05-14 世界の真実 3


「水原君。あかね君が別世界の特異点なのは分かったけど、もう一人の特異点が気になるんだけど……」


 橋本さんが急に話に参加してきた。

 というか、空気のような二人が、いたことを忘れていた。

 だが、俺の落ち込んだ考えを払拭するにはいいタイミングだった。


「俺はそれよりも、橋本さんの疑惑が晴れたのかを知りたいけど?」

「疑惑も何も! 何もないからっ!」

「パパはずっと土下座して浮気してないって叫び続けて近所迷惑だったんですよ」

「達也だって、ずっと廊下で正座させられて足が痺れて唸ってたからねっ!?」


 ぅぉぉ。なんか仲いいなぁ、この二人は。

 俺と父さんとは大違いだ。

 いいなぁ、こう言う仲のいい家族ってのは。


「お兄ちゃん。あのね、ボクもあんな風に家族が仲いいのがいいなぁって……ね?」

「ああ。俺もそのうちなれたらいいな」

「お兄ちゃんならなれるよ? だって、ボクの大好きなお兄ちゃんだから」


 そんなことを言う碧の頭をなでなでと。

 気づけば反対側の手を持たれて自然と頭にぽすんと乗せるナオが。

 「早くなでるの」とそわそわしているナオはすでに朝食を食べ終わり。姫がその片付けをしている。

 そんな姫が、乗り遅れたと凄い表情でこちらを見ているが、俺の手は二本しかないので勘弁してほしい。


「こうやっていたら、特異点とかじゃなく、普通な子なんだけどな」


 俺からしてみたらナオが天使な天才なことには変わらない。いや、誰が見てもそうだろう。間違いない。


 頭を撫でると、ナオは「にゃあ」と鳴き出したが、しばらくして固まった。


「……あの? 水原様。えっと……今、さらっと……?」

「さらっと言ったけど?」

「あなた達兄妹が、全員?」

「ああ。……言われてみればそうですね」


 眼鏡ちゃんがずれた眼鏡をくいっと、聞き間違いじゃないかと。

 貴美子おばさんも驚いて再確認してきた。


 改めて言われてみれば。今更だが、二人とも妹だ。

 妹……そうなんだよ。血は全く繋がらなくなってるけど、妹なんだよこの二人……。


 特異点だってところよりも、意外と別のところで自分にダメージが入った。


「お前の家、やばいな」

「おにーさんくらいにはもう驚くことないかなって思ってましたけど……」


 白萩が何回目かと思える呆れ顔をみせた。

 達也は俺をなんだと思ってるのか発言をしたが、まあ許そう。


「……おかしくないかな? ナオちゃんは水原君のいた世界で生まれているよね? 確か、世界に一人、だよね? 特異点は」


 橋本さんが珍しく的を得たことを言った。


「そうなんですよ。だから、分からないんです。ナオが何で特異点なのか、が」


 母さんの口振りから、なぜなのかは、双子が知っているはず。


 俺は双子を見た。

 双子もそろそろ話すべきなのかと思ったのか真剣な表情で俺達を見る。


 ただ……

 スイはまだ髪の毛はぼさぼさで寝間着姿で。可愛らしい犬が真剣さを駄目にしている。

 誰だ、着替えさせなかったのは。

 一人だけ寝起きみたいじゃないか。いや、寝起きなのは間違いではないけど。


「スイ、言っていい?」

「いいよ、イル」


 そんな会話をすると、イルはすぅっと息を吸った。


「初めて会った時、死んでいたの。で、なんとかしたよ」


 何を急に言い出したのかと。

 全員が「?」と頭を傾げた。眼鏡ちゃんなんぞ、眼鏡をずり下ろしてしまって、くいっとするのに必死だ。

 その、くいっ、を忘れない姿。眼鏡っ娘として素晴らしい心構えだ。


「……よし、スイ。話せ」

「私が話すっ!」

「イル……流石にそれはないよ……」


 スイも自身の片割れのあまりの説明力のなさに呆れたようだ。


「改めて。これは、ハシタダおじさんから聞いた話でもあるので、ぼくたちは詳しく知っているわけではないことを承知おきください」


 よし。人選は間違っていなかった。


「僕達がいた世界。ここからすると異世界ですね。その世界――ノヴェルには、お兄さんのお友達、シンヤお兄さんとミコおねぇしゃんにゃぁ――」


 イルがむすっとしてスイの頬をつねったことで話が止まる。

 だが、スイは気にせず話し続ける。


「ぎゃ、いまにしゃ。にょしょらきゅ、みゃにょいびとと言っていたのにぇ、ふにゃりもいしぇきゃいにゅんにゃと――」


 よし。脳内変換必須だ。

 このまま行くのであれば間違いなく話が分からないと思っていたら、流石にスイも話しづらかったのか、イルを睨みながら暴れた。


 イルは満足したのか大笑いだ。

 ソファーバンバン叩いて転げている。


「シンヤお兄さんとミコお姉さんは、迷い人って言っていたので、異世界人だったと思います」


 スイが恥ずかしそうに咳払いしてから改めて言い出した。


「ノヴェルって言葉は初めて聞くわね。まさに異世界ってところかしら」

「そうです。東西南北に大きな大陸があって、真ん中に魔物の本拠地の魔大陸があります」

「……全然この世界と違うな。魔物とか。もしかして魔法とかもあるのか?」


 白萩が「漫画でありそうなファンタジー世界だな」と唸りながら、誰もが羨む使いたい力ナンバーワンであろう単語を口走った。


「ありますよ。術式をつかえば更に」


 スイが人差し指をたてると、その指先から炎がぽつっと灯った。


「こんなの簡単」


 イルが指先に灯した水でしゅぱっとスイの指先に灯った炎を消し去る。


 ……魔法だ。

 ファンタジーの賜物。魔法を、俺達は見た。



 弥生と俺、白萩が「おおっ!」と同時に叫んで立ち上がるが、俺達よりも少し遅れて「素晴らしいっ!」と火之村さんが叫んで皆が驚く。


 魔法はビームサーベルやロボ並に男のロマンだ。

 火之村さんという存在も、名前含めてある意味ロマンの塊だが。

 魔法を見た俺達の興奮は収まらないが、冷めた目で女性陣に見られていることに気づいてゆっくりと座った。


「そのシンヤお兄さんとミコお姉さんの間には赤ちゃんがいたそうです。僕達が出会ったときにはすでに……その……」

「ああ。そこは大丈夫、じゃないけど知っている。気にするなとも言えないが、その赤子は碧だから……」


 椅子に座り直しながら隣の碧の手をそっと握った。

 碧は悲しそうな顔をして、スイの話を聞いている。


「私達が会ったとき、赤ちゃんがいなくなって凄く辛そうな顔してたよ。だけどね、ハシタダおじさんに助けるか聞いたら、おじさんは赤ちゃんを助ける為に動いたの」

「助ける?」

「サナ公爵って人が、赤ちゃんの体を使って、ミドリを生き返らせるんだーって」


 サナ公爵……。

 あっちの世界での砂名か。

 あいつは本当に。どこまで行っても付きまとうな。


「ハシタダおじさんは、せめて赤ちゃんだけでも助けてあげたいって。ハシタダおじさんと一緒に僕達も助けにいきました」

「その結果が、イルの言った、すでに死んでいたって話に繋がるわけだな?」


 スイがこくんと頷く。


 碧がこの世界にいるのだから、それは理解できた。碧から殺されたとも聞いているから、器があっても中身はすでにいないと言うことは、死んでいるとも同義だ。


「でも。その赤ちゃんの傍には困ったように、不思議そうに自分の器を見つめている精神体が傍にいたんです」

「……ん?」


 碧は西洋風の部屋で神夜と巫女が去った後にすぐに母さんの力を使って朱に生まれ変わったはずだ。


「ボク、記憶にないよ?」

「僕達も、サナ公爵が赤ちゃんをミドリって呼んでいたので、その精神体はミドリという人だと思っていました。……でも、サナ公爵が使った魔法の暴走を止めて、赤ちゃんを観測所に返して生まれ変わらせるために魔法の術式を書き換えているとき、その精神体は自分は名前がまだないって言いました」


 魔法や人を生き返らせる術式等、なんともファンタジーだと思いながら話を聞いていたが、ナギも人を生き返らせていることを思い出す。こっちも負けじとファンタジーだとも思いながら、話の腰を折らないように話を聞き続ける。


「観測所で、無事赤ちゃんを生まれ変わらせるための輪廻の輪にのせたところでお別れしました。……その赤ちゃんが、ノヴェルの特異点です」

「その赤子がなん――え? 生まれ変わった? どこに? え、まさか」


 橋本さんが驚きを隠せないでわたわたした。

 うざい。さすがだ。


「つまり、です。そこにいるナオさんが、生まれ変わりです」


 ナオがすっと立ち上がった。

 弥生と巫女をじっと見ると、ゆっくりと二人を順に指差した。


「巫女お母たん? 弥生お父たん?」

「生んだ記憶ないよっ!」

「ナオちゃんなら喜んで、だよ」


 更に続けて、貴美子おばさんを指差した後に、母さんも指差した。


「二人もお母たん?」

「「あなたのお母さんよ」」


 二人が嬉しそうに返すが、貴美子おばさんは被った返事に母さんを睨む。


 指差し確認は止まらず、橋本さん、双子と指差す。


「双子は恩人? 町おじさんはうざい?」

「うざい関係ないよねっ!?」


 橋本さんの嘆きは無視して、俺と碧を。


「お兄たんで旦那さん? お姉たんでお嫁さん?」

「うん。ずっとナオのお姉ちゃんだよ? ナオのお嫁さんじゃないよ?」


 碧が生まれ変わるはずだった体が、本来はナオの体だったなんて、この二人はどれだけ関係しているのかと。

 流石に二人の関係が深すぎてまともに声がでない。

 碧もよく分からないことを言い出す始末だ。


 最後に白萩と眼鏡ちゃんを見る。


「……何もない?」

「ここにいる奴等がここまで関係してたらありそうだけど! あってたまるかっ!」

「流星さん……」

「刀おじさんは?」

「ほっほっほっ。……ない、です……ないです、な?」


 火之村さんが若干狼狽えながら俺を見るが、火之村さんってそんな呼ばれ方してたのかと俺は驚いていた。


「姫とナギたんはギアだから何もない」

「残念ながら確定ですね。ナオ様」

「でもいつもありがとうなの」

「こちらこそ。ありがとうございます」

「僕は凪と一心同体だから凪と同じ考えでいいよ」


 指差し確認は終わり、すとんと椅子に座るナオが頭を抱え出す。


「僕は!?」


 今度は達也が立ち上がるが、ナオは伝えられた自分の境遇に混乱しているのか無視だ。


 ナオが、三つの世界に関係していたなんて流石に思わなかったが、だからこその未来を見る力なのかと妙に納得してしまった自分もいる。

 何度も観測所を行き来してたら、そりゃ何か力持ってそうだわ。

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