その壱。

二  八月◯日 午前十二時



 私の住んでいる場所から鎌倉まで約一時間。決して近くはないが、約二時間の高速道路を運転してくる千晴に比べたらまだ近いだろう。

 待ち合わせは十二時に鎌倉駅改札前。いつものように早めに家を出て鎌倉駅に向かう。

 さすがの土曜日とだけあって、電車はどの車両も混み合っていた。普段から鞄が大きい私も、今日ばかりは一回り小さいものにしてよかったと思った。……中身はあまり変わらないが。

 しかし、思っていた以上に電車は時間通りに進み、予定より一時間前に着いてしまった。さすがに早すぎたので、近くのコーヒーショップに入る。冷えたアイスコーヒーを飲みながら待っていると、千晴ちはるから連絡が入る。


『駅まであと六キロくらい! でも渋滞してるから時間かかる!』


 流石連休、といったところか。それでも予想より到着時間が早くて驚いた。

 今は渋滞に巻き込まれていて、全く車が進まないらしい。

 私はお昼は何が食べたいか問うと、軽いものがいいと言ってきた。運転している緊張感からか、あまりお腹はすいていないらしい。マグロ丼はいいのかと問うと、少し間隔が空いてから送られてきた。


『マグロ丼は可!』


 彼女の軽めとはいったいどれくらいなのだろう。少なくとも、大食いするような子ではなかった気がする。

 そういえば、とふと思い出したことがある。

 私が行きたいと思っているコーヒースタンドは、ドリップコーヒーがメインだ。SNSで見ただけなので、どういったメニューがあるのかはあまり見ていない。いや、それ以前に千晴はコーヒー飲めただろうか。大の甘党の彼女が、ブラックで、いや、コーヒーそのものを飲んでいるイメージ沸かない。


「千晴、コーヒー飲めたっけ?」

『飲めない! でも牛乳入っていたりカフェモカとかだったら大丈夫!』


 ポーションミルク程度でも大丈夫だろうか。

 とりあえずコーヒースタンドに行きたいことを伝えると、快く了承してくれた。


 途切れ途切れの連絡を取りながらも一時間後、ようやく駅付近のパーキングに車を停められたとの連絡が入る。

 私は店を出て駅へ向かおうと大通りに出たところで、千晴が前を通りすぎて行った。


「ちょ、ちょちょ……千晴!?」 

「あー! たーさんいた!」


 前回会った時は四月頃だっただろうか。多少髪が伸びたくらいで、ほとんど何も変わらない。好きなアプリゲームのキャラクター人形が(四体くらいいる)トートバッグの中からひょっこりと顔を除かせている。


「……持ってきたの?」

「当然!」


 千晴はそう言ってドヤ顔で自慢げに見せてくれる。うん。やっぱり変わらない。

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