだ……。
「オッ~オ~ッウ! アイニードサムバディ~ヘルプ! ノットジャストエニバディ~!」
井戸の中に落ちた両生類のフレンズは、へんな鳴き声を出して叫んだ。
「ユー達、ミーをヘルプしてくれると、ワタシ、トラストしてマーシタ!」
「こうして井戸に水を入れるのだ。しばらく待つのだぞ! 水がいっぱいになれば、おぬしのカラダは上まで浮いてくるのだ!」
「オウ、アイシ~! テ~ンキュ~ベリマチッ! ドモアリガット、ミスターアラ~イ!」
「水がいっぱいになるまで、けっこう時間がかかりそうだね~……。ちょっと時間を計ってみようか~。リョコウバトも時計塔を見てて~」
「イエス。分かりました」
ナマケモノは、地面に落ちている果物のようなものを何個も拾って井戸に落とし始めた。
「Oh! ワットアージーズ! これはラバーのボールズデ~ス!」
水の流れる音にまぎれて、「ぽちゃん!」というそれが落ちる水音と、両生類フレンズの声が、井戸の底から聞こえてくる。
「リョコウバト、ゴムボールが井戸の底に落ちるまで、2秒くらいかな~?」
「そうですね、ボールを何個か落として、時間を時計の秒針で計りましたが、どれもほぼ2秒ですよ」
リョコウバトの言葉を聞くと、ナマケモノは木の枝を使って地面にラクガキを始めたのだ。
「音速の秒速340mはムシしてぇ~……。自由落下運動の公式~。h=1/2×g×t×t。重力加速度はめんどくさいので10にしよ~。h=1/2×10×2×2。h=20。井戸の深さは約20m~。この井戸の直径はぼくの身長より少し大きいくらいだから~、直径は約1.5mとして~、半径は75cm……。必要な水の体積は75×75×3×2000=3,375,000立方cm。つまり3,375,000ml。……というわけで、井戸の水がいっぱいになれば、3,375
ナマケモノはスラスラと「ラクガキ」を書いていって、吾輩らに見せて説明した。
「ううむ! さっぱりわからんぞ! イボイノシシ、分かるかコレ?」
「これは『さんすう』だぞ、アライグマ君! だが、なぜ算数なのに『ローマじ』を使っているのだ!? センセイには全然分からん!! ユキヒツジ君はどうだ?」
「うめぇ~……わたしもわからないけど……。でも、この模様はね、
「ぽっぽ~……私はこういう『計算』はニガテです……」
「3,375Lは、ふつうのお風呂の10杯から15杯ぶんぐらいだね~」
ナマケモノが言うと、三人は納得した様子。
吾輩はよく分からなかったので、とりあえず分かったふりのため、ウンウンとうなづいておいた。
「しかし吾輩『じかん』のことはよく分からんが……この調子だと、かなりかかりそうだな……」
「水道の水って、全開に出せば1分で20Lぐらい出るそうだよ。3,375÷20……約170分。水が井戸いっぱいに溜まるまで3時間弱だよ~」
「今12時ごろですから……あの時計が3時になるまでですね」
ナマケモノとリョコウバトが説明した。
「じゃじゃ~ん! こういうヒマをつぶす時は、これ~」
ナマケモノが毛皮――いや、ヒトの研究をする我らだからこそ、「服」と呼ぶべきだな――服から何かを取りだした。
「そりゃ、ただのガではないか。喰べるのか?」
「あぁ~、間違えたぁ~……。こんどこそ、これ~。ジャパリトランプ~。ヒトが使ったという『遊びの道具』さ~。いろいろ遊び方を教えたげるよ~」
そして!
「うめえぇ~! やったぁ~! わたしがだいふごうよ!」
「ぐぬぬ……なぜこのアライ殿が、いつもだいひんみんなのだ……!?」
「お、ユキヒツジ君、アライグマ君、そろそろ時間だぞ!」
時計の太い針が「12」から「3」まで動き……お日様が時計の針の半分ぐらい傾いたころ……お昼下がりになった。
その頃には、ようやく井戸の水がいっぱいになって、井戸の底に落ちたフレンズが這い上がってきたのである。
そいつは、ぬるぬるとした服を着ていて、ぬめぬめとしたシッポ……。まさに両生類のフレンズと言った外見である。
「オッ~オッ~ウ! みなサン、サンキュ~ベリ~マッチデ~ス! ミーはヘルベンダーと言いマース!」
両生類フレンズこと「ヘルベンダー」が名乗って、吾輩らもお返しに自己紹介した。
「ワタシ、このジャパリパークで行商人をナリワイジョブとしてマ~ス! ヘルベンダーってネームもネ、イングリッシュで『地獄の商人』という意味なのデェ~ス!」
「えぇ~? それは違うよ~。ヘルベンダーは、hellにvendorじゃなくて、benderだよ~?」
「あ、本当ですね。つづりが違います」
う……うんどr……べんでr……な、何の話なのだぁ~……?
ナマケモノとリョコウバトは地面に「ローマじ」を書いて、ヘルベンダーとよく分からん話をした。
「グ、グヌヌ……そ、そういう細かいトークはいいのデ~ス! シヨマッセツ、ブランチ・アンド・リーフ、ノォ~プロブレムだよネ! ンなことよりワタシ、アナタガタにヘルプしてイタダいた、お礼をシたいのデ~ス」
ヘルベンダーは、井戸に浮いてきた「大きな箱」を引き上げた。
「ウェルカァ~ム! ショーバイ開始ネ! コイツぁ、この武器商人ヘルベンダーの商品のトランクですヨ! ユーたちカスタマーに中身、お見せしまショウ! しかも今回はスペシャル・プライス! どのアイテムでも、お礼にタダであげちゃいマース! ゴランアレプリーズ!」
「オオ! それじゃあ、お言葉に甘えて拝見するのだ……」
ヘルベンダーは「とらんく」の中身を地面に次々と置いた。
「コレなんてネ……今の井戸の横穴で見つけたモンですヨ。おそらくヒトの武器のてっぽうやばくだんですヨ! ド~です? グレ~トスゴイでショ?」
「ほう、ヒトの武器とな! でも、吾輩らにはさっぱり使い方がわからんのだ……」
「そうだね~。ぼくたちがもらっても、使いこなせないよ~」
「ねえ、アライさんが使えそうなモノを、もらえばいいんじゃないかしら?」
「確かにそうなのだ。だが、吾輩がもらうものを選んでしまっていいのか?」
「アライ君が我々『探検隊』のリーダーだ! それに、井戸に水を入れるという考えなど、アライ君のお手柄だしな!」
ユキヒツジとイボイノシシにそう言われて、すこし迷ってから……吾輩は『あいてむ』の中から、自分に使いやすそうなモノを選んだのだ。
それは、曲がった「ぴかぴかの木の枝」に、よく「伸び縮みするツタ」が絡みついたモノだった。
「オォ~、ミスターラクーン、お目が高いネ~。それは、スリングショットとかパチンコと呼ばれる、ヒトの武器デース」
「ぱちんことな!?」
「石とか木の実とか、なんでもそのゴムで挟んで、遠くに速く飛ばせるのデ~スよ」
「自転車のフレームやゴムチューブを使ったスリングショットか~。手先が器用で力が強いアライさんには、ちょうどいい武器じゃないかな~」
「これからわたしたち、ヒトを探しに行くわけだからね。キケンもあるかも。つよい『武器』があると、心強いわよ!」
「おお! カッコいいぞ、似合うぞ、アライ君! そのゴムをひっぱれば、筋肉が鍛えられそうだなあ! あとで先生にも貸してくれ!」
「うわははは! 吾輩はコレが気に入った! コレに決めたぞ、ヘルベンダー!」
「オンリー・パチンコ? それだけでイイのデスか? アライサ~ン?」
「うむ。他のモノは、使い方が分からんし、吾輩らが持っていてもジャマなだけなのだ」
「オ~ケ~、アイシ~」
「ヘルベンダー! よいものをくれて、ありがとうなのだ!」
「……バイザウェイ、トコロデ、アンタガタこれから伝説の『ヒト』を探しに行くジャ~ニ~だそうデ……。コレを、そのヒトに持っていってくれマセンカ……? あるフレンズがミーに頼んだ、ジュ~ヨ~アンケンなのデスが……」
そう言ってヘルベンダーは、何かのヒトの道具と「かばん」を吾輩に差し出した。
「これは……」
「オウ! ソイツァ、伝説の『かばんさん』が使ったというかばんデ~ス! もちろんオミヤゲ用のレプリカですけどネ! かばんはオマケで、タダでアゲちゃいマス!」
「ありがとうなのだ、ヘルベンダー! この……何だか分からん道具は、ヒトを見つけたあかつきには、そやつに必ずお渡しするっ! 約束するのだ!」
お礼と「依頼」が済んだヘルベンダーは、広げた荷物をまとめ始めた。
「フフフ。本当は、『博士』からはジャパリコインとの交換でモノを売るよう言われてましたケド……。BUT、アンタガタ、命の恩人デスからネ! ソレニ、ショーバイはサービスのスピリットが大事ヨ!」
ヘルベンダーは「とらんく」にモノを詰めながら言った。
「じゃ、ミ~は行商の旅を続けますネ。今回は博士に頼まれたケド、ワタシ、陸地に店をカマエルなんて、ショウに合わないヨ!」
「あの『じはんき』のことだな」
「ワタシはネ~、おもに川の流れを使ってショーバイしてマース。冷たい水はカイテキですし、それに水に浮かべれば重い商品でも運べるカラネ! 水から出たくないぐらいヨ!」
「おお、それは『かいせんどんや』ってやつだな、ヘルベンダー君!」
「ノー! ミ~はアクダイカンでもエチゴヤでも無いYO! アンタ、ドコでソーユー変なジョーホーを仕入れてくるのカ?」
「さばんなちほ~の、『じだいげき』好きの友達が言ってたぞぉ! ホオジロカンムリヅルっていうフレンズ!」
最期に、ヘルベンダーは「しょうひん」をしまい込んだ「とらんく」を背中にかついで、別れの挨拶をした。
「ソレジャ~、水辺でマタ会いましょう、アライサンと愉快なパ~ティ~のミナサン!」
「ヘルベンダー、ありがとう! また会おうなのだ! この『かばんさんのかばん』大切にするのだ!」
「シーユーアゲイン! アンド、ユ~達のジャ~ニ~に、グッドラックあらんコトを!」
そう言って去っていったのだ……。
「さあ、みなさん! 人助けにだいぶ時間を食っちゃいましたけど……私たちの『目的地』へ出発しましょう! みなさんのご案内こそが、私のオシゴトですからね!」
リョコウバトが高らかに言って、吾輩らはしんりんちほ~のけもの道をふたたび歩き始める。
「ところでぇ~……」
道中、ナマケモノが不思議そうに言った。
「アライさんに仲間を紹介したり~、鍵を開けさせたり~、お店でものを買わせようとしたり~……。カレドニアガラス博士は、『ヒト探し』を『ゲーム』のつもりでやってるんじゃないかなぁ~……?」
「なに!? げぇむとな!? ナマケモノ、なんなのだそれは!?」
「『ゲーム』ってのはヒトの遊びだよ~。ぼくのジャングル地方の友達に、ゲームに詳しい子がいるのさ~、ボノボっていうフレンズだけどね~。とっても頭が良くて、ヒトのことにも詳しいんだよ~」
「ほう! すごいフレンズなのだ、ぜひとも会ってみたいなぁ!」
「あ~、でもちょっと変わったクセがあって~、ホカホカって言って~、腰と腰を……ああ、この話は今はいいかぁ~……」
「にしても~、さっきのジャパリコインの使い方といい、アライさんは凄いなぁ~」
「ははは、こやつめ! そんなに褒めるでないのだ! ……だいたい、ナマケモノのほうが『けいさん』も『ローマじ』もできるし、全然すごいのだ!」
「……そう言ってもらえるとありがたいけど、ぼく、しょせん怠け者さ~。本をたくさん読んでいるだけだからね~……」
「ははは、そんなにけんそんするでないぞ、ナマケモノ!」
「ねえ、リョコウバト?」
「何でしょう、ユキヒツジさん?」
「この先に、ヒト探しの旅の『えーじぇんと』がいるそうだけど……どういうフレンズなの?」
「この道を進めば『教会』という名前の場所があります。そこに棲む『シスター・カルガモ』というフレンズですよ。とってもおしとやかで、優しい方です。ちょっと変わったところがありますけど、それについては、そのうちおいおい……」
「ふ~ん。しすたー・かるがも、かぁ……。『きょうかい』ってのは、ヒトが『けっこん』という行動をするために作った巣よね」
「さあ、もうちょっとです。この林を抜ければ、ジャパリ教会ですよ!」
森を抜けてひらけた所に出ると、芝生にはリョコウバトの言った「きょうかい」というものがあった。
きょうかいは、崖の岩のようで……でも角ばっていて……尖っている部分もあって……うむ、ひつぜつにつくしがたい。ヒトの作るモノにはよくあるハナシだが、とにかく自然の風景とは、だいぶ趣きがちがう見た目なのである。
その「きょうかい」のそばの、色んな草が生えているところに、茶色の羽毛を――いや「服」を身に着けたフレンズがひとり。
頭に翼がついていることから、鳥のフレンズであることが見て取れる。
こやつが、博士の「え~じぇんと」のカルガモに間違いあるまい。
「こんにちは~! カルガモさん!」
「あら、リョコウバトさん! お昼ごろに来ると聞いていましたが、ずいぶんと遅かったですね。心配したんですよ」
草に水を与えていたシスター・カルガモが、こちらに振り向いて挨拶したので、吾輩らも名乗って挨拶を返した。
カルガモの「服」は、薄い褐色と濃い褐色。髪の色は……前髪が黒くて、先のほうが黄色い……。これらは鳥のほうのカルガモの特徴なのだ。
確かカルガモはオスもメスも、一年中姿を変えないとか……。繁殖期になってもオスの姿が変わらないのは、水鳥にしては珍しい特徴なのだ。
「ああ! ご心配おかけして、ごめんなさい。ちょっと困っているフレンズがいて、その子を助けておりましたもので……」
「あら、そうだったのですね」
カルガモはホッとした調子で言った。
「ああ、でも良かった。カモに……じゃない、神に……あなたがたの無事を祈った甲斐があったというものです……」
「おや、それは新しい『薬草』ですか?」
リョコウバトが「草」を指して質問する。
……あれは特別な草なのだろうか? カルガモが水を
「ええ。これはですね……薬草に詳しい、ジャングル地方のイノシシのフレンズに頂いたものなのですよ。傷によく効く薬草」
「おおう! そのフレンズとは、
イボイノシシが会話に突っ込んでいった。
「あら? そうですけど……貴女は、あの方とお知り合いなのですね?」
「うむ! バビルサは私の友達でなぁ! 先生は、こー見えても顔が広いのだ! けもののイボイノシシと同じでな!」
自己紹介を済ませて、そうこう話すうちに……カルガモが吾輩の前にやってきて、吾輩の顔や体をじろじろと見つめ始めたのだ。
「…………」
「な、何なのだ……? 吾輩の体、ムシでもついているのか?」
「失礼……。貴女、アライグマですね? リョコウバトから聞きましたが、この『ヒト捜索隊』のリーダーですね?」
「うむ、そうなのだ。聡明、勤勉、快活。好奇心旺盛にして、冷静沈着な判断力ぅ……。この吾輩、アライグマ殿こそが、博士の『とくべつにんむ』をおこなうのにふさわし――」
「ぐゥわぁあァーッッ!!!!」
なんと! 吾輩が喋り終わらぬうちに、カルガモが強烈な平手打ちを放ってきたのだぁっ!?!?
「うぎゃーっ!!」
打撃を喰らって、くるくる回りながら倒れる吾輩の身体!!
「アライさ~ん」
「めえぇえ!?」
「たいばつはんたい!」
「な、なぜ……なぜなのだ!? なぜぇっ?? なぜこんな乱暴狼藉を!? ど~して吾輩をいきなり叩くのだっ!? 理由、ワケを言うのだ、シスター・カルガモ!?」
すぐさま起き上がり、他のフレンズがあっけにとられる中で、吾輩は叫んだ。
「ぐぅふぁふぁふぁっふぁぁ~っく! 本当に申し訳ありません。いきなり叩いたのは謝罪しますが……しかし、こんな攻撃を避けられずに、ヒト探しなど……笑止千万! ちゃんちゃらおかしいわぁ~っ!」
「ナヌ!?」
「それに、今の私はシスターではないのですよ……!
「げっ! ななな、なんなのだぁ!? 一体!?」
「今のあなたがたは……フレンズではないのでえぇすッ!! このキケンなジャパリパークで独りでも生きることができて、あなた達は初めてフレンズと名乗れるのですっ! それを私に証明しない限り……お前らはウジ虫なのですッ! ゴミッ! クズッ! カスッ!」
「ひ、ひどいのだ~。そんなこと言われてもぉ~、カルガモ~」
「ふぁっく! 口でクソ垂れる前と後に『サー』をつけなさいッ! このアオダヌキがっ!」
「ア、アオダヌキって……それ吾輩のコト?」
「『サー』をつけるのでぇっす! このウジ虫ぃいぃッ!」
またビンタが飛んできたので、吾輩はすばやく避けて逃げ出した。
「ウワーッ! サー、ごめんなさいなのだぁっ、サー!」
「おいこらリョコウバトぉっ!? おぬし、カルガモのどこが……おしとやかで優しいのだぁっ!?」
吾輩はリョコウバトをとっつかまえて言った。
「あははは……ちょっと変わり者だとも、言いましたでしょ~? あの人、誰かにものを教える時には凶暴になるんです」
「なにぃ!?」
「……二重人格っていうか、人が変わるっていうか……子育て中のけものとかで、よくある話でしょう?」
「そんなこと……知ってるなら、早く言うのだァーっ!!」
「だ、だってぇ……正直に言ったら、みなさん、来たがらないですよね~……」
「そりゃそうなのだぁっ!」
「あはは、それじゃ~みなさん、これから『トレーニング』が始まりますから、頑張ってくださ~いねっ! しーゆーあげいん!」
あーっ!
おい、リョコウバト~っ!
飛んで逃げていったのだ……。
「ヨシッ! これから、泣き虫弱虫ウジ虫のお前らが、無事に『ヒト探し』の旅に出られるように……アマちゃんどもの、ヤワちゃんなカラダを鍛えるためにっ……チョーきついトレーニングをしてやるっ! ふぁっふぁっふぁっっく! お前らみんな、泣いたり笑ったりできなくしてやりますうぅーーッ!」
カルガモは、母親ライオンが仔供の首根っこを捕まえるように、吾輩をつかみ……。
あー、吾輩はそのまま、どこかへ引きずられていかれるのだぁ……。
「獅子は、我が子を千尋の谷に突き落とす、とは言いますが……カルガモはヒナを千尋の溝に叩き落とすのでぇ~っす! 皆様のために、心を鬼にした……この『カルガモ先任軍曹』の『
うぎゃー! いやなのだ~!
そんなの、やりたくないのだ~!
助けてなのだぁ~っ!
さむばでぃ~、へるぷみぃぃ~~っっ!
ゆ~の~、あいに~どさむわんへえぇ~るぷぅっ!!
(ヘルベンダーの鳴き声が、吾輩に移ってしまったのだ……)
けもののきろく:ちょっと危ないジャパリパークでのヒトの生存日記 大きさの概念 @o-kisa_no_gainen
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