プロローグ

「たっきー、江戸時代に行かないかい?」

 とても唐突な話を持ち掛けられた場合、どう反応すればいいのだろうか。

 今まで勤めていた職場を辞めて、新しく入ったお店で働いて数日経ったある日のこと。仕事終わりに寄ったフットサルコートで、見学で見に来ていた緒方おがたさんとジャージ姿の佐々木ささきさんと出会った。二人とも以前勤めていたお店のスタッフさんだ。最初の頃はあまり話したことはなかったが、一緒に参加した個人参加のフットサルがきっかけで、それ以来仲良くさせてもらっている。「たっきー」というあだ名も、他のスタッフさんが呼び始めてからというもの、二人にも定着しているらしい。

 唐突に話を切り出した緒方さんの話に混乱する私――間宮樹まみや たつきに、佐々木さんが説明してくれた。

「来月の最初辺りに、何人かで栃木に行こうって話をしているんだけど、女子が私だけだから一緒にどうかな?」

「栃木で江戸時代……?」

「江戸村で忍者になりたいんだって」

 ああ、そういうことか。

 ようやく冒頭のセリフに納得する。確か、栃木にある江戸村には、村民になれる不思議な染物屋があるらしい。それを知った緒方さんが何人かに声をかけて栃木旅行を提案したそうだ。

 滅多にない機会だ。私は早急にお店でシフトを作っている社員に連絡し、休みを取った。

 その一ヶ月後、以前の職場の飲み会に誘われて顔を出した時に、飯塚いいづかさんと亀田かめださんも一緒に行くことを知った。旅行の五日前の話だ。

 そして出発の時間と集合場所が伝えられたのは、旅行前日の夜十時頃だった。

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