その七。

〇月□日、午後四時三十六分


 無事全員揃ったところで、他のアトラクションに向かう。途中、雨が本降りになってきたので雨宿りができる場所へ移動。何の建物かは知らずに入り、お化け屋敷だとわかると、佐々木ささきさんが真っ青な顔をした。

「うええいいい」

「佐々木さん、真ん中入る? 怖くないよ。あ、緒方おがたさんは前ね」

「え?」

「先陣を切っていただいて……たっきーは?」

 正直怖いけど、(アトラクションに乗り過ぎて)あまり考えられなかったので一番後ろについていくことに。お化け屋敷を抜けた後、緒方さんにどうだったかと聞かれ、何も考えずに答える。

「……サメの人形が可愛かったです」

 要するに、全然怖くなかった。

 雨は変わらず、むしろ先程よりも勢いを増していたので、飲食スペースへ移動して温かい飲み物を買って一休み。皆、お腹が空いていたのだろうか。お手洗いから戻ってきたら、皆がケチャップ片手に無心でポテトを頬張っていた。


 雨は未だ降り続きながらも屋根の下を伝って移動し、室内アトラクションであるシューティングゲームに挑戦。バーチャルリアリティの空間でエイリアンに侵略された世界を救う。

 練習の時点で映し出された順位表は、それぞれの順位と獲得ポイント、顔写真が表示されている。現時点で最下位は佐々木さんだ。

「え……五ポイントって、マジかーい」

 そして本番。画面も揺れ、座席も揺れるこの状況にいち早く高得点をたたき出したのは、一緒に乗っていたどこかの家族のお父さん。何度も立て続けに挑戦しているのだろうか、息子らしき男の子が「おとうさん! また一位だよ! 手加減してよー」と駄々をこねる声も聞こえてきた。

 五人の中では上位五位以内に亀田かめださんと緒方さん、私がランクインした。私とわずか数ポイント差で佐々木さんが後に続き、その後に飯塚いいづかさんが入るという渋滞が発生。

「佐々木さんの追い上げすげぇ」

「慣れているからね!」

 佐々木さんのやり切った感満載の笑顔が眩しかった。


 閉園まで時間が迫ってきていたので、雨が弱まったタイミングを見計らって最後のアトラクションへ。

 全員でボートに乗り込み、激流にのまれながらゴールまで進むアトラクション。吹いてくる風も冷たくなってきたので、きっとこれは風邪決定だな。

 二人掛けの椅子が三つ付いた円卓型のボートに乗り込む際、何故か緒方さんの隣に嫌な予感を察した私は、なんとなく飯塚さんの隣に座った。スタート地点には背中を向ける体勢になるが、この際仕方がない。

 風も出てきているせいか、ボートがぐるぐると回り、川の流れも増して容赦なく水飛沫が襲い掛かる。勢いでボートの中に水が入ってくると、濡れないように全員が足を宙に浮かす。飛び跳ねた水はとても生ぬるかった。

「馬鹿野郎おおお!!」

 突然聞こえたのは、緒方さんの叫び声だった。叫び声、というより怒鳴り声に近いだろうか。見ると、先程の激流で飛び跳ねた際、座席が水浸しになっていた。

「ズボン濡れた! 浸みてきたああ!!」

「はーい、浸みてまーす」

 緒方さんが一人でバタバタしていると、隣で佐々木さんがスマートフォンの動画を起動していた。お部屋探検コーナーのお姉さん改め、実況お姉さんが笑いながら登場。

「動画撮ってまーす」

「イエーイ!」

「イエーイじゃねぇんだよおおお!!」

 緒方さんの訴えに全員が笑う。笑うことしかできなかったというか。それからも次々と激流に流されていき、ボートはぐるぐる回ると共に全員が水浸しになる。特に緒方さんが。

「よし行けー緒方さん濡れろー!」

「進めぇ」

 笑いがこらえきれず、まともに喋れていない。笑い過ぎてお腹を抱えている人も、腹が痛いと何度も呟いていたっけ。


 ……もうね、天候とか疲れとかいろいろあったと思うんですよ。

 それでもこんなに笑って居られたのは、こういう状況だったからこそ。仕事仲間で遠出して、ずぶ濡れの遊園地で皆一緒にアトラクションに乗って、それだけの条件がそろっていれば、何でも楽しいものなのだと、動画を見返しながら思いました。


 閉園時間まで遊び尽くした後、遊園地の出入り口から車が停めてある駐車場まで、強く叩きつける雨風を凌ぎながら向かった。その状況を楽しむかのように、大きなアラ●ちゃんが現れたことを一応書き残しておこう。

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