05-15 世界の真実 4

「私が観測所で絶機と戦っているときにあの場所にいたのは、そう言う経緯があったのねー」

「驚きました。観測所に人がいるって思わなかったです」

「双子ちゃんのおかげで助かったわー」


 母さんが観測所で戦っていた同時期に、双子も観測所でナオを生まれ変わらせていたと言った。


 なるほど。だから母さんと双子は知り合いなのか。


 双子が母さんも助けてくれていたことに、この二人には本当に感謝しなければいけないと思った。


「達也、頑張ろう……」

「パパも、気を落とさないで」




 さて。橋本親子の嘆きは無視して。

 特異点が誰かわかって、すっきりしたところで、本題だ。







 昼食の時間になってもまだまだ話は続く。

 まだ話していないこともそれぞれあるだろうことを考えると、ここ最近起きたことは、あまりにも濃厚な数日間だったとも思う。


 俺が世界という枠から外れてしまった刻の護り手だということや、特異点だったこともあり、今生きるこの世界の、本来辿るはずだった未来を変えることも出来る存在になったことを話したのも、これからの話には必要だった。


 ただ、この世界がこうなったのは、俺が進むはずだった道を変えたことが原因でもあるが、変えた後にまた元の道へと戻ることもある。

 その道に進もうとする人達がいたからこそ、死にたくないと抗ったからこそ、人類が生き延びる今の結果になったのだ。


 そして、この発端は、隣り合った別世界の、俺と同じく世界の流れを変えることの出来る特異点であった碧とナオがこの世界にいることが関係していた。


 他の凪とは違った未来へと流れが変わっていたことも、碧が本来産まれるはずのなかった朱に生まれ変わったことや、ナオが別世界ノヴェルから別世界ギアのいない世界へと生まれ変わり、碧の体をもらってこの世界へと俺と一緒に来たことも、他の凪の世界とは違った未来となった原因でもある。


 その話のなかで、ナオがノヴェルという、双子や、なぜか神夜や巫女のいるファンタジーな世界で生まれ変わるはずだった碧の体の本当の持ち主だったことなど、色んなことが暴露されていった。


 そして。

 これから、俺は更に暴露することになるが、この結果について、皆がどう思うのかは分からない。

 ここまで色々話して、ここまで仲良くしてくれている皆には伝えるべきだと、今は思っていた。


 何が起きているのか、これからどうなるのか。



 さあ、少しずつ、話してい――



「ん? なんか時間軸おかしくないか?」

「流星さんもそう思いましたか?……ナオ様は、水原様のお母様が観測所で絶機と戦われている時に、同じくして観測所から輪廻の輪に……」


 ――そんな決意と共に話そうとした矢先に、白萩と眼鏡ちゃんが仲良く疑問が浮かんで考え出す。


「時間軸が違いすぎるって話か……」

「それ言ったらボクもだよね?」


 碧も生まれ変わり、朱となっている。時間軸としては、俺が森林公園でナギと出会い、修練場でナギが戻ってきた辺りに神夜と巫女の子供として生まれ変わっているはずだが、産まれず、観測所を通って朱に生まれ変わり、俺達の前に朱として存在していた。

 誰よりも時間を無視しているのは碧だ。


「観測所は過去、現在、未来なんて関係ないから。時間なんてあってないようなものよー」


 母さんが「なっくんも時間軸無視して裸の碧ちゃんと抱き合ってちゅーしてたからねー」と、余計なことも暴露した。


 俺も一度時間軸を無視していたことを思い出すが、暴露するところが違うと思った。


「どこでどう生まれるのかは分からないって話なのかしら?」

「そうよー。過去に生まれるってのは稀だけど。ナオちゃんもあっちの世界で生まれたことでいい方向にむかったみたいね。で、碧ちゃんはこっちに生まれ変わって。だけど、二人が生まれることになった原因はわか――」


 そこで、母さんが急に言葉を止め、「あっ」と口を押さえた。


「……私、碧ちゃんにもナオちゃんにも、力貸してるわ」


 ……あ。

 ナオは飛行機事故で死ぬはずが、俺とこの世界へ来た。それは、母さんが碧の体を渡したからで。

 碧がノヴェルで生まれ変わる原因はナギだが、そこから朱に生まれ変わる時に、母さんの力を使っている。


「俺達なんかより、母さんがやらかしてないか?」

「てへぺろー」


 母さんの誤魔化しに、誰もが溜め息をついた。


 だからか。

 だが、そんな母さんが観測所にいたから、そんな気まぐれがあったから、皆がまた会えた。


 そんな奇跡、そんな偶然に、感謝しなければ。


「……あー。頭が混乱してきた……」


 白萩が目頭を押さえながら呟く。

 白萩じゃなくても皆が混乱の極みだろう。


「……ここから更に、混乱させていいか?」


 俺の質問に、状況整理しようと騒がしくなっていた皆がぴたりと会話を止めた。


「……まだ、あるのかしら」

「凪君……頭がパンクするよ」

「おにーさんは、何でそんなに冷静なんですか」


 貴美子おばさんや弥生、達也が疲れを見せて俺を責めだした。

 いや、俺は知ってるし。と鼻高々に言ってやりたかった。もう、以前の何も知らない俺ではないのだ。


「この世界を、俺が変えたって言った話がまだだろ?」

「変えたから人類が生き残ったって話で終わりじゃないの?」


 ぐでっと机に突っ伏していた巫女が聞いてくる。

 誰もが変えたで、終わりだと思っているが。そこに至った様々なことが問題なんだ。


「ここまで話して、どうしてこんなにも色んなことが起きたのか、おかしいと思わないか?」


 俺がこの世界に戻ってくるまで、この世界はギアに怯えて暮らす世界だった。


 それが今は。


 俺が人具を作ったことで、ギアとまた戦える力を得た。


 砂名財閥さなざいばつが新人類を作り出し、人類を滅ぼそうとした。


 ギアの母であるノアが現れて、町を滅ぼそうとし、俺を殺そうとした。



「確かに。ナギの他の凪くんの話を聞くと、ここまでおかしくはなってないわね」


 考えてみたら簡単なカラクリだ。

 その簡単なカラクリが、抗えない巨大なものだから、厄介だ。


「簡単に言うと、ね。特異点にはそれぞれ相反するあるのよ」


 母さんが貴美子おばさんの疑問に返した。


「私が刻の護り手になったときには、この世界にはギアが溢れだした」

「「……は?」」

「私という存在の対抗勢力ね」


 いや、その言い方だと、母さんがいたからギアが生まれたって聞こえるから……。

 そんな話じゃないし。

 でも、そう思っているんだろう、と、母さんの少し辛そうな表情を見て思った。


「そのギアへの対抗勢力に、基大もとひろさんが現れた。……でもね、これは少しずつ結果なのよ」


 ――そう。

 俺達、特異点には大なり小なり敵がいる。

 そして、その為にずれていく。

 それがいい方向であればいいのだが、それはいい方向には導いてくれなかった。


「碧の場合は……多分、砂名だ。その砂名に敵対するのが、俺だ」

「? 意味分かんないよ?」


 碧が本来、あの世界で何を成すべき存在だったのかは分からない。

 だが、碧というあちらの世界の特異点は、俺とナオという特異点が傍にいることで役割が狂ったのは確かだろう。


「ナオがこの世界に現れたことで、ギアがまた人類に有益になる道が現れたから、人類が滅ぶ未来が加速された」

「ナオ……ここに来ちゃダメだった……?」


 びくっと震え、周りを恐る恐る見ながら声を発したナオを、誰もが首を振って否定する。


 誰も、お前のことを責めるわけがない。

 むしろ、その結果、生き延びているし、それ以上に、ナオはこの世界を救える方法を生み出せる知恵がある。


「で……刻の護り手が現れたことで対抗勢力が作られた。その俺の敵が……ノア、なんだろう、な……」


 この考えに至ったのは、刻の護り手とし覚醒し、多重世界を知った後。

 他の世界から来た凪が、『消えた』という話を思い出して繋がった。


 それに。ノアの出現も、あまりにもおかしい。

 ノアは自分が産み出した子供達と言っていたが、それも、人類からしてみたらおかしい話なんだ。


 記憶はそのままに、少しずつ、ずらし作り出す。

 その結果の齟齬が、


 『人類がギアを作った』

 『ノアが人類に作らせるよう動いた』


 なのだろう。


「なるほどね。『抑止力』、『強制力』……だね」


 ナギが理解した。

 ナギも、その結果生まれた存在だろう。


 そう思うと、どこかでループしそうな話だが、恐らくは俺がキーであり、父さんと母さんがきっかけなんだとも思う。

 もしくは、もっと先――誰よりも先にここに影響したのは、朱という存在ではあるが、それよりも前に、『ずれる』原因はあった。

 それが母さんの若い頃の話だろうが、そこで終わればここまで『ずれる』ことはなかったのだと思う。


 だが確実に。この世界は、俺達家族の行動の結果、ずれた。

 その正体が、この世界に現れた別世界の凪の末路が表している。


 あいつは、消えた。

 俺という存在と違った存在だったはずで、この世界にいても問題なかったはずだ。

 なのにあいつは、俺達の未来を変えるために動いて、消えた。


「……ずらされたって……何を?」


 貴美子おばさんがだけじゃなく、みんながうっすらと気づき始めた。




 ずらされたものがなにか。

 ずれてはいけないものが、ずれていたことを、気づき出した。








「「世界」」


 俺と母さんは、同時に答えた。

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