サムライ・ソウル

ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ

第一幕  終わりとはじまり

001  終わりの始まり

 茶色の薄汚うすぎたい剣を、敵に目掛けて斬りつけた。

 そして、自分の頬から流れる血は生暖かく、本物の感触だった。敵との距離をさらに縮めて防御なしの攻撃に入る。

 この世界は戦場であり、殺し合いの場所である。生きるか死ぬか、二択に正解は一つしか存在しない。心臓が止まれば死ぬ。これは動物生態学上でくつがえすことのない、事実上の根拠である。人間もその一部である。

 敵の剣が左右から攻撃してくる。それを自分の剣裁きの腕で、払い除けながら後ろに退き、一定の距離を保つ。

「ちっ……、きりがねぇ」

 舌打ちをしながら、呼吸を整える。戦場において、一瞬の油断が命取りになる。呼吸を合わせ、相手の太刀筋たちすじを見極めながら進まないといけない。自分の動きが疲れで少しずつ鈍くなっていくに血が滲むほど知っている。

 分かっている。

 人間、動けば動くほど乳酸にゅうさんが溜まり、体を休めなければならない。だが、休む暇もないほどに皆、己のたましいを賭けて戦っているのだ。

 彼らが戦っているのは、様々な生き物である。目の前にいるのは銃を持った熊のような生き物。その他にもトラやカエル、トカゲなどが武装して、戦っているのだ。これは世紀末の戦争といってもいいくらいの戦いである。彼らは、この地を侵略するために戦っている。彼らは、この地を守るために戦っている。

 ————何のために

 結局のところ、この世界を救ったとしても元の世界が帰ってくるわけではない。もう、二度と同じ世界など来るはずがない。一秒、一秒、時間は進化し続けて変わっていく。過去は徐々に遠ざかっていくのだ。

 紀元前から現在に至るまでは無駄か、無駄ではなかったかは誰にも分からない。

「ほんと、嫌になるな……」

 倒しても、倒しても敵の援軍が来て、戦力は強くなっていく。後ろの方の砲弾隊がにっ、と笑いながら大砲を撃ってきた。

 これが戦争。英雄えいゆうなんて誰もいない。残酷なだけである。

 そして、剣を両手で握り、飛んでくる弾に集中して構えた。

 味方の軍勢が、援助して障害物を排除してくれる。

 太陽は雲に隠れて、薄暗い空は煙などで濁っている。敵はどんどん勢いに乗って侵攻してくる。足を緩めない。

「いっけぇえええええ!」

 叫び声とともに、その人物は大地を蹴って弾に向かった。だが、それを見ていた敵の兵が下から襲い掛かってくる。空中では守ってくれる仲間などいない。銃で狙撃されたらそれは死を意味してもいい。自分の剣が先に砲弾に届くか、敵の剣が自分の体を斬りつけるのが先か、一秒を争う。

 だが、先に自分の剣が砲弾を斬った。

 そして、振り返り笑いかけると、攻撃を予測して、その先のシナリオまで考えた。向かってくる三つの刃。自分の剣は一つ。一方的な振りの状態。態勢はそれほど良くない。一つ一つ、丁寧に避け、地面に落ちる。そして、その軽々しい身のこなしで急接近する。

「そんなに血を味わいたいのか?」

 そう呟きながら、剣を左から右へと横に斬りはらう。三人の兵士の体を真っ二つに割れ、そこから大量の血が飛び出てくる。

 しかし、これだけ倒したところでこの戦争がすぐに終わるはずがない。次の敵に向かって剣を向け、斬りまくる。

 そして、長き戦いは休戦になる。溜まりに溜まった疲れが、どっと出てきて息が乱れ、深呼吸を何度もする。体中の痛みが全身に走る。地面に座り、そのまま仰向けになって目をつぶった。

 倒れた兵士の中で生きている者は、あまりいない。無くなっていった仲間は、どれほどいるだろうか。それも考えたくない。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 今は、水が飲みたい。乾いた口がそう言っているようだった。

 この休戦がいつまで続くのかも分からない。いつ、また、戦争が起こってもおかしくない。しかし、自分の剣はボロボロになり、使い物にはならない。明日、明後日の戦いは使い物にはならない。

 ヨレヨレの体を刀で支えながら、荒れた荒野こうやを一人歩いていく。

 これは地獄絵図のようで、大量の血が溢れて、交じり、そして、土の栄養分となっていく。

 空はいつの間には雨が降っていた。

 この雨が、この汚れたものを洗い流してくれるように思えた。

 六年前、彼らの戦争は終わった————

 そして、ここから始まったのだ。

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