その参。
〇月△日、午後七時三十分
車に乗り込み、奢ってもらった苺アイス銅鑼焼きを食べて暫く外を見ていると、気が付いたら眠っていた。
ぼんやりとした視界と意識の中で聞こえてきたのは、寝息と話し声。見ると隣に座っていた
外が土砂降りのせいか、前の席にいる二人の声はあまり聞こえない。
「あ、たっきー起きた?」
「…………」
「たっきー?」
「……はよござます」
日本語にもなっていない挨拶をぼそぼそと言う。スマホの画面を見ると、江戸村を出て一時間経っていた。その間、二人はずっと起きていたんだと思うと申し訳ない。そう思っていると
宇都宮駅近くのホテルに着いても、雨の勢いは変わらず降り続いていた。佐々木さんが予約してくれた部屋は座敷が三つあり、何故かフラッシュと雪見さんの分を含めた七人分の布団が敷かれていた。(管理人エスパーか。)他にもトイレと風呂は別々、電子レンジや冷蔵庫まで設備されている。キッチンさえあればここで暮らせるぞ。
荷物を置いて夕飯を食べに駅の近くへ向かう。
宇都宮と言えば、もちろん餃子だ。ホテルの管理人に聞いたお店を探すが、閉店間際の店ばかりで、雨の中でも長蛇の列が出来ていた餃子専門店に入った。メニューは豊富で、中身の違うものや焼き以外の調理法で作る餃子が沢山あった。
「十二種類食べ比べを五皿、蒸し餃子と鉄板チーズ餃子、水餃子を二皿ずつ。あとスープ餃子と……」
「湯葉餃子」
「あ、揚げ餃子も!」
気が付けば、ほぼ全部の餃子を注文していた。
いや確かに男性が多いから沢山量を食べるのはなんとなくわかっていたけども、佐々木さんも何も言わなかったからアレ、これ自分が食べなさすぎなのかなって不安にもなったけども! 一人で黙々と考えているうちに次々と餃子が運ばれてきた。様々な餃子や十二種類の食べ比べ餃子をやっとのことで半分食べ終えた頃、激辛餃子が入っていることが発覚。
「うっわ……辛っ!」
「そういう時はチーズで緩和……しなかったー」
「……え、辛いのあるんですか」
「赤っぽいのがそうだよ」
その後、疑心暗鬼になりながら食べた激辛餃子に悶絶しながら、暫く餃子は食べないことを誓った。
大量の餃子を食べ終えて店を出て、コンビニでお菓子を買ってホテルに戻る。
ぐだぐだっとした雰囲気で、レモン牛乳を片手にトランプで大富豪やダウト、ババ抜きをした。ほとんどルール知らなかったけど、
この時点で二十二時を過ぎていた為、トランプでお風呂の順番を決めた。一人ずつ入っている間、佐々木さんがスマホの動画を起動させ、お部屋レポートを開始。
「それじゃあ佐々木のお部屋探検コーナー始めまーす! ここが女子の部屋で、これが干物です。こっちのタンスは何も入ってなくて、ここは……お着替え中でしたー!」
「まだ着替えてないよ!!」
男子の部屋では浴衣に着替えようとしていた緒方さんと鉢合わせしたらしい。最後にカメラの先には干物扱いされていた亀田さんが、フラッシュを枕にしてうつ伏せで寝落ちしていた。何度かおでこを突いたが、起きる様子はない。暫くすると、ガバッと勢いよく寝ぼけた顔を上げた。
「……今俺寝てた?」
「はい。眠いならお布団行った方がいいのでは? 風邪ひきますよ」
「いや、まだ……枕投げやってない、から……」
そう言ってまた寝落ちする。つか、この状態で枕投げするの。
そもそも、朝からずっと運転していた飯塚さんと助手席でずっと起きていた亀田さんが寝落ちするのもわかるわけで。私がお風呂から上がってきた時には、飯塚さんもなぜかリザー●ンのパジャマを着て、亀田さんと折り重なるようにして寝ていた。浴衣姿の緒方さんがどこかの金融会社の取り立て屋のように見えたのは、私だけだろうか。
全員がお風呂から上がったところで、枕投げ開始。緒方さんめがけて枕が叩きこまれる。暫くしたら標的が亀田さんに変わり、いつの間にか掛布団をかけあって佐々木さんまで巻き込んでいた。それでも布団に入って眠ろうとしていたのは飯塚さん。
小、中、高校ではあまりいい思い出がなかったし、盛り上がった記憶がないけど、修学旅行の夜ってこんな感じなのかなぁ、と思った。
就寝したのは深夜一時過ぎ。寝不足決定だと思った瞬間だった。
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