01-12 ファザコン
親友は、俺と同じように立ち上がると、宿り木に似た黒い筒のような物体をポケットから取り出した。
「
親友の短い言葉に現れるは純白の光。
産声のように起動音を上げ、その光は白い靄のように周りに立ち昇り、その靄はソレに吸い込まれるかのように纏わりつきゆっくりと形を成していく。
周りの光を凝縮しているかのように形づくられて行くその姿は、まるで一つの大きな角のように見えた。
穢れを知らない無垢を感じさせる白い刀身。
白い、
「神具って言ってな。俺が作った」
くるくると華麗に回し、背中で刀身を隠すように背後に。辺りにキラキラと純白の光を撒き散らし、背後から勢いよく振りかぶると刀身を俺に向ける。
「……や、やだ……」
「?」
なにこのヤンチャそうな優しいイケメン。
凄そうな武器を自作したとか普通に言うし。
俺の話をしっかり聞いてくれるし、俺の予想を遥かに越えてきやがる。
やだ、惚れちゃいそう。
「な、わけっ、ぁあるかぁぁぁっ!」
「なにがだよっ」
惚れてなんか、やらないんだからねっ!
なんて。叫びとともに想いを吹き飛ばしていると、
「あっ」
この親友が、
……弥生。
ねぇ弥生。
聞きなさい、俺の心の中の弥生。
お前、神具とかすげぇ武器あることとか。
そう言うの記憶で残しとくのが普通じゃねぇの!?
何をたゆんをぽよんしたりぷるんしたりの記憶ばっか残してくれてやがんだっ!
それはそれで有効活用するけどさっ!
ずっと親友に安全マージンとられてるみたいで、なんか、なんかぁぁぁ……。
「……あ。たゆんでぽよんでぷるんだけは勝ってるか」
「何の勝ち負けかは知らんけど。お前……それ絶対あいつらの前で言うなよ……」
親友に唯一優位にたてそうなことはそれくらいで。
でも俺が持つ何かしらで優位に立っているわけでもないから悲しい。
だって、巫女は俺の大事な人だけど俺でもないし誰にも渡す気はないと思っているけど、人なんだから俺の所有物というわけではない。
だから、勝ったのは俺ではなく、巫女だ。
とかよく分からないことを考えながら手元で解放された宿り木を見る。
なんだか、満を持して登場した『宿り木』も、心なしか寂しそうにしていたのはきっと。
うん。
きっと。
気のせいと思いたいけど、気のせいなんかじゃないんだろう。
「なぁ、その武器、どこで手に入れたんだ?」
「んあ?」
親友は妙に俺の相棒『宿り木』に興味津々だ。
なんでそんなに興味があるのかさっぱりではあるが、また話の続きでもしてやろうではないかと思ったが、
「タダシの町のでっかい樹の下に落ちてた」
ぐらいしか記憶にない。
というか、普通に落ちてただけだし。
拾った(?)が正しいのかね?
「……お前さっき神剣とかいってなかったか……?」
「お前もポケットから神って名前ついた武器出してるのもたいがいだけどな」
「それ言ったらお前なんか名前に神ってついてんだろ」
お~いおい。それ言ったらあっちの世界でもこっちの世界でも、こいつの知らないとびっきりの爆弾投下しちゃうぜ~?
「まあ、そんな感じで手に入れたわけだから、俺もこれが誰が作ったのかとかはしらんのよ」
「ふ~ん……まあ、俺ではないことは確かだろうな。刻族もノヴェルの世界にいたと考えたほうがいいか」
「刻族?」
はて? それはなんて貴族だ?
いや、親友のいた世界は俺のいた世界とは違う。
財閥関係者に悩まされたりはしたみたいだが、貴族みたいなよく分からん人種はいなかったはずだ。
でもそう考えると、ラノベよろしくな貴族が親友のいた世界では財閥関係者になるのかなと思うとしっくりきた。
「ああ。ノヴェルのほうでは確か、ムイタ族っていったほうが分かりやすいのか?」
「お……おぅ?」
「……お前とあっちの話をしてると、お前は本当にあっちで何を知ってきたのか疑いたくなるぞ……」
ぉぅ。
そういう情報は無月にやらせてたからな。
俺はそれをこそっと聞くだけで、な~んも知らんわ。
「安心しろ」
「何を安心しろと」
「多分、弥生が教えてくれる」
な? そうだろ、弥生。
お前ならムイタ族やら刻族やらを知ってるはずだ。
さあ、俺にお前の知識をひけらかすがいい!
「……」
「……で?」
なぜだ。
何故こういうときは都合よく教えてくれないんだ。
弥生よ。
俺の心の
「……で?」
教えてくれない弥生のツンに涙を流しながら、執拗に「で?」と聞いてくる親友に真剣な顔を向ける。
「なぁ親友よ。この武器が作られたこととそのムイタやら刻族やらが関係あるのかな? ないだろ。さあそんな話は置いといて続きを――」
「あるっつうの。一応俺が刻族のトップだからな。そこらへんしっかり聞いておかねぇと色々問題起きそうなんだよ」
なんてこった。
こいつはどうやら、俺の知らない間によく分からんが偉くなってるらしい。
「……はあぁ……あのな。多分お前の持ってるそれ、俺の持ってる神具とルーツが一緒なんだよ」
「ふむふむ」
「で、その武器。俺が知る限り、製作できるのは父さんと俺くらいだ」
「ほ~、基大おじさん凄いんだな。で、そのおじさんはどこにいるんだ?」
「……だから、それ、作ったの父さんじゃねぇかって所で、父さんの動きを知れればなって思ってな。父さん、こっちの世界にいるって聞いてたのに、この屋敷にいないみたいだし。ノヴェルに父さんが作った神具があるなら、父さんはノヴェルにいたってことにもなるだろ?」
「ああ、なるほど」
「俺達の元いた世界にいるって母さんが言ってたからこっちに来たのに、いないってどういうことだよと。……俺、ずっと父さんを探してるんだけどな」
ため息をつく親友を見ると、本当におじさんに振り回されてきたんだなって思う。
元々仲のいい親子だったけど、言われてみれば親友はずっとおじさんの面倒をみていたようなもんだから、いてくれないとそわそわしてしまうのだろう。
このファザコンめ。
……待て。
ファザコンで、ロリコンで、シスコン?
こいつはどれだけ属性を持っているのかと驚愕した。
「まあ、そのうち見つかるんじゃね?」
「……お前、話聞いていたか?」
親友が「見つからないから手がかり探してるんだよ」といっているが、あちらの世界でおじさんの気配を感じた記憶はない。
俺としては、もしかしたらおじさんが作ったかもしれない武器といわれても、誰が作ったなんてどうでもいいしな。
「……で、俺達は、そんなムイタ族――つまり俺と同族だが、それにいやぁな思い出が多くてな。……双子ちゃんが癒しみたいなもんだ」
「ほ~。双子ちゃん、同族なのか」
「ああ。そういや、神夜は双子ちゃんとどんな会い方したんだ?」
「ん。まあ、話がずれたけど、続き話すかね」
椅子に座り直して、冷たくなった飲み物に口をつけながら話を続けることにした。
双子ちゃんとの出会いはまだまだ先だったりするのだが、話を聞いてくれるならいくらでも話してやろうと思った。
なんでか俺達のことをよく知っているこいつが、どこで驚くのか興味がでてきているのは内緒だ。
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