第20話 ジャパリバスガス爆発!▲
いくすじもの支川が合流し、大河となって氾濫するように……セルリアン達はその人蛇の身体を合体・融合させると……川の砂鉄から製鉄が行われるように、鉄の「殻」を作り出して身にまとった……。多くの神話に人類の敵として登場する多頭の蛇龍を思わせる姿へと変形……。
丸い身体の上部に触手のある形状は、トゲの少ないウニのよう……。
その触手や本体部分に、何か所も存在する眼球の、名状しがたいおぞましさ! なんと冒涜的な生物なのであろうか!?
この「ヒュドラ・セルリアン」に真っ向勝負をしかけるのは、我らがキリンだが……はたして彼女に勝算はあるのか!?!?
「でも、キリン……そんなデカブツ相手に……何か、作戦でも……?」
「そんなものない!! 私と犯人……どちらのチカラが上か、試してみようじゃないッ!!」
「そ、そんな悠長なっ……!」
「
お、おいおい……。つくづく正義感以外は探偵に向いてないんだなぁ、貴女って
そうこうするうちに、セルリアンの触手の四方からの同時攻撃が……来るッ!!
水流の強すぎるゴムホースのように……。ムチのごとく柔軟、だが中世の
この斬りつけを下手に腕で触手をガードしようとすれば、先端についた刃物のような口吻部が防御部分からまわりこんでしまう――振り回しの威力はそのまま、腕を軸とする「回転力」に変わり、防御者の後頭部や背面へと斬りかかることになる。
触手先端のその大アゴの
その凶器が人間の太腿のような太さの触手の先にあるのだッ! 鬼に金棒! セルリアンに触手!
「うもおーっとぉッ!! あぶないッ!! 『きょうき』を振り回すのは止めなさいっ、むだなていこ~はやめろ犯人っ!!」
この触手を
ふだんの迷探偵はどこへやら、鋭い判断力だ! やはり戦うキリンは勘が良いッ!
攻撃目標を外した触手たちは、浴室の壁面に激突! 配管の太い鉄パイプをアメ細工のように切断し……さらにスプーンでアイスクリームをすくうかのように、タイルの壁面にブレードが突き立てられ、広く深くえぐり込まれて……がりがりと耳障りな音を立てて走ったのち……停止する。
な、なんつー威力……!! 人間の胴体など軽く分断できるであろう……重機関銃掃射のようなパワー!! 一発ずつの威力ですらヤバすぎる!! この「
「よぉしぃ!! 動きが止まったァッ!!」
セルリアンの背面(と、呼んでいいのか? ウニやヒトデのような「放射相称」の生物であるコイツを?)へと攻撃を仕掛けるキリン!
背後の彼女の動きを「熱探知」で察知し、幾本かの触手で迎え撃つセルリアン! が、先刻の攻撃ほどの威力は無いッ! 今度の攻撃は、長い触手を十分な距離だけ振り回す際の「慣性」――つまり「遠心力」が無い!! リーチの長い触手が逆に
キリンの「灰色の脳細胞」は、最初からこれを狙っていたのか!!
「すごい作戦だぞっ、キリン! たいした名探偵だ!! ……今までちょっと馬鹿にしてて、ゴメンね!」
「エッ!? さ、作戦……だったのか、私の……? 今までなんとなく動いてるだけなんだけど……?」
「えぇ……」
……さあ、四方から繰り出される「へなへな触手」は、腰の入って無ェ手打ちパンチのようなもの!
「脚の毛皮を取り換えっこするのも悪くないわね!!」
しかも、シタツンガ・コモンウォーターバックのブーツに履き替えて、キリンの動きは先ほどとは見違えるよう! レイヨウのように軽やかに、滑りやすい水辺を走り回る!
「ッもぉっしゃあッッッ!!!!」
これらの触手を、キリンはむんずと両手と首のマフラーの両端で掴む。プロレスの序盤戦での「手四つ」の形になるな……。いや、「手マフラー触手八つ」と言うのが正確か?(わけわからん)
「っでっりゃあァァ~~ッッ!!!!」
そのまま両手とマフラーでセルリアン触手をたぐりよせるキリン。ロープに振られたレスラーのように、触手の弾性で自身が引っ張られる際の、反作用の勢いを逆用して突っ込みながら、体操選手の身軽さでもって宙返り……。体操競技「つり輪」の倒立をヨコにした形での、両脚での蹴りをセルリアンの背面に叩きこむ!!
キリンの両ヒヅメ後ろ蹴りだァッ!!!!
セルリアンの身体がペンキ絵の壁面へ押し付けられてめり込む超威力!! 出入口付近で戦いを見守るこちらにまで振動が伝わってくるッ!!
「名探偵のしょ~たいむはこれからよぉッ!!」
さあ追撃だ!! セルリアンの触手の「有効な間合いの内側」に潜り込んだキリンの「インファイト」はまだまだ続く!!
両腕で触手を抑えて……マフラーの両端には、キリンのオスの頭部のような「こぶ」を作ると……マフラーをボクサーのウィービング時の頭のように左右に振りながら、勢いをつけたマフラー先端で打撃を、連続で叩き込む!! セルリアンが鉄分を固着させた「装甲」に、陶磁器表面の釉薬の
キリンの「首振り下ろし」を思わせる、上半身の体重を乗せたマフラー・パンチング! フック! アッパー! 左右の連打を間髪入れず「ネッキング」の五月雨打ちだッッ!!
こ、これはまさに「デンプシー・ロール」!! 今ではその呼び名も使われることはなく、現代のインファイト・ボクシングでは基本的な技術だが……本来は、元世界ヘビー級王者、ジャック・デンプシーが、小柄な自分が大柄な相手と戦う為に編み出したという戦術だが!! それを本能のみでやってのけるのが「フレンズのワザ」なのか!?
「うっももももおォッッ!!」
有効な攻撃ができないセルリアンに対し、キリンの一方的な猛攻ッ! 目を輝かせて、闘争本能のみに支配された一匹の獣が! 速射砲のような獰猛なマフラー連打をセルリアン本体に叩き込んでいく! ジャブの速さでロシアンフックの威力だ!
まるで、1919年の世界ヘビー級王者ジェス・ウィラードのタイトル防衛線――通称「トレドの惨劇」を思わせる展開……。その試合では、「マナッサの巨人殺し」の異名を持つジャック・デンプシーの猛攻により、ウィラードは1ラウンドで7度もダウンし、顎・歯・頬・肋骨を著しく砕かれ片耳の聴力を失ったという、
剥がれた装甲の破片が、手榴弾の断片のように勢いよくこちらへ飛んでくるほど! 暴力と破壊に彩られた殺戮ショーなのだ!
だが!
「はぁっはあっ……!! う~~ッももおぉッッ……!!」
壁に喰い込んだ触手を外して、グルリと向き直って再び攻撃を仕掛けるセルリアン!
キリンは触手をジャンプで避けて、その勢いで壁を走り、三角跳び……!
しかし、この渾身の一撃も……蛇龍セルリアンの「殻」に亀裂を作り、表面を剥がすものの……セルリアンは動きを鈍くする様子が全くない。それもそうだ、内部の「液状セルリアン」には脳も内臓も存在せず、ボクシングのように強力な打撃でいくら揺すったところで意味が薄いことは、先ほどまでの「人型形態」の時に分かっていたことだ……。
「うぐぐぐっ! くっそォ犯人めぇっ!!」
しかもセルリアンの装甲に
「くそっ……どうすればいいんだ……!」
「うみゃ~、キリンは考えなしだからね~。アイツもそうとう強いけど、あのデカいのが相手じゃ……」
「ハナコ先生、何かいい考えはありませんかぁっ!?」
お、カラカルと……そしてヘビクイワシ達ほかのフレンズも、いつのまにか私の後ろにいた。
「みんなも心配で来たのか……。アードさんやマナティー、レイヨウの子たちは?」
「うむ。彼女ら、戦いがニガテな『へいみん』は逃がしたぞ。この『いくさ』で命を張るのは我々『ぶし』の役目! 高貴なるものが戦うのはどあのぶをふぁぶりーずってヤツよのぅ~……」
と、ホオジロカンムリヅル。……「ノブレス・オブリージュ」でしょ。
「私、キリンに死んでほしくない。なんとか助けたい」
「アタシだってそーよ。で、その為には、どうすればいい……?」
「それを今考えてる……」
「その『じゅう』で攻撃するのはどう?」
「こんな口径の小さい豆鉄砲じゃ、クソの役にも立たない。せめて大口径の拳銃か……欲を言えば、
「……う~む、よく分からんケド……。じゃ、さっきみたいに『お湯』で引き付けたり、『毒』で攻撃するってのは?」
「『熱湯の熱で混乱させる』か、でもセルリアンも多少は『学習』しているらしい――さっきから出っぱなしのお湯にも反応が薄いようだし……。それに、消石灰や塩素系洗剤みたいな『毒』はもう品切れ……」
「つまり、打つ手ナシってコト……? ど、どうすりゃいいのよ……このままじゃ、キリンが……」
「オレたちも戦いたいところだけどさ……。かえってキリンの足手まといだよな……」
「……
「ヤツを野放しにするのは、余はたいへん不本意ではあるが……ここは逃げるしかないのであろうか?」
「ど、どうしましょう、ハナコ先生!? やはりキリンさんにも伝えて、逃げるのが最善でしょうか……」
「く……何か、何か使えそうなモノでもないか……? ん……?」
目を皿のようにして
「ダメもとで、やってみるか……」私はダイヤを拾い、スイギュウの骨と腱の「弾弓」につがえる。
「その『きらきらいし』でどうするつもり、ハナコ?」
「セルリアンの装甲のヒビ割れに撃ち込んで――あの殻を割るために、ダイヤのくさびを打ち込む! 硬いモノを割るためのヒトの道具だ!」
ダイヤモンド……語源はギリシャ語の「アダマス」――意味は「征服されざるもの」……。転じて、石言葉は「固い絆」「不屈の精神」……。ダイヤはその硬さから、工業用の切削工具としても使用されるが……鉄より硬いダイヤの
あの強固な「殻」さえ、何とか一点集中の攻撃で破壊できればっ!!
「いや……セルリアンのボディのあの大きなヒビ割れ、キリンが開けた
「問題ないっ! それならば、あの穴をムリヤリ広げるのみよ! 余が行くのじゃッ!」
「わたくしも行きましょう! あいつにこのつま先の蹴りを叩き込めば!」
「よしッ! アタシも行くわっ! キリンを助けに!」
カンムリヅル、ヘビクイワシ、カラカルの三名がここに名乗りをあげる。
たしかに、クチバシとキックとツメ……彼女らの「けものの武器」は、あの穴をこじ開けるのには最適だと思われる。
「カラカル……イケるのか……? ネコが『ツメで引っかく』というよりは、レイヨウのツノみたいな……あるいはさっきのカンムリヅルさんみたいな……。『ツメを突き刺す』感じになると思うけど……?」と、私は心配する。
それは、野生のネコ科には見られない動きだからなのだが……。
「うんっ! 『バーバリライオン』が、この前の戦いでやってたでしょ……サンドスターの形を変えるワザ!」
そう言って、集中した顔をすると、両手の指先に具現化された「サンドスターのツメ」がみるみるうちに……高温でガラスが溶けるように……右手に一本の刃物のような形状に収束して、脇差ほどの長さのブレードを形作った。
「おお、カラカル殿、おぬし器用じゃのう! 『じだいげき』の主人公みたいでカッコイイぞ!」
「すごいですねえ! けものの武器のかたち以外にも、サンドスターのすがたを変えるなんて!」
「見よう見まねで、なんとかやってみたけど……でもアタシじゃ、長い間はムリね。それに、この片手の一本だけしか……」
どうやらこの「サンドスターを変形するワザ」は大変な労力がかかるようで……短時間のみ、しかも右手に一本だけしか実体化できない様子……。
「でも、わたくしが知ってる中では、サンドスターをたくさんの形にできるのは……バーバリさんと、博士と……あと誰だったかな、ゆきやまちほーのなんとかヒツジのフレンズぐらいですから」
以前の戦いでバーバリライオンが見せた、ツメからオノ状へのサンドスターの変形……古代ローマの
「
「なにそのヒトの言葉ぁ~? ……もしかしてぇ、ホメてくれてるっ?」
「イ、イヤ、ゴメン……女の子やぞ……。忘れてちょうだい……」
「よしっ、みんな行くわよッ!! アイツの傷のかさぶたが固まらないうちに、突撃ぃッ!!!!」
さあ、カラカル・ヘビクイワシ・カンムリヅルの三人でセルリアンに連携攻撃だっ!
鳥類フレンズの両名は空中に飛び上がり左右に散開して、地上のカラカルがオトリとなって触手を引き付ける役割!
……地上と言うと語弊がある。なにしろ、浴室のタイルの上だけでなく、さらに植物や岩や壁や配管も自由自在に駆け登り、三次元的な移動でセルリアンの触手を翻弄する!
走る! 跳ぶ! 登る! まるでパルクール選手のような……いや、人間をはるかに凌駕する軽快な動作!
植木鉢などの障害物をものともせず、それどころか逆に、それに隠れたり登ったりとうまく利用しながら、アクロバティックな動きで触手の描く「線」状の攻撃を回避していく!
「うみゃァッ! にゃ、にゃにゃァーーッ!!」
「カラカルやっるゥっ!! さすがネコ科はスゴイわねっ!!」
交戦中のキリンも驚嘆している!
もちろん、カラカルキャットはトラやヒョウやジャガーのようなジャングルの獣ではないし、イエネコがそうであるように水も苦手だと聞く……。
だがネコ科の獣は、基本的な身体の構造や習性は同じ……。以前に会ったクロアシネコやバーバリライオンも、動きがよく似ていた。
敏捷性や動くものへの鋭敏な反応においては、ネコ科のフレンズの右に出るものはいない!
今のカラカルの動きは、密林を自由自在に動き回るハンターのそれだ! 細めの触手の攻撃をボクシングのパリングのように受け流す!
「うみゃ! にゃにゃにゃッ……!」
受け流し……っていうか、触手とじゃれあうその姿はまさしく……。
「……ってオイィッ! 電灯のヒモで遊ぶネコじゃねーかっ!!」
「……ハッ、遊んでる場合じゃねェ! さあ、キリンどいてっ! みんなイマよッ!」
「
「了解でありますッ!」
十分に触手群を引き付けたのち、カラカルと鳥フレンズが一斉攻撃! キリンの猛攻でセルリアンの装甲に生まれた「ヒビ割れ」をターゲットに!
ツルの長いクチバシを思わせる
ナイフのようなツメをサンドスターで具現化させる! ヘビクイワシの飛び込み
そしてカラカルは木登り時に使っていた両手のツメを収納し、利き手に一本の大きな虹色のツメを実体化させ、セルリアンの懐に飛び込んで突き刺す!
三匹の獣の連携により、セルリアンの硬い装甲が十数センチほどめくれ上がって、鮮やかなゼリー状の中身の原形質が露わになる!
放っておけば、この傷はまたすぐに「止血」してしまうッ!
パっとその場から離れる三匹!
さあ、いよいよ私の出番だ!
チャンスは一度きり……!
だが、今の私には……手持ちの弾弓からこれから放つダイヤの原石の弾道が……低い放物線を描いて飛んでいくであろう軌道が……まるでコンピューターグラフィックスのように、視野が暗くなる中で、虹色に線上に光って見えるのだ!!
前にもあったが……なんなんだ!? この奇妙な感覚は!?
今の私には全然
「喰らいやがれックソ野郎ッ!! 全然似合わねぇダイヤモンドをプレゼントだっ!!」
中国やミャンマー(ビルマ)の伝統武器、スイギュウの強靭な腱を弦にした弾弓から放たれる、
「弾」は私の「計算」通り、直線に近い放物線を描いて、セルリアンの傷口の盛り上がった肉塊にぶすりとねじ込まれ、痛みを体内から押し出すかのような、奇妙で耳障りな悲鳴を上げる九頭竜セルリアン!
「やったァ!!」
「しかも、なんか……すごい効いてますよ!!」
「ほんとじゃのう、セルリアンが苦しんでおるぞっ!」
フレンズ達の言う通り!
あくまで「鉄より硬いモノ」として、
だが、傷口に入ったダイヤの周辺からは、虹色の煙が立ち昇り……これは中身のセルリアンの体液が溶けだしている証拠! しかもどういうわけか、あのダイヤの原石じたいも七色に輝いているではないか!?
「あっ、あれは……まるで伝説に聞く『へし』! さすがハナコ先生、最初からコレを狙っていたのですねッ!」
ヘビクイワシが叫ぶ。
「はぁ……何ですか、『へし』ってのは?」
「エ? ご存じないので? ……『へし』はへしですよ。その辺に落ちてるヤツ」
いったいなんのこっちゃ?
この
「『へし』とは、セルリアンの弱点ですッ! 昔はたくさんのセルリアンの身体にくっついていたそうですが……進化によって、『へし』が無いセルリアンばかりになったというお話でありましょう!」
と、不思議なダメージ反応を示すセルリアンを観察しながら、これ以降もヘビクイワシは説明を続けた。
どうやらその言わんとすることは……かつての多くのセルリアンは、体表に「HESHI」という構造上の脆弱部分を持っていたが、その弱点はセルリアンの進化の歴史上で「淘汰」されていった――フレンズにも分かりやすい弱点を持つセルリアンほど倒されやすく、後の世代へはその「へし」の性質が受け継がれにくいためだ――それで、現生セルリアンのほとんどは「へし」を持たないということ。
そして、今傷口に撃ち込んだダイヤモンドが、話に伝えられるところの「へし」の性質を帯びているらしいということ。……というか、アレは本当にダイヤモンドだったのか? 私にはそう見えたのだが、もしかして、あれは未知の鉱石だったのかもしれない……。
へし、HESHI……Humor Exudative Surficial Hump-like Innerstructureの略語、とか、もしや……? 日本語で言うなら、
いや、今テキトーに頭文字から英単語を考えただけだが――ちなみに言語学ではこの行為をバクロニムと言う……。
しかし、ヘビクイワシの要領を全く得ない説明からすると、「へし」とはそのような「生物学の専門用語」に相違あるまい。その元の意味が失われ、「弱点」ということとその外見のみがフレンズの間で口伝され続けてきたと、私は推測するが……。
「何だか知らねェが、とにかくその弱点の、光る『へし』を攻撃するんだ! キリンッ! 貴女の自慢のマフラー打撃で、アレを殻ン中に押し込んでやれェッ!!」
「おしっ、りょうかいッ!! 紳士はあくまでも『すとれーと』だ! そして私は紳士――アッ……!!」
弱点の『へし』めがけて飛び込み、マフラーで左ストレートをブチ込まんとするキリンに対して、蛇龍セルリアンはなんと……! すばやく幾本かの触手を自身の本体の下にねじ入れて……その触手を下で蛇行させて動かすことにより――木材を巨石の下に入れて転がす「ころ」や、地面との摩擦を減らす「そり」の原理! その巨体を高速移動させ始めた!
こ、こんな隠し技を持っていたのかっ!!
「あっヤバイッ!!」
「キリンッ!」
左ストレートをカラぶったキリンを横目に、すれちがいに高速で走り抜けるセルリアンの瞬時の反撃が襲う! とっさにマフラーと両腕で上半身をガードするが、体重の載ったほうの太腿をセルリアンの触手ラリアットで薙ぎ払われるキリン!
「ぎゃーーっ!!
幸いなことに、距離が近すぎたために、ブレード部分ではなく、触手の基部に近い部分で叩かれるだけであったが……だが、年月を経た樹木のごとき直径の触手の「ローキック」!
轟音とともに太腿を払われて、腹を中心に全身が一回転する勢いで、その威力でタイルに背中と後頭部を強く叩きつけられるキリン! 衝撃だけで片脚がオシャカになって、激痛でのたうち回る!
「やべぇーぞオイッ今のっ! あのキリンが、一発で倒されるなんてッ!」
「ゾウやキリン! 『重いけもの』は脚への攻撃に弱いのじゃ~!」
私のそばのアフリカニシキヘビとナイルワニも顔面蒼白になっている!
「ウワーッ!! やべやべっ!!」
「やばい、やばい、やばいですッ!!」
作戦を変更して、カラカル、ヘビクイワシ、カンムリヅルがキリン救助に向かう!
「ちくしょうッ! ヘビさんワニさんも、キリンを助けに行ってください! 私は銃で攻撃してセルリアンの注意を引きます!」
「りょおーかいっ!!」
フレンズ達がキリンを運んで救助するうちに、私のほうは、カバのぬいぐるみを減音器がわりに銃口にくっつけた「
すぽーんッ!
げぇっ!
……マシンガンの銃口から、「カバのぬいぐるみ」が飛んで行ってしまった……。
そ、そんなくだらねーこと考えている場合ではないが、なんと不吉な……。
その時突然!!
ドッグォォォンーーーッッ!!
……と、大きな爆発音!! 青天の霹靂!!
大きく吹き飛ばされるフレンズ達! そして、セルリアンも予想だにしないこの爆発でひるんでいる様子!!
ど、どういうことだ!?!?
これは、デカブツセルリアンの仕業ではなく……!?!?
鼓膜に大きな振動を与え、しばらく耳鳴りが続き――状況を観察したところ――どうやら、私の撃った銃弾がセルリアンの装甲で跳弾して、あの例の「ブイ型セルリアン」――この戦闘中も呑気に湯船に浸かっており、フレンズにも九頭竜セルリアンにもムシされていた、あの影の薄かったアイツ――あのセルリアンの一体に流れ弾が当たり……そして爆発したのだ!!
「いっ!! イッデェ~ッ!! ら、ららら……らいへんばっは~!!」
カラカル達が、キリンを浴室入口付近まで運んできた。
「キリン、脚は大丈夫なのか!?」
「こ、こんなのヘッチャラだけど……。で、でも今のあれは何!? ハナコの推理を聞かせてちょうだい!」
「おそらく……あのブイ型の――あの丸っこい、ぷかぷか浮いているセルリアン――あいつの体内には、可燃性のガス、つまり『燃えて爆発する煙』がつまっているらしい……」
「な、なるほどにゃ~……」
自然界においても、「メタン菌」と呼ばれる嫌気性の古細菌が可燃性のメタンガスを生成して、それによって爆発事故が起こる例は広く知られている。
同様に、あの「観測ブイ形状のセルリアン」は、温泉の熱による化学合成か、あるいは光合成かなんかで、自身でエネルギーとなるサンドスターを合成しているようだが……可燃ガスは、その副産物であろうか?
そのセルリアン製の「爆発性ガス」が、先ほどの弾丸による火花で、起爆したというわけか!?
「あ、今の爆発でッ!!」
次から次へと!? 今度は何だ!?
「『せんとう』の『じゃんぐる』に……穴が開いたッ!!」
カラカルのこのセリフは……言葉だけでは全然分からんが……文字通りの出来事が起こったのだ!!
と、言うのも……銭湯の女湯の壁面に描かれたペンキ絵(ちなみにアンリ・ルソーの名画『蛇使いの女』だ)の一部が、先ほどの爆発によって破壊され、四角形の穴が開いているのだ!
よく観察してみると、どうやら壁面には、巧妙に繋ぎ目を隠された「隠し扉」があったようで、そのドアが吹き飛ばされて……その薄暗い空間には雑多な物品が置かれ、物置か車庫のようなスペースであることが見て取れる。
「あーっ!! なんだこりゃあっ!!」
そのガレージには……今の私にとっては金銀パールダイヤモンド以上のすばらしい財宝が置いてあった!
「うむ。これらは余にはまっっったく、わからんものなのじゃ!」
と「城主」のカンムリヅルが言う。
「えらそうに言わないでよね~」
「だ、第二次大戦時のドイツ軍の軍用車両! そして水陸両用車! ポルシェだぞポルシェ! しかもあの電動ノコギリと言われた機関銃が車載機銃だぁっ!!」
「にゃ、にゃんだかしらんが……つまり、『すごいぶき』なのかしら……?」
「そうともよ! これでキリンの
「うわ~っ! すごいですねぇッ!」
「いよーし、オレもやったるでぇ~!」
「ヒトのちょーつおい武器じゃ~!」
「余たちフレンズの大反撃っ! 大立ち回りじゃっ!
「志半ばで散っていったキリン……お前の尊い犠牲を、無駄にはしないぞッ!! キリン死すとも正義は死せず! 虎は死して皮を留め、人は死して名を残す、キリンは死してアミメ模様をセルリアンに――」
「おいこら私、死んでないわよ!」
「ああ、ゴメン……」
いや、なんか、その辺はノリで……言葉のあやっていうか……。
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