05-21 戦闘狂達との競演 1

「なっくん達。来週よろしくねー?」


 先程の話から打って変わって。まさに思い出したかのように母さんが急に何か言い出し、周りが一斉に頭に疑問符を浮かべる。


 母さんに何か約束ごとを言われてなかったか必死に考えるが、今にして思うと、こっちの世界に戻ってきた母さんと、まったくもって交流してないことに気づいた。


 つまり、約束をしているわけがない。

 しかも、なっくん『達』だ。

 俺だけじゃないなら、誰か知っていそうなのに誰も知らないのはおかしい。


「ほら、来週、予定してるでしょ?」

「「……え?」」


 俺達だけならまだしも。

 貴美子おばさんと眼鏡ちゃんも同時に同じ言葉を発した。


「祭りよー」

「「……祭り?」」


 ……あれ。

 なんか嫌な予感がする。


「……はっきり、言うわよ?」

「なあにー?」

「そんなこと、聞いてないわよぉぉーっ!」


 そんな貴美子おばさんと、無言で眼鏡をずらして驚く眼鏡ちゃんを見て俺は……


 ……大変そうだなって。

 他人事のように、思っていた。





 そして、あれから一週間経ち。


 俺は今日。

 修練場で、弥生やよい白萩しらはぎ火之村ひのむらさんや橋本親子といった男性陣と一緒に稽古をする予定だった。


 母さんの突発的な町全体を巻き込んだ祭りの催しは、復活した奈名財閥の名のもとに盛大に発表された後で。


 そんな話を聞いたら、「母さんのことなんて無視だ! とにかくバトルだっ!」とか言えるわけもなく、参加者全員が顔を見合わせて頷く結果に。


 亞名、華名財閥は、馬車馬の如く。一週間という短い期限付きで祭りの準備を整えることに奔走した。


 母さんがトップだと、このようにこれからも振り回されるんだろうなと。

 他人事のようにしていた俺にバチが当たったのか、


「水原様、早く成人して奈名家ななけを継いでください……」

みことに任せたら、私達死ぬかもしれないわ……頼んだわよ……」


 と、目の下に隈を作ってふらふらになった両財閥当主から切実な願いを伝えられたのだが、どうやって成人を早められるのだろうかと。



 そんな犠牲のもと、一週間後に始まった大規模な祭りは、護国学園の修練場から始まった。


 セレモニーは、先日の戦いで勇猛果敢に戦った守備隊のデモンストレーション。


 これからこの町を守り続けていく守備隊達が、町を守る戦いでより一層人気となった、『鞘走る火』こと、英雄火之村さんに鍛えられるという内容だ。


 南の戦いに参戦して、心を入れ換えた守護者候補生百六十名も、ここぞとばかりに汚名返上のために積極的に参加してくれ、盛大なデモンストレーションとなった。

 これから町を守る勇敢な隊員達や有望な守護者候補に、修練場は満員御礼だ。


 だが、それだけではなく。

 修練場の観客は、大人もいれば、子供も多くいる。

 これから町の活性を担う未来の子達に、守備隊の素晴らしさを見せ、興味をもってもらうというのも目的の一つだ。


 ギアと戦うというのは過酷である。

 以前は、太名たな財閥が人材育成を担い、護り続けてくれていたが、それは今は敵となり。

 ギアだけでなく、新人類とも戦うことになったこの町を守るために、守備隊の増強というのは、最優先事項だ。


 護国学園に通う普通科の生徒達も、盛大な立ち回りをしたデモンストレーションに熱気覚めず。これから養成学校への転入を考えてくれる生徒も出てくるのではないかと、祭りの主催者達は期待している。



 最後は火之村さんの華麗な演舞により、締めとなったデモンストレーション。



 盛大な拍手と歓声が辺りを支配し、更にセレモニーは続く。


 先程の守備隊のデモンストレーションは、主に、大人や高学年の学生に向けたデモだ。


 次は、未来の子供達の為に。




「今日は皆さんに、特別ゲストを用意しております、な」



 そんな火之村さんの、修練場に響く声に、子供達はわくわくが止まらないようだ。


 辺りに娯楽として、一般公開された修練場の内部には、数日前に運ばれたが、修練場を見下ろすように配置されている。


 その像の傍。

 急遽作られた解説席に、華やかな衣装に身を包んだ女性三人が姿を現した。


『みんなーっ! 今日は集まってくれてありがとーっ!』

『ありがとなの』

『今日は楽しんでいってくださいね』


 巫女と、ナオ。そして朱モードの碧だ。

 巫女は妙にたゆんが強調された衣装に身を包み、ナオはなぜか黒猫をイメージしている衣装で、喋る度にぴこぴこと、頭から生えた猫耳が動いている。

 碧はなぜか護国学園の制服姿なのだが、碧は一応主催の立場になるため学生服、なの、だが……


 「おおっ……華名様だ」「私、制服になりますっ!」「君が僕らの救世主だぁぁ!」と、コアな声援が碧が現れた途端飛び交いだし。

 隣にいる巫女やナオも実はかなり人気だったようで、「みっこみこーっ!」「クロネコさまぁぁーっ!」と、ファン(?)は、とどまることを知らない。


 そりゃそうだ。


 巫女は、今では『三原商店』で唯一人具を販売しているお店の人気の看板娘で。

 ナオは天使で天才で、世に名を知らしめるちみっ娘で。

 碧に至っては、深窓の令嬢、綺麗と可愛いの二面性を持ったはんなり財閥令嬢として。


 それぞれ、人気があるのだから。


 何だかアイドルみたいなことを言い登場した三人は、周りに笑顔と手を振り撒きながら、司会を進行していく。


 この三人が特別ゲストではない。子供達のゲストがこんな三人だったら、どれだけマセてるのかと。

 ゲストの登場は、これからだ。


 家族連れの多いこの修練場の、子供達が期待するもの。


 その内容は。


『実は、他にもあの町を救った英雄がいるのです』

『町を守った新しい英雄さん達を、皆さんに紹介しましょう! もちろん、皆知ってるよねー?』

『皆で呼ぶの。出てこいなの』


 三人のマイクパフォーマンスに盛り上がった修練場の観客席の子供達が、一斉に叫んだ。


「「モンバン戦隊、マッチナッカマァァァーン!」」


 巷を騒がす戦隊ヒーロー。

 子供達は、今日はこれがメインなのだ。




 子供達の叫びに答え、それは現れる。


「はーはっはっはっ! 呼ばれたなら姿を現そう! とぅっ!」


 それは、つい先日、観客席に配置されたあの像――凪様像の頭頂から。


 青のマントをはためかせ、白き光を全身に纏い、頭頂から飛び立ち修練場に降り立つ男。


 青のシルクハットをくいっと持ち上げ、両足を交差。左腕を自身を守るように右脇腹へ添える全身青の男。


「光と青に導かれ、仲間のギアとともにギアと戦う人具の申し子、ウォーターハラッパー!」

「光と白に導かれ、今日も拠点のザイバッツーを護り抜く!」


 青の名乗りの後に、すかさず南の観客席入り口から白のシルクハットを被った全身白タイツが現れ、青の男の横に降り立つ。


「俺の名前はシーラ・ハッギー!」


 青と同じポーズを取った白の男が、持っていた太刀を凪様像とは反対側の観客席に向ける。


 そこにはすでに、男が立っていた。


「光と黒に導かれ――」


 男の声が途切れ、辺りが急に暗くなった。


「ナイトムーンの心はいつでも君の物さ――巫女」


 反対側――解説席に光のスポットが。

 巫女をお姫様抱っこする、黒のシルクハットの全身黒タイツの男が名乗り、巫女を降ろすと、頬に口づけをして、青と白のもとへ。


「きゃーっ! やっよいーっ! 私の心もあなたのものーっ!」と本名を叫ぶ巫女と、隣で苦笑いする碧とナオが印象的だ。


「そして私めが、『鞘走る火』こと、ミツルギさん、ですかな?」


 すでに修練場の真ん中辺りにいた、火之村さんことミツルギが、いつも通りの調子で、青と白と黒に合流。


 巷で子供達の人気者となったマッチナッカマンが奇抜に現れて、辺りの子供達は大興奮。

 出方も出方だったからか、会場内の大人や学生達にもウケたらしい。


『そして、忘れてはいけません』

『我等の町を守る最後の砦っ! 町長であり門番のようなこの町の英雄っ!』

『高々に呼ぶの。彼らを率いるリーダーを』


「「はっしもっとさぁぁぁああーんっ!」」


 修練場が再度暗くなり、修練場の入り口に光が当たる。


「町を守る、門番みたいな――」


 かつ、かつ、かつ、と、静寂な場所に、一際場内に響く、靴の音。そして、誰かの声。


 その声とともに、バックコーラスのように流れ出す。

 いつかどこかで聞いたあの歌が。


「おっきなまちーをまーもるぞはーしもとさーん♪ きょーも毎日みまわりだー♪ えいへいみたいなそのやりはー♪ みはーらくんとのきずなのあかしー♪ きょぉーもみんなにえがおみせぇー♪ ゆいいーつむにーのこのえでまもるー♪ もぉんばんみたいにたたずむそのすがたぁー♪ みんなをまもーるはさいごのとりでー♪」


 歌が終わって最後に一言。


「そんなヒーローも、悪くないだろ?」


 きらりと、後光と笑顔とともに光る口許から漏れる口上。


 マッチナッカマンを率いるリーダー。

 ハシモトの登場だ。


 大人も子供も、一斉に立ち上がって興奮に大歓声が巻き起こる。


 そんななか。


「……なぁ。シーラ・ハッギー」

「なんだ。ウォーターハラッパー」

「お前、結構ノリノリだったな」

「……ほら、俺、元アイドルだから」

「二人とも、様になってたよ」

「「アドリブいれてめっちゃ目立ったナイトムーンには言われたくないわ」」


 青と白と黒は修練場の真ん中で、皆に手を振りながら、ぼそりと会話する。


 ……最初は、普通の祭りのセレモニーだったはずなのに。


 なのに。

 町に住む子供達の娯楽の為に、手伝いをすることになってしまったのは、なぜなんだろうか。


 母さんに巷で人気なヒーロー物のキャラが、俺達をモデルにしてるって知られたのが運のツキ、だったんだろうなと。


 ウォーターハラッパーとして修練場の真ん中で橋本さんを待ちながら。


 こんな経験ももう出来ないなら、恥ずかしいけどやっておくかと、諦めながら前向きに考えることにした。


 さ、これから始まるヒーローショーは無事終わるだろうか。

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