その壱。
〇月△日、午前四時
目覚ましのアラームが鳴り響いたのは早朝の四時。
自宅から指定された場所まで一時間以上かかる為、普段苦手な早起きをしなければならなかった。いつもなら緑色の充電完了を表すスマートフォンのランプが点滅しているのを見て、また迷惑メールかな、と思いながら手に取る。画面には、飯塚さんがグループメッセージに夜中の一時に送ったものが表示されていた。
【集合場所を日進駅に変更します! ごめんなさい!】
…………どこ!?
私の第一声は心の中だった。この時「日光」と読み間違えていたのもあり、現地集合は不味い、早く出なければと焦って支度したのは内緒の話。大宮駅の次の駅だということに気付いたのは、電車に乗ってからだった。
スマホの検索機能で調べながら、乗り換えて集合場所の駅に到着すると、改札前で
……ぴょん?
「……蛙?」
「亀だよ。ね、フラッシュ!」
これは失礼。甲羅が見えなかったからつい。
フラッシュは改札を出て私と合流した時にうっかり顔を出したそうだ。
「だって電車で首出していたら怪しまれない?」
ごもっとも。――とは、口には出せなかった。いちおう。
しばらくして、
「あれ、緒方さんは?」
「自分が家出る時はまだ寝ていたので、先に来ました」
置いてきたらしい。
と、
【朝ごはん食べ損ねたのでおがたさんシュークリームください】
「……だそうです、緒方さん」
丁度、そのメッセージが届いたところに緒方さん登場。少しまだ眠そうな顔をしていたが、佐々木さんからのメッセージを伝えると、スッと改札近くにあるコンビニにシュークリームを買いに行った。
「売ってなかったから向こう側のコンビニで買ってくるねー」
「……って佐々木さん来ましたけど!?」
緒方さんと入れ違いで佐々木さんが白いウサギを抱えて登場。
「おはよー」
「佐々木さん、もしかして電車乗っている間ずっと抱えて来たんですか?」
「
それで改札通れるとかすごいな。
佐々木さんと亀田さんが事前に打ち合わせをして連れてきたのかは謎である。とりあえずシュークリームを買って戻ってきた緒方さんと合流し、駐車場へ移動した。
運転席には飯塚さん、助手席に亀田さん、後部座席には右から緒方さん、佐々木さん、私の順で座る。駐車場を出ると、緒方さんが全員にシュークリームを配ってくれた。五人分買ってきたらしい。他にも大量のお菓子を用意してくれたらしく、あれ食べたい、これ食べたいといったリクエストに袋を探っては袋を開けて渡していく。お菓子奉行だ。
車が動き出す。シュークリームを食べ終わる頃、唐突にミュージカルが始まった。助手席に座る亀田さんが先程のフラッシュと白ウサギ――もとい、雪見さんと共に歌い出す。演目は勿論、日本で有名な昔話だ。
その間、都心の高速道路に滅多に乗ったことがなかった私は、ずっと車窓の外を眺めていた。連休直前にも関わらず、渋滞に引っかかることなく進む都心の高速道路は素晴らしいと思えた。
「ねえ、俺ここからたっきーが見えないんだけど、もしかしてスルーされてる感じ?」
「うん。全然見てないよ」
「絡もーぜー」
亀田さんが無理やり腕を伸ばして近付けたフラッシュの口が目の前まで迫っているのに気付いたのは、前髪を食べられてからだった。
高速道路で二時間かけて栃木県に突入。
途中某グルメサイトにて見つけたそば屋を発見して昼食タイム。手打ち蕎麦が売りらしく、天ぷらや月見など、メニューは豊富だった。
「たっきー、湯葉そばがないんだけど」
「……ごめんなさい」
以前栃木に旅行した時に湯葉が入ったそばを食べたことがあった私は、湯葉そばがある店と書かれたサイトを見つけて運転している飯塚さんに伝えた。が、そのお店に湯葉そばは置いていなかった。
某グルメサイトには『湯葉そば』って書いてあったのに、書いてあったのに!
美味しかったけどね!
いたたまれない気持ちのまま食べ終えると、助手席の亀田さんと佐々木さんが交代して車に乗り込んだ。今回のメンバーで最年長の二人に挟まれ、真ん中の席に座る。
そば屋に置いてあったチラシを見ていると、隣で亀田さんが『いちご狩り食べ放題!』と書かれた欄の料金表を見て私に言う。
「たっきーなら千百円(小人料金)で入れるね」
「私、小学生を名乗ってもいけますか?」
「行けるよー!」
「オジサン二人に挟まれるなんて、今日一番運が悪いね(笑)」
笑っている緒方さんのジョークに苦笑いで答える。そしてオジサン二人に挟まれて、ようやく最初の目的地に到着した。
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