01-09 タダシの町へ


 弓さんは俺とギルドから出ると、露店でパンに包まれた肉の塊――多分ホットドッグなのだが、サンドイッチのように挟んだだけなのでなんとも言えない――を購入し、噴水広場にあった二人がけのベンチに座りながら大陸の地図を渡してくれた。


「ここがタダシの町だよ」


 地図に載った細長い大陸を指差しながら弓さんは俺に目的地を教えてくれる。


 海に囲まれた大陸。

 その真ん中下の海に面したのがこの王都。

 そこから指をつつっと滑らせると、遥か西方を指差す。


「……森、なんだけど?」


 大陸西方には森林地帯が地図に書かれていて、その森の手前には大きな樹があるだけだった。


「この森の手前にタダシの町があるんだけど、地図には乗ってないんだよね」


 そういうと、とんとんっと地図を叩くと、じじじっと焦げるような音とともに丸い円が地図に描かれる。


 ……なんだ、今の。指が燃えた? 地図の表面だけ燃やした?


 弓さんの突発的な行動に、地図を捲って裏側まで貫通してないか確認してしまう。


 ……よし、燃えてない。


 なんて、弓さんがこの地図をくれるのかどうかさえわからないのに、自分の所有物かのように扱ってしまう。


「ここにある大樹の下に、先日いきなり人が現れたって話題になったんだよ」

「人がいきなり?」

「君や僕みたいに、異世界から来た人――迷い人だと思わないかい?」


 迷い人。

 異世界から異世界に迷いこんだ人のことをそう言うらしいが、い言えて妙だと思った。


 だけど、それが本当だとしたら。

 俺と同時期に現れたのなら。

 それは、間違いなく、俺と共にあの場所で死んだ三人の誰かじゃないかと思えた。


「何から何までありがとう弓さん」


 そう思うといても立ってもいられない。

 すぐに旅立とうと、俺は立ち上がる。


「行くなら、さっきの冒険者ギルドでタダシへの輸送の仕事とか請けていくといいよ。君、そんなにお金持ってないでしょ」


 先行く物は金。確かにお金は心許ない。

 そんな弓さんからの教えに、自分が先程冒険者になっていたことをすっかり忘れていた。


 冒険者……いい響きだ。


 そんなことを思いながら、再度ギルドへと。


「あれ? ここで依頼を受けたらここに報告に来るのか?」

「あっちにも冒険者ギルドがあるから、そこで完了の報告すればいいよ」


 そうやって冒険者は町を循環していくらしい。

 次の町へ次へと。様々な景色を見て進んでいく様は、まさに冒険者だと感じた。


「荷物の配達とか、簡単なものでも受けておくといいよ」


 そう言って、ぺりっと掲示板から剥がされ渡された依頼書を受け取り、受付嬢の待つカウンターへ。


 初めての依頼書は――






 ・・

 ・・・

 ・・・・





「――とまあ。そんな感じで、タダシの町に向かって、巫女と再会したわけだが」


 と、ノヴェルに降り立った俺ダイジェストをさっと話したわけだが。


「ナオ。どうやって生き返ったんだよ」

「お兄たんの愛の力なの」

「俺なにもやってねぇけど……」

「ナオが死んだままでよかった?」

「そう言う話じゃないだろう……生きてくれてたから嬉しくて質問してんだよ」

「愛の力なの」

「……もう、それでいいよ……」


 親友は、冒険者となり輝かしく旅立った俺には興味はないらしい。


 あちらはあちらで。

 弥生の断片的な記憶を見ても、色んな冒険とピンクな冒険もしてきたようで、また出会えた仲間――という名の恋人達――に話すことも多いというのも理解はしている。


 理解はしているのだが、ね。


 ……俺としてはほぼ二年ぶりとなる出会いなので、もうちょっとこう……俺とのスキンシップや男同士の誓いみたいなものもあってもいいんじゃないかなぁって、そう思うわけだよ、俺は。


「で? 冒険者になって何で巫女と会うんだよ」


 前言撤回。

 親友はしっかり聞いてくれていた。

 涙がでそうだ。

 嬉しくて、ではなくて、片手間に聞かれた怒りで、だが。


「あー……私が転移した先がタダシの町なのよ。そこでしばらくハシタダさん――タダシの町の町長さんに匿ってもらってたの」


 巫女が俺と親友が会話しているのを嬉しそうに聞きながら俺の話に補足する。


「町長? 門番じゃなくて?」

「んー、門番というより本業は町長?」

「似つかわしくない近衛の槍持ってたりする?」

「何で知ってるの?」

「町を守る門番も悪くないとか言ってそうなの」


 ……言ってた。

 うん、言ってた。

 なぜそんな的確なまでにこいつらはハシタダさんを知っているのだろうか。

 知り合いか? いや、知り合いなわけがない。


「まあ、ウォーターハラッパーとしては忘れちゃダメだろう」

「ウォー――……なに?」


 親友は「気にするな」と少し恥ずかしそうに言った。


「あれ?……神夜。タダシの町に着たとき、その、弓さんって人いなくなかった?」

「ああ。あの人とはクリムで別れて一人旅だ」

「そうなのね……お礼言いたかったなぁ」


 巫女は結局、俺から弓さんについて色々聞いているのに一度もあちらの世界で会うことがなかったので残念そうではある。


「まあ……その弓って人はよく分からないけど、ハシタダさんならなんとなくわかる」

「そこがこっちからしてみると分からないんだけど?」

「ああ、私もわかるわよ? 町長さんのことよね」

「え。なんで貴美子おばさんも」

「私の治める西の領域の町長さんだったから、かしら」


 ハシタダさん、何やってたんだあの人……という疑問しか浮かんでこない。


「あ、それ言うなら。お前等さ、イルとスイって知ってるか?」

「「双子ちゃん!」」


 親友が言った名前に、思わず二人揃って食いついてしまった。


「やっぱり。二人のこと言うなら双子だよな」

「いや、なんで知ってるんだよ二人の事」

「ん? ああ、あいつ等、俺等の仲間だから」

「「なかまぁ?」」


 親友達が色んな冒険をしてきたのはわかる。

 冒険ということであれば、間違いなく俺のほうが凄い断言できる。

 いや、負けるわけがない。


 だけども。


 弥生よ。


 俺と融合したのは俺も望むことなんだけど。

 もうちょっと俺に情報くれんかね?


 なんだか親友勢が色々俺勢の知らないことを知りすぎていることに、不公平さを感じる今日この頃だった。

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