05-11 スイの大冒険?
「さてさて。もう今日は遅いから明日にしましょ」
「いや……いやいやいや!」
……お開きになんてできるかっ!?
これ、俺が恥ずかしい想いしただけじゃねぇかっ!?
「中途半端に……」
「……だな」
弥生と白萩が呆れながら俺と同じことを思ってくれたようだ。
「とはいえ、気になるところはありますが、夜も深くなりました、な」
「そうよー。いい加減双子ちゃん寝かさないと、ねー」
火之村さんに賛同するように、母さんが母さんらしいことを言った。
まさか、と、皆が一斉に驚き、母さんが「なによー」と膨れた。
「……まあ、確かに。……命が母性出したのはどうでもいいけど、橋本さんもいないから、話を進めるのも悪いわね」
橋本さんは、奥さんに渡された家庭不和のメッセージに今頃必死だろう。
恐らくは……
送った達也も怒られているのは間違いない。
あいつは、あの奥さんを、怒らせたのだ。
「橋本さん?……あーっ! ご近所さんのっ。旦那さんはどうでもいいけど、奥さんには会いたいわぁー」
橋本さん……あんたってつくづく……
母さんのなぜか納得してしまう呑気な一言に、周りも一気に諦めた。
・・
・・・
・・・・
相変わらず、男性陣は俺の家で。
女性陣は隣の貴美子おばさんの家での宿泊に。
自分の家なのに、なぜか当たり前のように隣の家に泊まりに行く母さんがよくわからない。なぜか男のスイもあっちに連れていかれたのだが、大丈夫なのだろうか。
とはいったものの。
橋本親子がいないため、本当にお客さんは白萩くらいだ。
弥生は通用口で家が繋がっているし、火之村さんも三原商店か貴美子おばさんの家に寝泊まりしている。華名家の拠点がこの町に移っているなら、今はこの家が本拠にもなっているだろうから、火之村さんの家もここみたいなもんだ。
「お前の母さん、凄いな」
シャワーを浴びてすっきりした白萩が、相変わらず当たり前のように冷蔵庫から飲み物を取り出して飲みながらダイニングテーブルに座った。
隣に座る弥生も苦笑いを浮かべている。
「俺も、さすがにあんな感じだってのは知らなかったけどな」
「あー、凪君って、お母さんの記憶ないんだっけ?」
「ないというか……物心ついた時には死んだって聞かされてたし」
とはいえ、今は原初の記憶が俺の中にあるので、ある程度は把握はしていた。
小さい頃の記憶を辿ると、ただ小さい自分のことが大好きだったんだろうなという印象しかなかったのだが、それをそのままこの年になっても行われるのは少し気恥ずかしい。
「……まあ、あれはあれで。お前の母さんだなって、なんか納得してしまうけどな」
そんな白萩に、「どこが」とツッコミたかったがやぶ蛇のように思える。
「明日話すってことになったけど。凪君はなにか知ってるのかな?」
火之村さんも浴室から戻ってきて、男四人で他愛ない――
それに対する回答は、『知っている』になるのだが……正直、話していいのか、俺のなかでは踏ん切りはついていない。
なぜなら――
「多分、嫌なこと聞くぞ」
刻の護り手になったタイミングで流れてきた情報は、あまりにもこの世界にとって残酷だ。
特に、こんな世界になった原因が、俺と母さんにある。
そして、更に残りの特異点二人もこの世界に現れたことで、この世界の終わりは加速していた。
皆は、この町を守れたと思っている。
守れたことは確かだ。
だが、世界は――
それを知ったら、皆はどう思うのだろうか。
「……まあ、明日を待ちましょう。場合によっては、重そうな話ですから、その話を公開することもありえるでしょう、な」
「公開は、しないとは思いますよ」
出来るわけがない。
この話を知って、皆は俺達の傍にいてくれるのだろうか。
そんな想いを胸に、俺達は話もそこそこに、就寝した。
・・
・・・
・・・・
所変わって、華名家。
僕がヒメさんという、お兄さんのメイドさんにイルを運んでもらって、寝室と聞かされた、どこの貴族かと思うほどに大きな座敷に連れてこられてからしばらく。
楽しそうに、ふかふかの高級そうな毛布や布団を皆さんがそそくさと準備している光景を唖然と見ていた。
やることがないのもそうなんだけど。
何で僕はここに連れてこられたのかな?と疑問もある。
一応、僕も男なんだけど……
こんなにも高そうな部屋で寝泊まりするのも初めてだ。
ハシタダさんの家に転がり込むまで野宿だったし、ハシタダさんの家もここまで綺麗な場所ではなかった。
こちらの世界は、あちらの世界とはまるっきり違っていて。
こんな豪華な家が色んな所に普通にあることにワクワクした。
それとも、この家の主は、この世界で有数の貴族なんだろうか。
この町だけ違う?もしかして貴族街?と思えてしまうほどに発展しているけど、多分、これが普通で、あちらがまだこの世界に追い付いていないだけなんだろう。
追い付くにしても、長い年月がかかりそうだ。
綺麗な女の人達が周りにいっぱいいて、なんてことも初めてで。
だからこそ、場違いすぎてどうしたらいいかわからない。
ミドリさんが、敷いた布団にイルを寝かせ、上に毛布をかけてくれている。
その毛布も、凄く薄い絹糸のような綺麗な毛布で、普段僕達が寝るときにくるまっていた外套なんかよりよっぽど高価なものだとすぐに分かる。汚しちゃったらお金ももってないから返すこともできない。
怖くて触るのも憚れた。
皆さんがわいわいと寝る前の支度をしていると、
「そうよ、貴美子! あなた、
と、ミコトおばさんが急に怒り出した。
「私じゃないわよ」と冷静に呆れながら返すこの家の主、キミコさん。
「こんなにも可愛いナオちゃん生んでくれてありがとう!」
「……怒ってるのか嬉しいのかはっきりしなさい」
「怒る? なんで? 怒るのは基大さんだけで十分でしょ?」
ミコトおばさんがナオさんを捕まえ抱き締めながら頭を撫でだすと、キミコさんがナオさんを奪い返そうとして喧嘩し始めた。
真ん中のナオさんが、とにかく面倒で嫌そうな顔をしているのが印象的だ。
「えっと、スイ君だっけ? 行くよー?」
ミコさんが僕に声をかけてくる。
隣にはミドリさんとヒメさん、ナツミさんがいて、着替えのようなものをもっているけど、僕をどこにつれていこうとしているのだろうか。
「あの、どこへ?」
「ん? お風呂」
「イルちゃん起きそうもないから明日の朝にまた入らないと」
……はい? お風呂?
お風呂って、お金貯めて一ヶ月に一回くらい入れたらいいほうじゃないですか?
普通は、水浴びくらいで済ませるはずじゃ……この世界では毎日が当たり前? 金持ちだから? え。どういう状況?
「御主人様の為に毎日綺麗にしておかないとですね」
「流星さん達はもう寝られてますでしょうか」
「なんだかんだでまだ話とかしてそうだね」
金持ちの家にしかないお風呂を、当たり前のように入るというミコさん達に連れていかれ、ミコトおばさん達も参加して、七人で入ってもまだまだ広いお風呂に唖然とし。
皆さんを見ているわけにもいかず、離れてお風呂に入っていても、話している内容にドキドキして。
なぜ、僕はここにいるのだろうかと改めて考えていたら、風呂から惰性的に出されて高級そうな絹糸の寝間着まで用意されて着替えさせられ。
さっきまで楽しそうにお兄さん達について話していた皆が、気づけば当たり前のように布団のなかで就寝。
イルの隣で寝ようとしたら、ミコトおばさんやキミコさんに抱き締められて寝かされ……。
いい香りのする部屋でみんなに囲まれて眠らされ僕は思う。
うう。
眠れない……。
助けて、お兄さん……。
助けは来ず。
凄いいい香りにドキドキしながら、眠れないまま朝を迎えてしまった。
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