その参。

 十一月□日、午後三時二十八分


 人混みを掻い潜り、路上パフォーマンスを横目で見ながらフラフラと公園内を進む。

 途中、開けたところで辺りを見渡すと、上野動物園の入り口が見えた。

 この際だ。


「……いっちゃいますか?」

「いっちゃいますか!」


 入場券を購入。今年生まれたばかりのジャイアントパンダの赤ちゃんがプリントされた入場券を持って園内に入ると、目の前には長蛇の列が出来ており、ロードコーンとコーンバー(三角コーンと縞模様のバー)がいくつも繋げて設置されていた。入り口であろう隙間には、「パンダ観覧入場口。只今八十分待ち。なお、午後三時三十分を持ちまして締め切りとさせていただきます」という看板が。


「●ィズニーか」

「ファストパス必須だね」


 もちろん、入園したのは締め切りの二分前だったのでファストパスは取れなかった。

 閉園の時間まで二時間半、といったところだろうか。どこまでまわれるかはわからないが、端からささっと見ていくことにした。

 パンダの行列の横を通り、園内の奥へと進む。

 真っ先に見えたのはゾウのエリアだ。三頭の大きなゾウが、エリア内を動き回っている画は。が、一向にこちらを向いてもらえず。

 ゾウのエリアを超えると、今度はサル山が見えた。岩肌に点々と座っているサルも居れば、下の方にある大きなくぼみに敷き詰められた枯草に体をうずめて食べたり、暖を取るサルがいた。


「一瞬モルモットがいるかと思った」

「上の一匹だけは動かないね」


 寒くないのかな。もしかしたらボスなのかもしれない。


 更に奥へ進むと、ホッキョクグマとアザラシ、アシカのエリアへ。

 水中トンネルから見上げるホッキョクグマの泳ぎは迫力があり、なぜか壁の穴にずっと鼻を突っ込んでいた。(痒かったのかな?)しかし、一向にアザラシが見当たらず、陸上で探してると、一際賑わっているエリアがあった。覗いてみると、大きなアシカが石の上に座り、「さあ、撮りたまえ!」と言わんばかりに上体をそらし、来場者の目を惹き付けていた。

 これはシャッターチャンス。

 すぐさまスマートフォンを起動させて何枚か写真を撮る。他の来場者もすごいすごいと言いながら、連写していた。暫く経って来場者が他の動物の方へ移動していっても、アシカはピクリとも動かずにそのポーズをとり続けていた。

 私達も移動し、今度はバクの方へと向かう。


「バクって夢食べるの?」

「え?」

「大きいねー」


 ずっと空想の動物だと思っていた佐々木ささきさん。ちなみに実在するバクは葉や木の実を食べる草食動物。夢は食べない。 

 それからライオンとトラのエリアに移動すると、ジャングルのような敷地の中、目を皿のようにして彼らを探す。


「あ、なんか動いた!?」

「え、どこどこ!?」


 草木が小さく揺れるだけでも、なにかいるんじゃないかと錯覚してしまう。更にガラスと大きな塀で囲まれていても、ジャングルのように草木が囲う通路を歩いてると、後ろから襲われるのではないかと不安になる。そう、まるでーー


「ジュラ●ックパーク」

「ないない」


 ライオンのエリアにはメスしかおらず、すぐ下の方へ潜ってしまった。暫く進んで行くと、トラのエリアに入る。何人かの来場者がガラス越しにスマートフォンやカメラを下の方へ向けている。見てみると、少し離れた場所に一匹のトラがその場で行ったり来たりを繰り返していた。左右に動くものの、顔だけは一点を見つめていたから、恐らく下にも観覧できる場所があるのかも知れない。

 スペースが空いて前に進むと、佐々木さんがスマートフォンの動画機能を起動してすぐ、今まで下の方で行ったり来たりしていたトラがこちらに向かってかけ上がって来て、今度は私達の目の前をうろうろし始めた。これにはその場にいた来場者もビックリ。ちなみにトラがかけ上がってきたそのタイミングは、佐々木さんのスマートフォンにはしっかりと保存されていた。トラは佐々木さんのために上に登ってきたのだろうか。一分もしないうちに、下の方へ戻ってしまった。

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