その参。
四 八月◯日、午後二時十五分
鶴岡八幡宮を参拝し終え、また小町通りに戻る。
どこからか美味しそうな肉の焼ける匂いがして立ち止まると、ソーセージ屋さんが店の前で棒がついたソーセージを焼いていた。しっかりと焼き色と焦げがついたソーセージを見て、財布の口が緩む。
今度は駅の反対側に行き、私が気になっているコーヒースタンドに向かう。
先程の小町通りほど賑わってはいないが、ちらちらと観光客が歩いている。新しくオープンしたカフェが多い。道中にチョコレート専門店が二店舗もあった。(気になるがまた今度にしよう)
スマートフォンのナビ通りに歩いていくと、ひょっこりと看板が出ていた。目的のコーヒースタンドだ。
外には二組ほど座ってコーヒーやケーキを食べている。店内を覗くと、立って飲食する立ち飲みのようなスタイルで、既にカウンターは埋まっていた。
「コロンビアは聞いたことがあるから大丈夫!」
そうじゃない。
コーヒーが苦手なのは大丈夫か、という意味での問いだ。
何はともあれ、二つのコーヒーを注文する。ハンドドリップで淹れるコーヒーは、私が勤めている店でもやっているが、お湯の温度や豆のグラム、注ぐスピードは決まっていても、お湯の注ぎ方は人それぞれ。その豆に似合った注ぎ方をしていくので、見ていてとても楽しい。ガラス窓を挟んだ向こう側で、ピザを広げて伸ばしたり、デザートの最後の仕上げを見ているのような感じだろう。
コーヒーを受け取って、近くにあったベンチに座る。この夏日にホットなんて、と思うかもしれないが、私は好きだ。苦味より酸味の方が強いコーヒーではあるが飲みやすく、冷めても美味しかった。
そしてコーヒーが苦手な千晴は大丈夫だろうか、と横目で見ると、プラスチックのカップの中はまだ溶けていない氷と半分以下の量のアイスコーヒーが入っていた。
「あれ、砂糖とかミルクは?」
「取り忘れた。でもこれ美味しい! 全然飲める!」
千晴曰く、コーヒーというよりカフェインが苦手らしい。飲むと腹痛が起きるらしく、普段から避けているのだが、このアイスコーヒーはなんともないのだという。滅多に飲まないうえ、好みのものが見つかってとても喜んでいた。
コーヒーを飲み終えて、暫く近隣を散策する。時間的におやつの頃合いだったので、甘味を探すことにした。しかし、時間的にも込み合っており、どこも空いていない。すると、近くに和菓子を中心においてある甘味処があった。某サブレーが経営しているらしい。ほぼ満席ではあったものの、すぐ入れそうだったので入店。
メニュー数は多くはなかったものの、どれも美味しそうだ。
千晴はぜんざい、私はみつ豆を注文する。運ばれてきたみつ豆は半透明な寒天と二色の白玉、鳩と金魚の鮮やかな寒天が入っており、夏の涼しげな雰囲気を醸し出していた。みつ豆にかける蜜は、白蜜と黒蜜があったが、珍しい白蜜にした。ほんのり甘さが丁度よく、スプーンが止まらない。
それはぜんざいを注文した千晴も同じ立ったようで、数の入っていない白玉を大事そうに食べていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます