05-22 戦闘狂達との競演 2


 モンバン戦隊マッチナッカマン。


 それは町の誰もが知る、正体不明の作者が作ったベストセラー作品だ。


 主人公のハシモトは、孤高の町の門番として、町をギアから守るため、迫り来るギアと戦いの日々を送っていた。


 そんなハシモトの元に集まる、ハシモトの仲間達。


 青の技術者・ウォーターハラッパー

 白の盾・シーラ・ハッギー

 黒の狩人・ナイトムーン

 赤の流浪人・ミツルギ


 彼等とともに、ハシモトはマッチナッカマンとして町をギアから守る。


 と、言うのが、モンバン戦隊マッチナッカマンの概要だ。



 共に戦ってくれていた息子のタッツヤーがギアの凶刃に倒れ、ハシモトはギアから世界を救うことを誓うという息子の死から第一話が始まり。

 第三話で、彼の槍術の弟子であるカッミヤーがナイトムーンとしてハシモトの窮地に駆けつけ、ともに戦う第三話で盛り上がりを見せ。


 カッミヤーとミコミコの、愛を語る話を間に挟みつつ、戦い続けるハシモトとナイトムーンの元に、人類を守る最後の砦、秘密要塞ザイバッツーがギアに襲撃されたと連絡が入り、要塞を守り続けていたタツボシことシーラ・ハッギーがハシモトを秘密要塞の司令官に任命し、マッチナッカマンを創設する第十話。


 ザイバッツーの元司令官で、今はギアの親玉の居場所を突き止めるために放浪の旅をしていたミツルギが、抜刀術『フライヘブン』で、数多のギアと戦い殲滅する十二話は、アクションシーンが秀逸で、大人からも人気がある。


 第一期を、ミツルギから語られるギアの親玉の正体で締め括るその中途半端さと楽しさが好評で、ギアとの本格的な戦いとなる二期が始まる。


 二期の第二話で、ギアを傍に置き、マッチナッカマン達ザイバッツーの全兵器を作る謎の技術者、ブルーが登場し、傍にいるギアことクサリーとの愛が語られ、クサリーがギアの手に落ちギアの大幹部として敵となる二期最後までは、クサリーの美貌と、クサリーを取り戻すためにウォーターハラッパーとなったブルーとの悲哀に誰もが涙。


 第三期では、ついに重い腰を上げて町へと乗り込んでくるギアの親玉、チューオーの卑劣な罠でピンチに陥るマッチナッカマン達が描かれる。

 クサリーを取り戻す為、単身敵の本拠地に乗り込み再会を果たす二人に、チューオーの新世代ギアの実験台として使われ窮地に陥るウォーターハラッパーを、身を呈して守り倒れるクサリーが反響を呼んだ。


 現在は、四期が絶賛公開中だ。


 ……らしいのだが。


「……なあ、どう考えても、関係者が作ってるよな?」

「ほっほっほ。間違いなく、です、な」


 ミツルギのモデルである火之村さんの設定が、見る度に危険だなって。


「あれ? 皆は作者が誰かって知らなかったの?」


 ハシモトこと橋本さん本人の登場に、周りの熱気は半端ないことになっている。

 そんな中、俺達は修練場のど真ん中で愛想を振りまき、ゆっくりとこちらに向かってくる橋本さんを待ちながらぼそぼそと会話をしていた。


「どう考えても俺らの関係者だってことは分かってるけど、流石に作者は誰かってのはしらねぇなぁ。夜月は知ってるのか?」

「この設定、最新の情報も入ってたりするから、あの場にいる誰かだよな」


 そう。現場にいなくても何があったのかが分かるから、子供だけでなく、大人や学生にも人気なのだ。


 このまま行くと、恐らく四期は新世代ギアとされているとの戦いだろう。

 そこで親玉チューオーこと、太名たなを撃退し、現れる真のボス、ノアってところか。


「しっかし、いいのかねぇ? 一応機密扱いなものもあるんじゃないか?」

「うーん。そこはぼやかしてるみたいだけどね」

「で、誰だよ。俺達を題材にしてこんな凄いの作ったのは」


 シーラ・ハッギーが持っていた武器――流星刀を両肩に担いでナイトムーンを急かす。


「ん? 複数だよ。でも、言っちゃダメって言われてるから」

「なんの話かな? 作者の話?」


 ハシモトがにこやかに合流して、俺達は仲良く円陣を組みながらぼそぼそと。


「七巳君と姫さんだよ。いやぁ、二人とも凄いよねー」


 あっさりとハシモトが暴露。


「ウォーターハラッパーはここに誓う! クサリーの為にも必ず奴等から平和を取り戻すことを!」


 ウォーターハラッパーの宣言が高らかに響き、辺りに「がんばれー!」と声援が。

 地味に嬉しくなってきた。


「いや、普通に暴露していいのかよ」


 宣言が終わり、俺は呆れながら橋本さんを見る。

 この人結構暴露するよな、と、橋本さんには重要なこと言ったら全部漏らされそうで怖くなってきた。


 しかし、まさか巫女と姫だとは。

 確かに話を思い返してみれば、カッミヤーとミコミコの愛を語らう所とか、クサリーとブルーの愛の話が妙に気合い入っていたことを考えると、二人ならやりそうだとも思える。


 ……ん? そうなると、三期第九話のカッミヤーとブルーの怪しい絡みも……あいつらの趣味か!



「僕は巫女の為ならどこへだって駆け付ける! 巫女! 僕の愛を受け取ってくれないかっ!」


 ナイトムーンの巫女にだけ向けた愛のメッセージに、「やよいー! 私は毎日受け取ってるーっ!」と、もう、誰がなのか暴露しまくる巫女に会場は大笑い。


 ここだけなんか違う雰囲気に、シーラ・ハッギーが「いや、アドリブ止めろよ……」とため息をつく。


「ナッツミー! 見てるかっ! 俺は君のために戦うっ! 俺が紡ぐ平和は君のために捧げよう!」


 と、便乗してお偉いさん達が座るVIPルームに流星刀を向けて叫ぶシーラ・ハッギーこと白萩。


 VIPルームで眼鏡ちゃんが真っ赤になって顔を隠している様が、修練場のメインモニターに映る演出付きだ。


「……おい。お前らなにやってんの……」

「いや、こう言うときくらいしか言えないからな。つい」

「水原様も言ってみてはいかがですか、な」


 ……何をっていうか、誰にだよっ!


 ちらっと解説席を見ると、碧とナオがわくわくしている姿が見えた。


 言わねぇぞ。言わねぇからな?





『誰に、誓うと言いましたか?』




 そんな熱狂のなか、辺りに響く女性の声。

 周りがその声に静かになる。


「むっ。この声は……」

「そこです、な!」


 ハシモトがその声に驚き茶番は終わり、ミツルギが指差す。

 指差した先――メインモニターに、麗しき美女の姿が映し出される。


『何を誓うのですか? ウォーターハラッパー……いいえ。我が宿敵、ブルー』


 メインモニターの前に人影が。

 その姿はメインモニターにも映る妖艶な微笑を浮かべる美女。


「それでは、私も。今日こそマッチナッカマンを倒すとここに誓いましょう」


 ふわりと羽毛が落ちるように修練場に降り立つその美女の出で立ちは。


 頭にはメイドの象徴ホワイトブリム。

 青を基調としたエプロンドレス。

 フリルの着いた穢れを知らない純白のエプロンスカート。


「クサリー……生きていたのか」


 マッチナッカマンの宿敵でもあり、ウォーターハラッパーの愛するギア。


ブルー御主人様。愛しておりますよ。殺したいほどに」


 クサリーの、辺りを魅了する作品そのものの口上に、観客席の男性陣から発狂にも思える大歓声があがった。


「さあ。興じましょう。ギアと人類の、生き残りをかけた戦いを」


 クサリーが言うと、修練場の入り口から一斉に黒い影が現れる。


「ワレラガヒガンノタメニ」


 マッチナッカマンを倒そうと現れた、ギア達だ。


 その姿に子供達から「怖いよー!」「うわーっ! 本物みたいだ!」「マッチナッカマン頑張れーっ!」とマッチナッカマンを応援する声が溢れ出す。


「くっ! 現れたなっ! ギア達め!」

「皆はこのマッチナッカマンが守りきる!」


 ナイトムーンとシーラ・ハッギーが武器を構えると、二人から白い光が立ち上る。


「さあ、みんなっ! 今日こそ平和を取り戻すんだっ!」


 ハシモトの声に、ウォーターハラッパーとミツルギも白い光を立ち上らせ、ハシモトが最後に誰よりも光を溢れさせる。


『みんなーっ! マッチナッカマンを応援してあげてー!』


 そんな巫女や碧の声に、観客席から声援が。ちなみに、ナオは職務放棄して子供達と一緒に応援中だ。


「「みんなの力を光に変えてっ!」」

「「マッチナッカマン! いざっ!」」


 そして、修練場で、マッチナッカマンとギアの戦いが始まった。



 ……俺達、本当になにやってんの? という疑問を浮かばせながら、俺はクサリーこと姫の前に立つ。


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