2-4:水際最大の作戦
第19話 犯人たちを一ヶ所に集めて下さい
突如として出現したセルリアンは、装甲車のような、ゾウガメの甲羅のような、分厚い装甲を持つ丸い身体に……走行車両程度の体長・体高で……重量感もそれぐらいか? 2、3tくらい? 動物で言うと、サイやカバぐらいの体重?
そして、そのボディ部分からいくつもの触手が伸びているのだ!!
ぶち割られた木材の隙間からサウナの内部を見てみると……内部の配管が、まるで溶かされたように無くなっている!!
……奴の外見的特徴と、この場の状況から判断すると……。
「こ、こいつっ!! セルリアンたちが、サウナの中で合体したッッ!?」
としか思えない!
「くぅッ!! 何が何だか分らんのじゃがっ!! 余の『クチバシ』をくらえっ!!」
ホオジロカンムリヅルは速攻でセルリアンに反撃を繰り出す!
頭上の翼からサンドスター粒子をジェット噴出! その反作用ですばやく飛び上がり、セルリアンの丸い胴体の頭頂部に載ると……五指を一点に集めた――空手で言うところの「
まさにその技は、ツルが水中の獲物の貝をぶち砕かんとする、必殺のクチバシの振り下ろしの一撃なのである!
「貴族コンビ」のもうひとりのナイルワニも即座に反撃を仕掛ける!
「かみつき勝負なら!
ナイルワニは、触手の振り払いを逆用し、踏み台にして飛び上がり!! トップロープを超える勢いでの、ルチャ・リブレ!! エルボー・スイシーダ(三沢光晴の編み出した変形トペ・スイシーダ)の要領で、触手口吻部を「両肘」と「両膝」での挟み込む形の、威力が逃げることのない打撃ッ!! からの!! フランケンシュタイナー風の投げェ!!
噛みつき、即、投げ!! 最初のセルリアンへの奇襲でも同じ技を見せてくれた! クロコダイルの「ツイスト」を想起させる、ナイルワニの
セルリアンの触手を喰いちぎらんとする、ワニの
だがしかし!!
「か、
「いや~んなのじゃ~!! さっきの触手より太くて固いの~!! ばか~ん!!」
フレンズの渾身の技はセルリアンを倒すどころか、傷つけることすら全くままならない! 合体して、あからさまに装甲の強度が上がっているのだ!!
この合体セルリアンは、まるで神話・伝説に登場する多頭の蛇竜――ギリシャ神話のヒュドラー、旧約聖書のレヴィアタン 、ヒッタイト神話のイルルヤンカシュ、メソポタミア神話のティアマト、日本神話のヤマタノオロチ……どれも、荒ぶる河川の象徴だと言われているが……このセルリアンの水害を「治水」するのは、とても骨が折れそうだ……。
あるいは、蛇の女神メデューサの頭部か。伝承におけるメデューサは眼前の敵を石にすると言うが……このセルリアンは本人が相当な石頭らしい! ……いや、笑いごとじゃなくて、マジだぜ!
ウロコフネタマガイ……別名「スケーリーフット」という貝類がいる。インド洋、
このセルリアンも、それだ!
鉄分を操るセルリアン!
毒ガスによる極限的状況のせいか、あるいはサウナの高温による熱エネルギーのせいか……サウナに閉じ込めた十数体のセルリアンたちの本体であるアメーバたちが融合合体し……自分たちのもとの「殻」や配管パイプを溶かして鉄分を吸収し、新たな黒鉄の鎧を身にまとった姿なのか!?
「クッソォッ!! セルリアンは何でもありかよチクショウッ!! みんな逃げろッ、こいつはもう手に負えんっ!!」
私が叫ぶと、「非常に危険な状況」ということだけは本能的に把握したフレンズたちは、本能のままに戦闘から離脱する!
フレンズたちの逃走のため、私は
やはり、と言うべきか……
防御力だけではない、おそらく触手の切れ味も上昇しているハズだ……。
攻撃が……来る!
「くそォっ!!」
触手の胴薙ぎを狙う振り払いをかわすが……一発かすっただけで、人が虫を指で払うかのように、私の軽い身体は簡単に吹っ飛ばされて、背中から浴室の壁面に叩きつけられる! やはりヤバい! 先ほどよりも、切れ味も質量も倍加した触手! キック選手の鋭いハイキックのリーチをぐんと伸ばして、さらに鋭利な刃物をつけたようなもの! 一発食らえば大口径の機銃の掃射を喰らうみたいに、胴で離れ離れになるという、本能的な予感! その触手が、何本も!
「……ぐうぅっ……!!」
今の吹っ飛ばされた衝撃で、腹の傷が開いたか……。
こ、こりゃあ……本格的にヤバくなってきたな……。
はははは……。逃げたみんなは、大丈夫かな? コイツと一緒に湿地に暮らすのは、さぞかし怖いだろうから、ブッ殺してやりたいところだけど……。
さっきは「差し違えるつもりで
「ハナコぉッ!!」
「ってぇ、カラカル!! な、なんでここにいるんだよ!! さっさと逃げ――」
「アタシには、何がどおなってんのか分からん! 全然分からんけど……このままアンタを置いていけるかッ!!」
「ダ、ダメなんだっ!! こいつには勝てないっ!! これじゃ二人とも――」
「うるさいっ!! 諦めるなぁっ!!」
私の身体をを引きずろうとするカラカル。
そこに合体セルリアンの触手の斬撃が宙を切る。
彼女は、私に覆いかぶさって盾になり――
だ、だめなんだそれじゃあ……。
それじゃ、前と同じになっちゃうんだ……それは、あの時、お姉ちゃんが私をかばって――
次の瞬間。
私の目に飛び込んできた光景は――
触手の振り回しを「マフラー」でキャッチして受け止めるキリンの雄姿だ!!!!
「よっ! 待たせたわねぇっ!!」
「キ、キリン!!」
大きな……大きな背中。
その時の彼女の背中は、私には……本当の、動物の、キリンの背中みたいに大きく見えた。
「ふふふ!! ハナコ、しかつめらしい顔しちゃってェ!! その情けない涙と鼻水を吹きなさいっ!!」
背中を見せながらキリンは言った。
「やるじゃんかキリンッ!! てか、ここよく滑るけど、脚は大丈夫なの……? ん? アンタ、足のヒヅメがいつもと違うんじゃない!?」
カラカルが歓喜の声をあげる。
「ふふん、そーよ。あのレイヨウの『シタツンガ』と『ウォーターバック』の
「アンタの、そおゆ~まにあっくな話は今はおいといて……。でもそれじゃ、足が違うから、ちょっとぶかっこうねぇ」
「ふふ。だって、両足ともなくなっちゃったら、この『湿原』で走るのに困るじゃない? あの子ふたりも私と同じ偶蹄類だから、けっこうよく馴染むのよ、この水辺のヒヅメ!」
そして!
「うもぉぉぉっりゃあぁぁっっ!!」
キリンは受け止めた触手を思い切りたぐり寄せる! 前のめりになるセルリアンの丸い胴体! ……セルリアンの触手を縄跳びのようにして飛び上がって反動をつけた勢いで、マフラーの両端を拳のように固めて、
周囲の浴室タイルが、一斉にバチバチと音を立てて割れ、破片が跳ね上がるほどの超威力のキリンの「フレンズの技」!!
「どうだぁっ!!」
き、効いている!! あの鉄の鉱床のようなブ厚いセルリアンの装甲にヒビが!!
「こいつは……なんだか分からんけど、サイやカバぐらいの大きさ……だったらイケるわね!! 雑種のオスキリンの私は、サイやカバに負けないぐらい重かったんだから!! ……『雑種強勢』とかゆーらしいけどね!!」
そう言って、はじめて私のほうを振り向くキリン。
「あーら、ハナコ先生? 普段はエラそうなアナタが、今はこうして、そんな情けない姿を晒しているじゃありませんこと!? ねえ、ハナコ……あなた、私を見て、なにか言うことがあるんじゃない!?」と、キリンはおどけた調子で言った。
「……ひでぇ格好だね……。靴は、靴紐はぐちゃぐちゃで、服とのカラーが合わないし、そもそも左右の靴が違うし。シャツのボタンは互い違いだし。タイは曲がってるし。スカートのジッパー上げてないから腰からパンツ見えてるし……」私は正直な感想を言った。
「なっ、なによもう! こんな時もまた、そんなこと言って! ほんっと口が悪いんだから!」
「すっげぇカッコイイよ、キリン……急いで急いで、私たちのために駆けつけてきたって、その格好。雑誌なんかで今まで見た、どんなスーパーモデルよりもおしゃれで……。あ、言うの遅れたけど、本当にありがとう……」私はさらに、正直な感想を言った。
「ふふん♪ よくわかってるじゃない。探偵はかっこよく登場して、そして最後に正義のために大活躍するものなのよ!」
キリンは嬉しそうに鼻声を鳴らして言った。
「さあ、ハナコくん、カラカルくん! 『かんけーしゃ達』を全員――イヤ、正しくは『よーぎしゃ達』……むしろ『犯人達』かコイツら……。それとも犯人は一人? 犯人は二人? 犯人は全員? ……まあいいや、ひっきょうするところ、セルリアンを全員、事件現場の『ろびぃー』に集めてくれたまえ! この名探偵キリンがマフラーで……全員ぶちのめしやるッ!!」
やったーっ! カッコイイぞキリン!
(探偵としては、その発言はどうかと思うけど!)
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