その六。
〇月□日、午後三時
「……さて、ここで皆さんにお知らせがあります」
ようやくふらつきが無くなって動けるようになった頃、神妙な顔つきで
「
「…………はい!?」
今の今まで気付かなかったが、どうやら佐々木さんのリュックの中に雪見さんを入れていたらしい。
「え、いつからいないんですか?」
「うーん……ゴーカートの時にはいたんだけどなぁ」
「ああ、そういえば自分の膝の上にいましたね」
「その後は!?」
ゴーカートは二人乗りで、運転は佐々木さんが、助手席には
「ああああああっ!?」
後ろの方で叫び声が聞こえ、振り返ると今度は
「亀田ー? もしかしてフラッシュがいないとかじゃないよねー?」
「…………」
「迷子センター、行ってみようか」
亀田さんの沈黙で、予感が的中。全員で入口の近くにある迷子センターに向かう。
途中、悪天候にも関わらずゆっくり動く観覧車の前を通ると、佐々木さんの足が止まった。
「今、ゴンドラに白い耳が見えた気がするんだけど……」
観覧車にうさぎ一匹が乗ったとでも言うのだろうか。すると飯塚さんがどこからか双眼鏡を取り出して観覧車の方向を見る。
「……なんで双眼鏡持っているんですか?」
「あれ、違うかな」
飯塚さんは応えることなく私に双眼鏡を渡す。佐々木さんと飯塚さんが見た方向に目を向けると、確かに登り始めたゴンドラの中に、白い耳が……いや、うさぎの顔がぴょこっと顔を覗かせた。
「雪見さんんん!?」
「やっぱり? いやーマジかー。すごいっすね」
飯塚さん、感心している場合じゃない!
今さっき登り始めたばかりだから、暫く降りられないだろう。天候が悪化して停まらない限り。
雪見さんの居場所が分かった所で、今度はフラッシュを捜索。迷子センターに亀は来ていないようだ。
「どこかの川に飛び込んじゃったのかな……海には繋がってないのに……」
いやまさか。
すると、迷子センターのスタッフが電話の受話器を持ったままこちらに駆け寄ってきた。
「今、渓流体験ゾーンにアオウミガメを保護したらしいのですが、お連れ様ですか?」
「そうです!!」
亀田さんの食いつきように、スタッフの人の表情が引きつっている。迷子って、人間じゃなかったんだよ。
無事フラッシュを引き取ると、丁度雪見さんが乗っていたゴンドラが地上に戻ってきた。……が、しかし。雪見さんはゴンドラの中にいなかった。
「え、さっきいたよね!?」
「先に降りてどこか行っちゃったのかな……?」
ふと、降りてくるゴンドラに目を向けると、観覧車の骨組みのところに白い塊が見えた。
「………いた」
微かに動いているし、首振って何か探しているし。
「嘘でしょ!? 雪見さーん! 危ないから降りてきてー!」
佐々木さんの声に気付いたのか、雪見さんはゴンドラの上に飛び乗り、両手を広げて何かをアピール。
「よく頑張って登ったね! 偉い! でも降りられなかったら意味ないでしょー!」
以心伝心、というべきか。佐々木さんに怒られてしゅん、と耳を下げてその場に丸まってしまった。それでもまだ観覧車は動き続けている。
「ああどうしよう!?」
「助けてフラッシュ!!」
「亀だから、無理だから!!」
皆が混乱する中、飯塚さんだけ黙ったまま雪見さんを見続けている。その冷静さ、分けてほしい。
「こうなったら、これしかない!」
先程までフラッシュに助けを求めていた亀田さんが、フラッシュが入っている鞄を佐々木さんに投げ渡すと、緒方さんの背中とズボンのベルトを掴んで持ち上げた。
「え? え、ちょ……ちょっと待て亀田。まさか……」
亀田さんの意図を察したのか、緒方さんの額に冷や汗が流れる。そして一度緒方さんに顔を向け、亀田さんはニッコリと笑った。
「ごめんね、これしか方法がないんだ」
「いやいやいや!? 他にあるだろ!! 絶対これ目を回して終わりだって!!」
「緒方さんならきっと、雪見さんを助けられると思うんだ。だって貴方は俺達のオチたん……スーパーヒーローじゃないか」
「今オチ担当って言いかけたよな!?」
「それじゃあ……頼んだよ、緒方さあああん!!」
「人の話を聞けよ馬鹿あああ!!」
緒方さんの服をしっかり掴んで回転を始めた亀田さん。もはや止める術はない。十分に回転をし、手を離したその瞬間――!
「観覧車停まったんでスタッフの人が救出してくれましたよー」
「ほらあああ!!」
緒方さんの叫び声と同時に、いつの間にか飯塚さんが雪見さんを抱えていた。亀田さんが緒方さんを持ち上げた辺りから、既に観覧車の方へ向かっていたらしい。無事雪見さんが佐々木さんの元へ戻ってくると、ぎゅっと抱きしめた。
「よかったー。めでたしめでたし!」
亀田さんのバッグから顔を覗かせたフラッシュも、雪見さんを心配そうに見ていた。
一方、飯塚さんの制止に間に合わなかった緒方さんは二、三メートルまで飛ばされたものの、偶然敷かれていたトランポリンとマットにより、怪我することなく着地した。
……こんな話があったり、なかったり。なお、この旅行記はノンフィクションではありますが、時々フィクションが混ざります。この話が本当かどうかは、皆様のご想像にお任せ致します。
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