01-10 娘がいましたと?
食事は終わり。
話は一旦、
「夜も遅いから明日にしましょう」
貴美子おばさんの一言でお開きとなった。
俺も正直、何もしていなかった……わけでもないが疲れていた。
何より。あんなことがあって、巫女ともまた会えて、死んだはずの親友ともまた会えたことにほっとして、気疲れでもしたのだろう。
……と、言うか。
ぶっちゃけ。精神的に疲れている。
訳もわからず親友の部屋に倒れ込んでいて。目覚めたらメイドに連れ去られてこの屋敷に着いて。
で、説明し出したら興味ないのかあまり聞かれない。
これで疲れないと言ったらなんなのか。
むしろ、親友達は何かを知っている様子さえある。
「とりあえず、俺も俺達側の話を纏めておきたい」
そんな親友も、分からないこともあるようで。
「ね。明日は凪君達の話を聞いて、そこから話したほうがいいんじゃない? 神夜」
巫女も何か思うことがあるようで、誰よりも情報を持ち得ないからこそ、知りたいこともあるのだろう。
貴美子おばさんのご好意に甘えて、俺も一部屋もらって一泊させてもらうことにした。
「今日はお兄たんと一緒に寝る」
「え。ナオ? それはダメ」
「そうだぞ。そろそろ一人で寝ないと」
「また離れ離れになったら、やなの」
「ナオ……じゃあ、ボクもお兄ちゃんと寝るから」
「うん? あれ、なんで?」
バラバラになって部屋へ戻る途中に、そんな会話をする親友と、左右で腕に絡まる姉妹。
これに、あのメイドはどうやって絡むのかと思うと、
……うん。よし。
こいつ、殺ろう。
なんて考えがゆらりと浮かんでくる。
こいつは本当にピンクな冒険しかやってないんじゃなかろうかとさえ思ってしまった。
「神夜、ちょっとこっち」
巫女がぐいっと、俺の袖を引っ張り腕を絡ませ、親友達に手を振り無理やり宛がわれた自室に俺を連れ込んだ。
「もう、ちょっとは考えなさいよ」
「なにを」
「何があったかまだ知らないけど、みどちゃんやナオちゃんの姿みたら凪君達も大変だったことくらいわかるでしょ」
「いや、分かるけどな」
「だったら……少しは家族だけにしてあげなよ」
家族言うなら貴美子おばさんもだろ、と思わなくもないが、三人で話したいこともあるだろう。
こっちはこっちで、巫女に聞いておきたいこともあった。
「巫女。体は大丈夫なのか?」
ベッドに腰掛け聞いてみる。
これはある意味、重要な問いかけだった。
巫女の体がどうなっているか。
もし、巫女のお腹にまだ子供がいる頃にまで戻っているなら嬉しかったのだが。
「いないよ」
巫女も俺が何を聞きたかったのかすぐに理解して、お腹をさ擦りながら哀しそうな顔で俺を見た。
「そうか……」
少しは期待していた。
あちらからこちらへ戻ったときに、巫女の体もノヴェルの世界に飛ぶ前に戻ったりしてないか、と。
そうだとしたら、巫女がまた苦しまずに済んだのに……。
「大丈夫。……凪君やみどちゃんにまた会えたんだから」
「巫女……」
少しだけ空元気な巫女の頭を撫でながら。
明日のために眠ることにした。
・・
・・・
・・・・
「……はあ?」
次の日。
昨日と同じ、豪華そうなリビングで使用人が運んでくる朝食を食べながら、俺は耳を疑った。
「だからな。信用できないと思うんだが」
そう、再度前置き付きで親友が話し出してくれる。
隣に座る巫女なんぞ、ぽかんと口を開けたままだ。
当たり前だ。その話で昨日悲しませたんだからな。
「とにかく。色々説明するには長い話にはなるから。要点だけは理解しろ」
そう言われても理解が追い付かない。
「ボク、飛行機事故で死んでて。その後に巫女ちゃんのお腹の子に生まれ変わってるの」
なんて言われても、誰が理解できるかと。
「だから、二人がどれだけ赤ちゃんのこと大事にしてたかってよく分かってるし、だからお腹の中で嬉しくて蹴ったりして」
「みどちゃん……」
「サナって人がボクを取り出して……死んじゃったけど、でも、知ってるよ……?」
サナ。
その忌々しい名前に、俺は親友を見た。
冗談だとしたら許せない話でもあるが、そんな悪ふざけをする奴等じゃない。
「みどちゃん……なんで……」
「……ノヴェルに行ったことないのに知るわけないだろ?」
「いや、でも……」
「碧は、今は
生まれ変わっている。
そんなこと言われて、そうなんですね、なんて納得できるわけがない。
生まれ変わっているってさらっと言えるこいつも、頭どうにかなってるんじゃないかと思わなくもない。
「だからややこしいんだよ……」
親友がため息混じりに呟くように言うが、「ここを理解しないと次もあるんだから」と意味深なこともぶつぶつ言っている。
「じゃあ……私の……赤ちゃん……は……」
お腹を擦るのが癖になったかのように自身のお腹に触れる
「意識そのものは、碧だ」
目の前の同級生は、悲しそうに、でも嬉しそうに俺達を見ている。
俺達の子は、死んだ子は救われた。
そう言っている。そう言いたいのだろう。
だけど。だけど俺たちは……
「冗談でそんなこと言うやつらじゃないってことは分かるし、今言われたことだって信じようとは思う」
俺達は、目の前で亡くなったその子を。
失ったその子を、見てはいない。
見てはいないからこそ、会ってはいないからこそ、そう言われても実感は沸かない。
なぜなら、あの時。俺の中であの子は、なくなったのだから。
「……でも、それでも。ボクは巫女ちゃんの子供だったし、嬉しかったんだよ?」
「う――うぁぁ……」
巫女が、うわ言のように「産んであげられなくてごめんね」とまた涙を流した。
その姿に、碧が近づき同じく涙を流して互いを慰める。
そこにちみっ娘も合流して、三人が三人涙して慰めあう。
「……信用、できねぇだろ……そんな話……」
もう、巫女はその話を確実に信用している。
信用できる何かを感じ取れたのだろう。
「……まあ、ハシタダって人と、双子がいれば、更にもう少し話はできると思うけど、信じてやってくれ……お前の話を少し聞く限り、結構な冒険してきたみたいだけどさ。俺は俺で、結構な冒険してきてきたつもりだぞ」
親友はそういって、辛そうに微笑みを浮かべる。
「……そう、だろうな」
俺は、そんな娘が生きていましたなんていきなり言われても信じることはできないけど、それでもこいつらの言っていることは信じてやろうと思った。
でないと、あの時亡くなった我が子が、可哀想だったから。
女性陣があまりにも衝撃なことに泣き止まない。
「後で話は俺のほうからしておくから」
「ああ」
貴美子おばさんに、女性陣を任せて退席してもらい。
そして、俺は。
親友と二人で、中断していた話を話し始める。
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