04-23 陥落する東
ギアと戦い続ける毎日。
戦う度に仲間は減り、また補充される。
そんな毎日は、まるでギアのために身を差し出す生け贄の生産工場のようだと、太名は感じていた。
昔はよかった。
信頼できる仲間がいて、ギアと戦うために切磋琢磨し、ギアから世界を救うと若き血潮を滾らせた、『狂乱』と呼ばれ、鞘走る火と駆け抜けたあの日が懐かしい。
今は老い、そんなことさえ考えることもなく、ただ生け贄を送り込む毎日。
人類は、間もなく滅ぶだろう。
水原が作り出した、人類がギアと戦うために作り出した兵器。
決戦兵器・神具。そして我等がメインウェポンである人具。
今はそれも数を失い扱われることはない。
そんな情勢に、人具を量産することができる三原が現れた。
だが、いくら三原が人具を作り出そうが、それを扱う人がいない。
戦える人類がいないのだ。
志し高くギアを世界から追い出そうと東の激戦区へと訪れる守護者候補生も、言ってしまえばただの経験のない人だ。
ギアと戦える武器も渡されず、渡される武器はただの鉄の塊。人具のような特殊なギアを叩いても壊れない硬い武器と言うわけでもない物を持たされ、戦場へと送り込まれてその命を散らす。
なぜ、
滅びしかない人類。衰えていく種としての滅び。……なぜ我は老いたのだろうか。
……戦いたい。滅ぼしたい。
思うがまま、暴れたい。
だが、もはやこの体はそれさえ行えないほどに朽ちた。
くだらない人生。楽しくない人生。
また、戦友達と戦場へ。
そう、太名は思い続けていた。
戦うことに生を見出だした男が老い、戦いを奪われた。
いつしか、太名は人そのものを、老いて朽ちる人類に生まれ落ちたことを悔やみだす。
死なない体。朽ちぬ体。強靭な体。
ギアさえ簡単に倒せる力。
自分の野心を叶える体。
それらを欲しだし、そして行き着いた。
砂名財閥から知らされた、新人類という新たな力だ。
その力はギアと同じく強大。
老いることもなく。
簡単に壊れることもなく。
そして、自身の野心を叶えられる器。
それらを叶えることのできる力に、太名はすぐさま飛びついた。
新たな世界。新たな時代を感じた。
頂点に君臨する自分が見えた。
滅びを迎える人類を救い、自身が全ての頂点で全てを支配し、全てを管理する。
逆らうものは逆らえばいい。
戦いたければ戦えばいい。
闘争に明け暮れて争い続けるその世界。
簡単に何十年も使い続けた体を捨て――
太名は新たな力を得た。
求めるは、自身と同じくギアと戦う仲間達。
人類と戦い、そして、新人類とも戦う場。
戦い続け、闘争を昇華させ続ける世界。
砂名は、それに適任であった。
そして、彼が狙う大都市と化したあの町も。
全てが、太名の名の元に。風となって太名という船が漸進していく。
南を攻める砂名家との共同戦線。
砂名家より先に町を手に入れることで、砂名より戦力を増強する。
まずはそれが第一歩。
それは砂名家も了承済みで、まるでゲームのように、大都市となった橋本の町をどちらが先に手に入れるかをお互いが楽しみにしていた。
砂名からもたらされたこの力は、東でギアと戦い続けていた初老の衰えていく男に、これからも戦うことができると、歓喜を与えた。
それこそ、この世界に蔓延るギアを難なく倒せる力だ。
現に今。
太名が攻める橋本が町長として赴任している町は陥落寸前だった。
最初から相手になるはずのない戦いなのは間違いない。
なぜなら、あちらの戦力は目の前に佇む町を守るために集められた戦いを知らない一般市民で構成された兵士だ。
こちらは、東の激戦地区でギアと常に戦い、犠牲をだしながらも今攻めいる町さえ外で守り続けてきた歴戦の兵士だ。
その数も圧倒的に違う。
東からこの町へ至る各町は、すでに何ヵ月も前に制圧し、悉くを新人類に変え、繁殖のために数百人の奴隷となった男女を交配させ、新人類の生産拠点も作り上げた。
それでなくても、成人した人間を新人類に変えるだけで、何万もの同胞の群れへと膨れ上がっている。
その力をもって、東を手にいれた。
今も二千の軍勢で攻めてはいるが、後方にはいまだ待機する兵が大量に攻めいるときを待っているのだ。思いの外、橋本と他二人が善戦し、余計な被害を被っているとはいえ、まだ余裕はある。
ただ、善戦できていることが不可解だった。
あの力は何なのだろうか。
太名は明らかにこの場において異質な存在に目を向けた。
見たことのない立派な黒い日本刀の人具を持った筋肉質の男が、体に光を纏いながら、一振りするごとに新人類が二つに割れる。
その大振りの一撃の隙を突いて、新人類が飛びかかるが、すでに飛びかかった新人類は獲物を振り上げたまま首を刈られて勢いをなくしだしていた。
男は面倒そうにその体を蹴り上げどかすと、力なくもたれかかってきた新人類が、がしゃっと地面に倒れる前に次の獲物へと人具を向ける。
その傍らに首を刈ったであろう小柄な男が現れるとまた姿を消した。
先程からこのような連携で太名の兵士を切り崩していく。
筋肉質の男は見たことがないが、最初の衝突の際に何十名かの護衛ともいえる部隊を率いていた。
恐らくは町でも有力な地位の者だろうと太名は考察する。
小柄な男は橋本の息子だと記憶している。
二振の立派な人具を操り、最短・最小の動きで首をあっさりと刈り取り、姿を消して離れた場所に姿を現し目に付く兵士を斬り、また現れては斬りと、神出鬼没の動きで部隊を翻弄する。まるで暗殺者のような動きだと感じた。
そして、橋本は。
二人の少し後ろで、戦うには力不足の足かせを守りながら、兵士と戦っている。
だが、その動きは俊敏だ。
橋本が繰り出す一突き。
その華麗なる突きが放たれれば、それだけで兵士は一人、確実に地に伏す。
その風を纏う払いは、複数の兵士を上下に二つに分かれさせる。
その豪快な振り下ろしは一刀の元に左右に切り開く。
舞踊のようなその動き。一つ一つの動きが精錬された完成品。
何十もの人を守りながら、隙のないその動きは感嘆の一言だ。
その動きにつられて鼓舞されて、町民達も必死に戦っている。
その三人の闘争に喜びを覚えながら、さらに注目すべきは、その三人が持つ、光り輝く人具だとも思う。
太名は、見たことのない武器を使っていると思った。
我等新人類の体を簡単に切り裂くあの武器。
とんでもない名刀・名槍だ。
あのようなものがこの世界にまだ残っていたのか。と。
……いや、火之村の持っていた名刀でさえ、過去の戦いで消え失せた。
あのような掘り出し物はないはずだ。
やはり、あれは人具。
三原の最新モデルだとすると、三原の腕は一体どれほどなのか。
どれだけあの人具を作り出したのか。
脅威ではある。だが、やはり、三原は欲しい。
三原の力を持って、我等の戦力の強化が確実に行える。
この町にいるはずだ。
蹂躙し見つけ出し服従させ、我等に有益な物を作らせるべきだ。いや、三原は我らのためにそうすべきだ。
そして、あの二人も。
あのような優秀な人材がこの町にいるとは思っていなかったが、あの二人は欲しい。
二人が新人類となれば、より強くなる。
我が世界への羽ばたきの手駒にちょうどいい。
……橋本はいらん。
あいつは我に与するくらいなら死を選ぶだろう。
太名は自身の計画が少しずつ現実味を帯びてきたことに喜びを感じながら、背後に控える兵士達に合図を送るため、手を振り上げた。
南では砂名も戦いを始めている頃だ。
自分が描く世界進出への計画をこのような初歩の段階で躓くわけにはいかない。
楽しい時間を終わりにし、一気に攻め上がり、新たな仲間を作る出すためにこの戦いを終わらせよう。
そして、あれらを全て手中に治める。
戦いの終わりを体中で感じながら、太名は腕を振り下ろした。
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