05-05 それは唐突に
少しの休憩を挟み、皆がまた元の場所へと座る。
皆が俺の家のキッチンに勝手に入っていったり、ソファーでくつろいでいるのを見ると、本当にここは俺の家なのだろうかと思ってしまう。
「凪君。美味しそうな飲み物作って」
「ぐいっと一発でも飲んどけ」
「栄養ドリンクでしょ。疲れてないからいらないわよ。むしろ飲ませてどうする気?」
どうもしねぇよっ!
結局、姫が事前に焙煎していたコーヒーに氷を入れてそれぞれに配り、やっと話をする体勢が整った。
まずは森林公園での出来事について話し出す。
あの森林公園そのものが絶機であるナギの体が隠されていた場所で、そこを護っていたのがポンコツ達だったことや、この世界に来て警鐘を鳴らしてくれた他凪の新人類についての情報――ギアのコアパーツを手に入れることで新人類が飛躍的に増えるということ――は、実は何ヶ月も前に
「すでに、新人類は準備が済んでいたってことね。後手に回りすぎたわね」
「
むしろ、拡神柱が辺りに配置されていたら攻めてこなかったんではないかとも思う。
南の柱を壊したのも、攻める前の前準備だったのは間違いない。
「一年前くらいの隣町の襲撃も砂名家だ。森林公園を襲った時に減った仲間を増やすためにギアのせいにして人を拉致したんだと思う。ポンコツ達はあそこから動いてないらしいから」
「まさか、掃討部隊が到着が遅かったのも……」
「あの部隊、砂名家だったんだろ? だったらあえてだろうな」
橋本さんがぎゅっと拳を握り、怒りを露にした。
「では、あそこにあった死体は……」
「弔ってくれていたらしいですよ」
本当は、あいつ等が血を飲む為に分離させていたという事実もあるのだが、そこはこれからの関係のためにも伏せた。
今はナオに弄られてそんなこともしないはずだから。
「で、そこで俺は、ナギの本体である、
「おお。さぞかし激しい戦いだったのでしょう、な」
人に絶望を与える機械兵器。実際に戦闘となっていたらかなり苦戦はしただろうし、激しかったのだろう。
「これで、絶機は残り二機、なのね」
「一機はここにはいないって話だから、後は一機か……凄いな。これからに希望もてるな」
「凪君、やっぱり強かったのかな?」
戦闘狂な男性陣が戦いの様子を聞きたそうに俺を見る。ナギがころころと転がりながら一言。
「さくっと、一発だったね」
その体の持ち主がそう言うのもおかしな話だが、確かにさくっとだな。
唖然とする男性陣の顔が皆同じ表情で面白い。
「まあ……そんなこともあって、茶髪になった」
「水原君!? 話の前後が凄いんだけど!?」
「刻族の力を取り戻したってこと。……後は、ナギに仕えていたポンコツを筆頭としたギア達が、ナオに弄られて仲間になった」
「弄った!? 何したのナオちゃん!?」
「姫みたいに弄っただけなの」
橋本親子からのツッコミはうるさいが、ナオと達也がするっと会話した。
良かった。ぎすぎすしなくて。と思いながら話を続ける。
「貴美子おばさんの電話でこの町が襲われていることを知って――」
「そこで、碧が凪様像を作ったわけだよ」
「な、なぎさま……ぞう?」
碧が「うっ」と恥ずかしそうに呻く。
「ああ……あの東のとこにある凪くんの像ね。……あれ、邪魔よ?」
「ポンコツなら壊せるんじゃないかな?」
……あいつなら間違いなく、股間から壊すんだろうな……。
「あー。でも、あれ壊せなくないか? ギア達が崇めてるし」
ギア達は今は東にいるのか。あそこだけ拡神柱直ってないから、警備してくれているなら助かるが……崇めるってなんだ。
「後はまあ、あれを南の新人類にぶつけて。んで、東に行ったわけだが――」
「かなりはしょってないかそれ。なんだっけ? 凪様ストライク?」
「そうだね……なんか
「け、消したっ!?」
「半壊した南の町を腕を振っただけで直しました、な」
「は、半壊っ!? 南のほうは何も壊れてないって聞いたわよっ!?」
火之村さんが言うように、直したからな。
「小規模の
「自爆?……あー、おにーさん、左腕とかギアだから……」
「小規模に使うのならいいんだけどな。自分も含めるとすげぇ痛い」
もう、あれを使いたくはないんだけど、また使うことになるんだろうな。
例えば、住民全員が
「で、本題の、姫について、だ」
そう俺が言うと、ざわざわと、南の戦いについて火之村さんと弥生に話を聞いていた皆が静かになった。
「ギアには、ギア間にネットワークがあるのは知ってるよな?」
「ええ。それを使って、姫はギアを寄せ付けなくしてるわね。助かるわ」
「……あれを利用されて姫は乗っ取られた。あの時に姫だけがナオのプロテクトがされてなかったから。入り込む隙ができていた」
姫は常にこの町を守ってくれていた。
森林公園に行くときに聞いた話を、もう少し考えておけばこんなことは起きなかったかもしれない。
……いや、あんなのが来るなんて誰もわからないし、終末世代の、絶機にもっとも近い最新型なのだから、内部のセキュリティもどのギアよりも高性能なはずだった。抜けられるなんて、姫自身も思ってもいなかったのだろう。
だけど、それさえも簡単に抜け、あいつは俺達の前に現れた。
「……なにに? 何が、姫を……?」
「ノア、だ」
そういきなり言われても分かる話じゃないかもしれない。
皆はその名を知らないようで、俺が伝えた名に困惑していた。
「ギアを作り出した、全てのギアの母だ」
「……待ちなさい。ギアを作った? ギアは人が作ったのよ?」
ナギが正体を伝えても、すぐに理解は出来ないだろう。
なぜなら、俺達人類は、ギアを人が作り出した最高傑作と思っていたはずだから。
「違うよ。ノアが人に作らせたんだ」
ナギが俺の代わりに貴美子おばさんの言葉に返した。
そう言えばこいつ……
「ナギ。お前はノアのことも……ギアを人が作り出したわけじゃないことも、知ってたんだよな」
「知ってた。でも、実際にここまでの現状を作り出したのは人だ。だから、ギアを人が作ったってのも合ってるよね?」
知っていたのなら、もっとやりようもあったんじゃないかと思うが……今更だ。
ナギだって、あの瞬間にノアが絡んでくるとは思ってもみなかったはずで……。
人が、知らなくてもよかった話なんだから……。
「……どういうこと……?」
「ノアはね。前に話したかもしれないけど、僕ら絶機を作った量子コンピューターだ。その誰よりも深い深謀で、かなり前から人はこの世界にはいらないと判断して、人で遊び始めた。……人に人を滅ぼすためのギアを作らせ、人が自らの業によって滅ぶように動いたのさ」
ノアはあの時に言った。
遊びに飽きたから動いた、と。
「私達は、遊ばれていた……ギアに……その母に……? じゃあ、私達が生きているのは……生かされている……?」
「……そ、それが、姫が乗っ取ったやつ……か? あいつは、絶機を作っただけじゃなかったってことか」
貴美子おばさんが言葉を失い、眼鏡ちゃんがずり落ちた眼鏡を直すこともなく、白萩の腕にしがみつき。
その場にいる全員が言葉を失い。白萩の絞り出すような、信じられないといった声に、俺は頷いた。
「あいつが、ギア間ネットワークに入り込み、姫を乗っ取り遊び半分に……俺を、殺しに来た」
「あ、あなたを……?」
「ああ、俺が――」
『『お兄さんが刻の護り手だからだよ』』
「っ! 誰だっ!?」
俺が自分のことを説明しようとした時に、唐突にそれが。
俺を『刻の護り手』と知る、楽しそうな少女のような声と、少し面倒そうな少年のような声が、辺りに響くように聞こえた。
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