01-11 俺の相棒はおっきい
「お前ごときが私に勝てると思うなっ!」
そんなフラグを叫びながら、果敢に町の外れで巨大な龍と戦う集団と出会ったのは、弓さんと別れて初めての異世界を満喫しながらタダシの町へ向かっているときだった。
後少しでタダシという町に辿り着くという所で、遠くから見ても妙に大きな黒い生き物がいるなって思ってたんだ。
それがまさか。
ファンタジー物で定番な
その巨体の下で勇敢に衛兵の槍みたいな棒で必死に抵抗を続ける――兵士?
でもその兵士はとても強いことは分かった。
たった一人で古龍に立ち向かうその姿。
振るう槍は炎のように激しい一撃。
古龍の一撃を避けるは流水のように流れる動き。
門番だって言われても「そんなわけないだろ」と思えるくらいに強いその人は。
ハシタダ・シモト。
タダシの町の門番だった。
そんな門番で町の町長であるハシタダさんに加勢して古龍を倒し、その日は宴。
町を襲う天災クラスの化け物を倒したのだから、それはもう町総出でお祭りだ。
そこで、俺は。
「……神夜……?」
「巫女……!?」
会いたくて仕方のない、自分の大切な、ポニーテールの似合いすぎて眩しくて神々しい彼女と出会い、ハシタダさんが保護してくれていたことに感謝をした。
「ミコ君。シンヤ君を門番に……」
「お断りです」
「やらねぇっての」
だが、
何だか古龍を一緒に倒したときに、妙に気に入られて、ハシタダさんに町の門番にならないかと猛烈なアタックを受けるようになり。
「私の後継者は君しかいないというのに……うんと言うまで明日も勧誘する……」
おぅ。なんのフラグを踏み抜いたんだ俺。
そんなことより、巫女と出会えたことに、ハシタダさんには本当に感謝だ。
門番以外ならいくらでも何でも手伝ってあげようと思った。
だがしかし。
とにかく今は、巫女と会えたことが嬉しくて。
やっぱり皆も俺と同じようにこちらの世界に来ていると確信したし、最初に出会えたのが巫女だったことも嬉しかった。
正直、無月とならまだ分かるが、
彼氏の無月や友達の巫女とは違って、俺は彼女ともっとも接点ウッスィ~からな。
「巫女。ちょっと抜けよう」
「え。まっ――走らないでっ」
みこみこエキスを堪能したいと思い、盛り上がる祭りの最中にこっそり巫女を連れ出した。
何故か走ることを躊躇う巫女に疑問を持ちながら、町から離れ更に奥へ。
気づけば大きな大樹の前まで辿り着いて、はぁはぁと息があがった巫女を正面から見た。
「よかった……無事で……」
「よかったと思うならもう少し私のこと考えてよ」
「考えてるだろ。探してたんだから」
ぐいっと引き寄せ抱きしめる。
こつんっと何かがつま先に当たって躓きつつ痛かったが、まあ巫女に会えた嬉しさに比べればそんなもの関係ない。
「違うの、違うのですよ。そうじゃなくて」
巫女が苦しそうに「ぷはっ」と俺の胸元から顔を出し、喘ぐように息を吸いだした。
思いっきり抱きしめていたからか、苦しかったようで、押しのけるように離れられてしまうと寂しい。
「もぅ……お願いだからもう少し私を労わって、なのです」
「いや、だから労わってるだろ」
「もう、一人の身体じゃないんだから」
離れられた時に、また足――今度は踝に何か硬いものが当たって痛かったが、巫女の拒否するような行動に、俺の心はもっと痛いし言われている意味も分からない。
「……ん? ああ、まあそうだぞ? お前は俺のものだ」
「じゃなくて」
「おい、お前まさか……他に――」
「ち、違うわよっ!? 何変なこと考えてるの!?」
「じゃあ、なんだよ。俺といない間に」
「だから……お腹に子供がいるからもう少し労わってってっ!」
ぴしっと。
俺の体は音をたてて止まった。
巫女の自身のお腹を撫でるその姿と言葉にふらっとよろめく。
足にこつんっと当たる硬い物体がとにかく煩わしい。
「……誰の子だっ!」
「あんたの子以外ないでしょっ!」
どうやら俺は。
元の世界で、お父さんに知らぬうちになっていて、知らぬうちにこちらの世界で正真正銘のお父さんになっていたようだ。
・・
・・・
・・・・
「と、言うのが、俺と巫女の再会で始まりだ」
食堂。
華名財閥の貴美子おばさんのでっかい屋敷の広い食堂で、俺は親友にタダシの町での巫女との出会いを話をしていた。
「始まりって……パパ活の?」
「それもだけど……」
「あぁ……不謹慎だった。悪い」
「あー、気にすんな」
申し訳なさそうにする親友に、もう気にしなくていいのにと思いながら笑いかけた。
その返しの後に謝られるまで理解できていなかったのは内緒だ。
「ふむ……ノヴェルって世界は、本当に俺のいた世界と違って異世界なんだな」
「お前のところは荒廃した世界みたいな感じか?」
「あー、それ合ってるかも。機械が優勢な滅びかけた世界って感じ?」
親友は、「流石にドラゴンはないわ」と、片耳ピアスにでこピンという、俺にとっては懐かしい動作をしながら話を聞いている。
こいつは、妙に落ち着いてやがるなぁ。と。がたりと椅子から立ち上がった俺は、この落ち着いている親友を驚かせたくなった。
異世界という部分にあまり驚かないのは、こいつが同じように現実よりの異世界を体験してきているからであって、異世界的な何かを間近で見れば、こいつだって驚くのではないだろうか、と。そう考えたわけで。
俺は広い食堂で、親友から少しだけ離れた場所に立つと、くるりと振り返る。
「……まー、さ。そこでハシタダさんと会って。巫女と一緒にしばらく匿ってもらって。で――」
俺は、ポケットに潜ませている相棒を取り出した。
こいつとは、あの時から。
タダシの町の大樹の下に突き刺さっていたのを見つけてから、何度助けられたことか。
「顕現しろ――」
俺の命を何度も救ってくれた、相棒という武器。
『神剣・宿り木』
黒い筒に向かって、キーワードを唱える。
唱えたキーワードは筒に許可を与え、筒の中から複数の緑の枝が現れて、手の甲を過ぎて俺の腕に絡み付いていく。
『宿り木』
俺という『木』に寄生するかのように枝は絡まり、俺の力を吸い取っていく。
吸い取られるは、有り余る俺の力、『S』の力だ。
吸い取られた力はそのまま筒の先端から。
俺の力を吸い取り現れるは、白い純白の光の巨大な刃だ。
両刃のぶっとい両手剣。
そいつが。俺だけが出せる、こいつの本当の姿だ。
「こいつと出会って。冒険が始まったのさ」
ドラゴン撃退の祭りの時に、大樹の下で。
俺の足に何度もアタック――したのは俺だが――してきて俺に存在を教えてきたこいつ。
俺の『S』の力を吸い取り現れるこいつ。
俺とともに、ノヴェルという知らない世界で戦い続けてくれた相棒。
くるりと一回転させて柄頭に両手を添えて床に突き刺すと、騎士のような格好で意外とポーズも様になる。
……そんなポーズを、キメてみたのだが。
実は、豆腐のようにずぶりと先端が床を貫いていくほどのあまりの切れ味に、床に突き刺すと際限なくずぶずぶと吸い込まれるように切り裂いて床に埋まっていくので、ある一定のところで自分で支えなければならないという苦行を、自分に課すことになる動作だった。
見た目に比べて全く重さを感じられない武器だからいいものの、実際この大きさの剣を支えるとなると、流石の俺も無理だ。
だが確信はあった。
この、いきなり現れたこの武器に。
俺の親友だってきっと驚くだろうと思って、必死にどでかい剣を一定位置でぷるぷる固定し我慢――
「――それ、神具、か?」
「……え」
おっと?
何だかいやな予感がぷんぷんしやがるぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます