第1話観察者

 ひどく暗い部屋の中で、男が一人椅子に腰掛けていた。まるでそれが当たり前だというように、暗闇が男の存在を飲み込もうとしている。


 そう、まるで世界から忘れさせようとする意志があるかのように。


 暗闇が住むこの部屋には、男の他には誰もいない。いや、暗闇が何も見せないのかもしれない。


 ただ、男に周りだけはそうではなかった。まるでそこには抗う意志が存在しているかのように、淡い光で照らされている。


 男の見るノートPCの画面から出る光。

 その光が、男が周囲の暗闇に飲み込まれるのを防いでいた。


 まるで、闇と光のせめぎ合い。


 すぐそばで起きているにもかかわらず、男はただ両手を組んで、口元を覆い隠している。その姿はまるで、人形のよう。

 表情が見えないから、余計にそう感じてしまうのだろう。だが、唯一見せる瞳の瞬きが、その男の生を物語っていた。


 静かに、変わらない時間が過ぎていく。


 いや、すでに闇が時の流れさえも取り込んだのかもしれない。だが、それを打ち消すかのように、小さなため息が生まれていた。


「終わったか……」

 そう口にしても、視線は画面から離れていない。

 食い入るように見つめる先には、少年と少女の姿があった。


「また、死に損なったな……。サトシ……」

 その言葉を口にするつもりはなかったのだろう。唯一動きを見せる目が、それを雄弁に物語る。


「我ながら度し難い……」

 自嘲ともいえる言葉が産声を上げた瞬間、まるでそれを待ち望んでいたかのように、扉が来訪者の存在を告げていた。

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