シンパシー:カナデとユキチカ

 合作曲の録音のためカナデ宅に向かっていたユキチカは、にわか雨に降られてびしょ濡れになった。

 なんとかカナデの自宅に到着したものの、ユキチカは申し訳なさそうに玄関に立ち尽くす。

 愛機のエレキギターはハードケースで保護されていて無事だった。しかし、雨水を吸って色濃くなった衣類が重たそうだ。

「このままじゃダメだね」

 カナデにそう言われて連れてこられたのは浴室の前。シャワーでも浴びろということか。念のため、ハードケースとアウターは預けてもらった。

 衣類を全部脱いで乾燥機に放り込み、浴室に入る。

「風呂からあがる頃には乾いてるから、そのまま着替えてね」

 ドア越しに声をかけられる、ユキチカは返事をするしかなかった。湯にも浸かれて一安心だが、あまりにも準備がいいと疑心が募る。

 風呂からあがり着替えてリビングに向かうと、カフェオレが淹れてあるマグカップを渡された。

「やけに準備がいいけど、そんなに頼れる奴だったか?」ユキチカは思わず投げかける。

「早くレコーディングしたいのと、チカが心配だからそうしただけ」とカナデは返すと紺色のパーカーを渡した。

「お前のこと、認めたわけじゃないからな」

 ユキチカはそう言ってカナデから借りた紺色のパーカーを羽織った。真っ赤になった顔を隠すようにフードをかぶる。

 カナデは(悋気のせいで素直になれないだけか)と思いつつ、ユキチカを録音室に誘う。

 窓の外は曇天の間から透き通る陽の光で、空がようやく明るさを取り戻した。

(終)

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